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中央・城北地区 株式会社アーク情報システム

株式会社アーク情報システム 数理解析に一日の長。ニッチな市場を求め、積み重ねた技術力で情報産業を生き抜く

株式会社アーク情報システム

数理解析に一日の長。ニッチな市場を求め、積み重ねた技術力で情報産業を生き抜く

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株式会社アーク情報システム

数理解析に一日の長。ニッチな市場を求め、積み重ねた技術力で情報産業を生き抜く

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技術力向上ストーリー
数理解析に一日の長。ニッチな市場を求め、積み重ねた技術力で情報産業を生き抜く

 積み重ねてきた構造解析・流体解析の技術を武器に、目まぐるしく変化する情報産業を約30年間生き抜いてきた株式会社アーク情報システム。一時はソフトウェア業界で下火になった解析技術を守り続けてきたことが今日の発展を築いた。同社がいかにして技術を蓄積してきたのか。その答えは“ニッチ”を追い求める姿勢にあった。

ターニングポイントは阪神淡路大震災

 流行り廃りの激しい情報産業を約30年間、生き抜くのは並みのことではない。変化に流されない強力な“軸”を持つ一方で、社会の求めに対応する“柔軟性”を兼ね備えていなければならない。そのバランスが難しい。
 アーク情報システムが誕生した1987年は、企業で使われるコンピューターが、大型汎用機から、ワークステーションへ移行し始めた時期。時代の変化は目まぐるしく、間もなくするとウィンドウズが発売されPCが爆発的に普及していく。
 ワークステーション時代からソフトウェア開発を手がける同社は、時代の流れにあわせてPCソフトへ移行。セキュリティソフトや業務系アプリなど幅広い分野に対応してきた。中でも、創業時からノウハウを蓄積してきた構造解析・流体解析といった数理解析分野には一日の長がある。
 世の中にあるさまざまな現象を数学的に解析し、シミュレーションするのが数値解析といわれる世界。その中で地震に焦点を絞ったのが同社の構造解析分野だ。コンピューター上に地盤と構造物を造り、そこに地震のデータを加えると、地盤と構造物がどう動き、どれくらいの負荷がかかり、どのように挙動するかが可視化される。地震に対する構造物の安全性を検証するために、建設業界では不可欠なソフトの一つといわれる。
 同社が大成建設と共同開発した「TDAP(ティーダップ)」という解析ソフトは、ワークステーション時代からアップデートを繰り返し、いまなお現役で確固たる地位に君臨する。飛躍のきっかけになったのは、1995年に発生した阪神淡路大震災だった。
 「建物の倒壊被害が甚大でしたが、特に高速道路がひっくり返ってしまった映像は衝撃的でした。あの震災をきっかけに国は耐震設計のあり方を根本から見直すことになりました。そこで、当時すでに新しい設計方法に対応していたTDAPが注目されたのです」
 と、当時を振り返るのは碇邦一社長。
 それまでの耐震基準が採用していたのは「静解析」といわれる解析方法で、構造物にかかる負荷を仮定して耐久性をシミュレーションするものだった。だが言うまでもなく、地震は一定時間、断続的に続くため、その間構造物にかかる負荷が蓄積し、最大値を超えることもある。
 阪神淡路大震災では、建物の倒壊が未曾有の大災害を引き起こしたが、静解析を基準にした耐久性では問題ないとされているものが多く含まれていたという。つまり、静解析では地震の負荷を正確にシミュレーションできないケースがあることから、新しい耐震基準では時系列にシミュレーションする「動解析」という手法が採用されることになった。その動解析に対応していたのがTDAPだったというわけだ。奇しくも、地震発生の前年にワークステーション用からPC用への移行を完了させていたことが、業界内で一歩リードするターニングポイントになったのだ。

body1-1.jpg会社の歴史を語る碇邦一社長

理念を貫き、つないだ技術が今日をつくる

 こうして同社を支える数理解析事業だが、一時は売り上げが減り、存続の危機に陥ったこともあるという。今でこそ、解析ソフトを扱うソフトウェアメーカーは少数になってしまったが、一昔前までは競合も多く、市場はにぎわっていた。しかし、2000年代の建設不況時にはソフトウェアメーカーに対する需要が激減。多くの企業が撤退を余儀なくされたのだ。
 同社もまた、苦しい局面に立たされ、存続か撤退かの選択を迫られた。そんな時、社長は「ニッチなものを作り続ける」というアーク情報システムの経営理念に立ち返り、事業存続を決めた。
「ニッチというのは、つまり競合相手のいないところで商売をするということです。多くのメーカーが撤退したということは、そこはニッチな世界。だから、ぐっとガマンして続けようと思ったのです。せっかくの人材を無駄にしてはいけないという思いで、技術を絶やさなかったことが今につながりました」(碇社長)
 苦境の中にあっても、会社の掲げた経営理念を信じて、貫いてきたことが、得がたい強みとなって今日のアーク情報システムを支えている。

body2-1.jpgピンチを乗り越えたからこそ、今はみんなでにっこり。

次世代の解析技術を製品に。若き技術者の挑戦

 「ニッチはすぐニッチではなくなってしまいます」という碇社長がいうように、ニッチを狙う企業は常に新しい市場を探して進化していかなければならない。それは技術的支柱となった数理解析も同じこと。
 数理解析の新たな可能性を探るべく、自らプロジェクトを立ち上げ、製品開発に勤しんでいるのは、入社3年目の市川享祐さん(入社3年)。
「解析はシミュレーションをしてみてもうまくいかないことのほうが多いんですよ。そこに自分なりの仮説を立てて、再挑戦するとうまくいく。こういう流れがおもしろいんです。物理的な実験と違って、シミュレーションは思ったことをすぐ試せるので、試行錯誤のしがいがあります」
 楽しげに解析の魅力を語る市川さんは、学生時代から解析を専攻していた筋金入りの“解析好き”。数値解析とは縁の深いCGプログラミングも趣味でやっていたという、同社にピタリとはまった人材だ。
 市川さんが立ち上げたのは「粒子法プロジェクト」というもの。粒子法は、現在の解析方法の主流である「有限要素法」に代わる次世代の解析方法として注目されている手法だ。有限要素法では、建物のどこが破壊されるか自分で仮説を立ててシミュレーションする。つまり、その仮定が間違っていれば、シミュレーション結果も間違っていることになる。
 その点、粒子法なら「どこが壊れるか」という計算もコンピューターがしてくれるため、より精度の高いシミュレーションができるようになるのだ。まだ確立したばかりの新しい手法のため、参入する業者も少ないまさにニッチな世界。その製品化を目指すのが同プロジェクトだ。
 「ずっとCGプログラミングをやりたいという思いがあって、この粒子法だとCGを使うところまでもっていけそうでした。幸い、上司が『挑戦したいことがあったらやってみなさい』というスタンスだったので、気軽な気持ちで立ち上げました」
 同期の社員と一緒に、新しいものを作れるワクワク感を胸にスタートを切った同プロジェクトだが、のっけから暗礁に乗り上げる。同期社員と意見がまったく合わないのだ。意見の対立から険悪なムードになり、一時は別々のものを作るという話にまでなりかけた。
 「でも、やっぱり一人の力で作っていくのは限界があるんですよね。それで、わからないことを相談するようにしたら、いいアイディアが出てくる。そうするとだんだん打ち解けてきて、いまではちゃんと二人で一つのものを作っています」
 プロジェクト発足から1年。大きな壁を乗り越え、製品化まであと少しのところまで形にすることができた。製品化を目指す企業での研究は、大学での研究とは違った意義を感じるという市川さん。「新しい理論をどんどん考えて、それを製品に載せて、発表していきたい!」と語る姿に頼もしさを感じた。

body3-1.jpg形になった「粒子法」の画面と市川享祐さん

暗号化に魅せられて。働きながらドクターを目指す

 技術的支柱が数理解析なら、経営的支柱となるのは業務系アプリの開発事業。セキュリティ・画像解析・CADなどのソフトがその代表だ。
 セキュリティ分野の一つ、属性ベース暗号の開発を手がける飯田咲里さんは、情報セキュリティ大学院大学との共同プロジェクトに参加したことがきっかけで、現在、大学院で博士号を目指す学生でもある。
 属性ベース暗号は、暗号化したファイルを特定の人だけが開けるように設定できる仕組みのこと。研究としては進められてきたが、製品化への壁は高いといわれている。というのも、セキュリティソフトは安心感が一番。ユーザーにとっては、多くの人が使っているものの方が安心で、新しいものはどんなに高機能であっても敬遠されてしまう傾向があるのだ。
 「これはネームバリューによるところもあるので難しいところです。ちゃんとした研究者が考えて、安全性も証明されているのですが、それをどう発信していくか。共同プロジェクトを通して、そんなことを考えるきっかけになりました」
 プロジェクトの一環として修士課程に通うことになると、知れば知るほど奥が深い暗号の研究にのめりこんでいった。晴れて修士を修了したあとも、研究を続けたいという思いは強く残り、博士号を取るべく会社に直訴。研究のために金曜を休みにしてもらい、仕事内容もセーブしてもらう特例措置が取られた。今年10月からは博士課程に通う生活が始まり、休日と平日の会社帰りに大学に行って、研究を続ける毎日だという。
 大学は、知識を深めるだけでなく、人脈づくりも大きな目的の一つ。積極的に論文を発表したり、勉強会に顔を出したりして、研究者同士のネットワークを作れれば、これからの新しい研究につながっていくのではないかと夢を膨らませる。その一方で会社人であることも忘れない。仕事をセーブせざるを得ない状況での心構えもしっかりしている。
 「本音をいうと、仕事でももっとバリバリ開発に携わりたいですね。ドクターを取るまでの3年間も生活の大部分は仕事です。この間に何も成長できないのはもったいないですから」
 すでに“開発魂”はうずいている様子。3年間の研究生活を終えて、飯田さんがどんな製品を生み出すのか楽しみだ。業務系でニッチな市場を開拓し、固定客をつかむのは当面の課題と、碇社長も期待を寄せる。これからアーク情報システムがどんなニッチを発掘するのかに注目したい。

body4-1.jpg研究の日々を語る飯田咲里さん

編集部からのメッセージ

プロジェクトの進行には社内の理解が不可欠

 入社3年にして早くも一つのプロジェクトを立ち上げ、進行する市川さん。学んだこともさぞかし多いに違いない。
 「技術はいうまでもなく、会社でのコミュニケーションの大事さを学びましたね。プロジェクトに関わる一方、それ以外の仕事もこなす中で、どうすればうまく時間を作れるか考えてみました。部内のホームページにプロジェクトの概要と進捗を載せておいたんです。そうしたらいろんな部署のいろんな人が反応してくれ、粒子法の話題を振ってくれたり、他の企業が行っている流体実験に連れて行ってくれたりして、積極的に協力してくれたんです。プロジェクトを進めるには、社内の人の理解を得るのが大切だと実に大きい収穫ですね」


 入社時、ITスキルはほぼゼロだったという飯田さん。基本のプログラミングをはじめ、その時々で興味のある資格も積極的に取得してきた。できることが増えていくのが仕事のやりがいなのだという。そして、現在の興味の対象が暗号化というわけだ。

できることが増えていく。それがやりがい

 「知らないことがたくさんあって、勉強してみると本当におもしろい。暗号化は、数学をうまく使っていることが多く、数学に対する考え方も変わりましたね。こんなにおもしろいのか、と」
 実務経験で培ったプログラミングスキルと、興味に向かってひた走る研究者としての面が、おもしろい化学反応を起こしそうだ。

  • 社名:株式会社アーク情報システム
  • 設立年・創業年:設立年 1987年
  • 資本金:3億600万円
  • 代表者名:代表取締役社長 佐藤 順一
  • 従業員数:128名(内、女性従業員数24名)
  • 所在地:102-0076 東京都千代田区五番町4-2 東プレビル
  • TEL:03-3234-9231
  • URL:http://www.ark-info-sys.co.jp
  • 採用情報:こちらからご確認ください。