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城東地区 株式会社ヒキフネ

株式会社ヒキフネ 若手職人の育成に取り組み、世界品質を誇るめっき加工技術を継承する

株式会社ヒキフネ

若手職人の育成に取り組み、世界品質を誇るめっき加工技術を継承する

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城東地区

株式会社ヒキフネ

若手職人の育成に取り組み、世界品質を誇るめっき加工技術を継承する

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品質を守る技術力ストーリー
若手職人の育成に取り組み、世界品質を誇るめっき加工技術を継承する

 車やコンピュータ、家電から装飾品に至るまであらゆる工業用品で欠かせないめっき加工。ヒキフネはめっき業界にあって、技術はいうに及ばす、独自の人材育成でも注目を浴びる企業。業界がアジア諸国に切迫される中、連綿と受け継がれてきた確かな技術で世界に羽ばたく同社の技術継承の秘密に迫った。

高品質のものづくりは職人が頼り。人を第一に考える風土

 めっきは剥げるという諺がある。いくら表面を綺麗に着飾っても、内面が磨かれていなければ、いつかその磨かれない部分が表に出てしまうという意味である。決してめっきが悪いわけではない。見栄えを演出してくれる素材性質を認める褒めことばと考えてもいいだろう。事実、世界的なブランド品の装飾としてめっきが多用されている。見栄えだけではない。高度な安全性を求められる自動車をはじめとした工業製品や家電製品などのあらゆる部品にもめっきが施されている。熱や電流を制御するなど、その機能はものづくりの現場で不可欠の加工素材と言っても過言ではない。ただし、それは素材の性質にすぎない。めっきを施すにはかなりの高度技術が欠かせない。
 「全従業員が豊かになる」を企業理念に1932年に創業し、ものづくり日本の経済成長に貢献してきた株式会社ヒキフネは、「現代の名工」として表彰された石川進造相談役をはじめ、熟練した職人の技で、今日の信頼を築いてきた。しかし、工業先進国日本を支えてきた技術とはいえ、加工業分野は工賃競争が激しく、アジア諸国に押しに押されている状況。実際、最盛期では都内に1,000を超すめっき加工企業があったが、現在は400社ほどに減少している。その逆風の中で業績を上げる同社の強みは、技術力もさることながら、その技術を伝承する人材育成にあると胸を張るのは総務部取締役部長の鈴木昌史さん。めっきは、施す素材の性質や形状ごとに加工方法が違うため、工程のすべてを機械任せにすることは難しく、高度な技術者に頼るところが大きい。また、出来上がった製品の品質チェックをするのにも人の目を通して行う。つまり、どんなに優れた機械よりも人が重視されるのだ。ヒキフネでは会社を牽引する職人を育成するべく、従業員を豊かにすることを第一に考え、新人教育や公平な社員評価、外部研修プログラムなど、多角的な支援体制で社員のレベルアップを図っている。
 めっき加工の工程をざっくりと追っていくと、脱脂、湯洗、薬品によるサビ取り、めっきといった流れで進んでいく。新入社員は、それら一つひとつを順番に担当し、それぞれの工程にどのような意味があるのか、作業の全体像はどうなっているのかを理解していく。機械で自動化されて漫然と組み立てをするような流れ作業ではなく、めっきの溶液の開発も含め、すべての工程に関わるからこそ、ものづくりの醍醐味を味わえるというのはモチベーションアップ、ひいては効率にも大きく影響する。この社員教育過程で、一人ひとりの適性も見分けられ、やがてそれぞれ適材適所に配属される。たとえば、営業部に配属された社員は、作業工程を理解していることで、クライアントの要望に的確に対応できるといった目に見える形で知識が役立つことになる。もちろん、営業に限らず、直結する品質保証部門は言うに及ばず、総務や人事に配属された社員でも、日々の業務で知識は大いに役立つ。

body1-1.jpg事務所に隣接した工場で、社員一丸となってめっき加工が行われている

品質をチェックする職人の目。技術を確実に継承していく

 関口将士さんが所属するのは品質保証部門。めっき加工が施された品がクライアントの要求通りの仕上がりになっているのかをチェックする確認工程の要であり、めっきに精通した熟練にしか務まらない大役。関口さんは、ヒキフネの教育制度のもと、10年ほどのキャリアを積んできた。
「溶液の温度が2℃違っただけで不具合が起きるというほどにめっきは繊細なんです。不具合が見つかったときは、どの工程で問題があったのかをいち早く解明しなければなりませんから、各工程の意味が分かっていないととても対処できません」とめっき加工の難しさを語る。
 現場とのやり取りが欠かせない品質保証部は、ときに現場の職人と主張がぶつかることもある。そこでは冷静に原因を突き詰めていく必要がある。当然、現場スタッフからの信頼も不可欠。それを築くには、コミュニケーション能力も磨かなければならない。さらに、会社の共有資料となる報告書をつくるドキュメント作成力も欠かせない能力だ。めっきに関する専門的な技能だけでなく、これらのような総合的な人間力を高めるために、外部研修を受講する機会も提供されている。関口さんは入社1年目で、将来必要になるとの上司の判断でリーダーシップ研修を受講。以降も定期的に円滑な作業をするための考えた方や、人との接し方、最新のめっき加工技術などの講習を利用している。ヒキフネの魅力のひとつは、各社員に適した教育プログラムを会社側が用意していることだ。充実した支援体制は社員のやる気を引き出し、さらなる成長を促す。「めっきの知識はもちろんですが、めっきを施す材料についても学んでいきたいです。材質や研磨の方法、プレス、塗装といった製品ができるまでの流れ全体を理解することで、さらに質の高いめっき加工が実現できるでしょう」と関口さんは今後の展望を語る。
 また、ヒキフネでは、社員評価制度も明確だ。腕前がものをいう職人の世界では、第三者が見て分かりやすい定量的な評価を下しづらいという側面がある。それを克服すべく導入したのが、スキルアップシートである。これは各工程を細分化して、できることを点数化。つまり、技術を数値化することで感覚的な判断を排除しようという試みである。正当な評価は社員のモチベーションを上げるだけに留まらず、今の自分には何が足りないのか、何を学べばいいのかが目に見えて分かるため、より早い成長が見込める。
さらに、事業を通じて得た利益を社員に還元することも欠かさない。決算期に目標金額を超えた場合、超えた分の20%をボーナスとして支給。働いた分だけ社員を労う仕組みは、真に人を大事にしている企業風土のなによりの証明といえよう。
 人材育成に並んでヒキフネの強みを支えているのが、 “ヒキフネ大百科”だ。めっき技術のコツや過去に起こった不具合の対策などをまとめた資料集で、創業当時からコツコツと蓄積された歴代の職人たちの知識の集合体だ。コンピュータで管理された膨大な量のこの資料には、最新のめっき加工技術を学んだ職人たちも追記し、社内の誰もが閲覧できる。たとえば、品質チェックをする際の部屋の明るさや、手にとって見る際の角度など、製品ごとに適した検査環境を整えるための情報などは、関口さんの所属する検品部門の心強い教材となる。こうしたノウハウを記した資料は、確実に次代の職人に技術継承をするのに大いに貢献。それを如実に物語るのが、「全員の参画」「継続的改善」を理念とする、国際標準規格として認められているISO9001の取得である。2008年版への移行も果たしているから、教育制度の体系化は成功しているといっていいだろう。

body2-1.jpgめっきには人の手が欠かせない

国外拠点も設立。めっきはいつの時代も求められる

 活躍目覚ましい同社だが、業界全体の動向は、不況の波に押されて芳しくないのが現状だという。それでも、職人のワザに裏打ちされた確かな技術をもつ企業の需要がなくなることはない。いつの時代でも高品質のものならば必ず求められることだと社員たちは自信をのぞかせる。
 事実、世界のなかでもトップクラスの品質を誇るヒキフネのめっきの技術は、通信や自動車などありとあらゆる分野での信頼を盤石なものとし、取引先の生産拠点移転に合わせ、タイへの進出も果たしている。新たな土地で事業を軌道に乗せるのは一筋縄にはいかないが、地域に密着し、人を豊かにすることを標榜する同社は、今後も世界を股にかけ、確固たる“ヒキフネ”ブランドを確立していくことだろう。

body3-1.jpgめっきは、ものづくりの現場に欠かせません

編集部からのメッセージ

地域との和を重んじ、夏祭りを主催


 毎年8月には、ヒキフネ主催で夏祭りを開催、地域住民との交流を図っている。社員が一丸となって、焼きそばやわたあめの屋台、やぐらなどを組み、すべて自前で作り上げる。30年以上の歴史の中には、参加した地元の子どもが同社に就職したというエピソードもある。

edit-1.jpgedit-2.jpg毎年8月に同社が主催する夏祭り

経営者の考えをオープンにする社風


 毎月、代表取締役の石川英孝社長による経営方針の説明や各部署の現状報告が行われる月例会が開かれている。また、一人につき2500円のコミュニケーション手当が支給される部署ごとの懇親会も月の恒例行事となっている。その席に石川社長が同席し、今後の事業などについて、忌憚のない意見が交わされる。20年以上続くこの習慣は、風通しのいいヒキフネの風物詩と社員の間で評されている。