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城東地区 育栄建設株式会社

育栄建設株式会社 休む=悪ではない。業界の常識を覆して、余暇の取りやすい職場を目指す。

育栄建設株式会社

休む=悪ではない。業界の常識を覆して、余暇の取りやすい職場を目指す。

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城東地区

育栄建設株式会社

休む=悪ではない。業界の常識を覆して、余暇の取りやすい職場を目指す。

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働き方改善ストーリー
休む=悪ではない。業界の常識を覆して、余暇の取りやすい職場を目指す。

 建設業界に先駆けてライフ・ワーク・バランスの取れた職場作りに取り組んでいる育栄建設。その実現の鍵は“元請になること”だった。

職場環境を良くするために、主要取引先を変更する

 残業時間の短縮や有給休暇取得の推進などを通して、ライフ・ワーク・バランスの推進に取り組む企業が増えている。しかし、その一方で働き方が不規則な業界の中には、「難しい」と最初から諦めてしまっているケースも見受けられる。建設業界もそうした傾向が色濃いと言われているが、首都圏を中心に建築物の施工管理を手掛けている育栄建設では、業界の常識を覆すべく、働きやすい環境作りに取り組んできた。
 「業務の都合もありますが、原則、定時の17時半に帰宅してもらいますし、休日出勤した場合は代休を必ず取るように促しています。2017年のゴールデンウィークはたまたま閑散期だったこともあって、社員全員で9連休を取得しました。世間では『休むのが悪』だという古い考え方がまだまだありますが、体を休めなくては良い仕事はできないと思っているからこそ、積極的に制度改革を行ってきました」
 と語るのは、労働環境改善の旗振り役となった水落清代表だ。
 そもそも水落代表は大学卒業後に家業である育栄建設に入社した後、20代中盤以降は旅行業界やIT業界で勤務。2008年ごろ再び同社に復帰したときに、危機感を覚えたという。
 「別業界でライフ・ワーク・バランスが進んでいるのを間近に見てきただけに、復帰後、自社の労働環境が未整備な点に先行きの不安を覚えました。徐々に勤務体系を整備していくなどして変革を推し進め、2012年に2代目の代表として就任してからは、抜本的な労働環境改善に着手。そのために仕事の受注割合を変える決断をしました」
 従来、同社では主に大手ゼネコンの下請として活躍してきた。非常に難易度の高い案件を任せられるなど、技術的には絶大の信頼を寄せられていたが、下請という立場では労働時間を自由にコントロールできない問題があったという。
 「発注者から直接、仕事をもらう“元請”となれば、現場を自分たちの権限で管理できる分、自由に働き方が描きやすくなります。そうはいうものの、いきなり民間のお客様が当社に発注してくれるはずがありません。そこで、入札の体系が明確になっている公共事業から始めようと、地元台東区発注案件の受注を目指していきました」
 と、水落代表は当時を振り返る。

body1-1.jpg水落清代表は、より良い職場環境作りに全力を尽くしてきた

余暇は人間性を育むことに繋がる

 実はそれまで単独で公共工事を手掛けた実績はなかった。ほぼ下請専門だったことから、元請ならではのネットワークもなく、手探りで情報を集めるほかなかった。それでも水落代表が試行錯誤しながら入札に臨んだ結果、2013年に台東区の案件――浅草公会堂前の路上にある“スターの手形”の増設工事を初受注。幸いにも、有名な観光名所を手掛けたことは自信と勢いになった。次第に公共工事のコツもつかめるようになり、受注数も増え、2014年には東京都、2016年には各省庁工事の入札参加資格を取得するに至る。
 「書類管理などの公共工事独特の事務作業に慣れるまでの難しさはありましたが、大手ゼネコンで鍛えられた技術があるので品質面では自信を持っていました。公的機関の厳しい要求にも的確に応えられたと思っています」(水落代表)
 結果、公共工事の受注を目指してわずか5年で、元請案件が全体の8割に達した。売上げとしても、取引先の転換期に一時期苦しんだものの、2017年は水落代表就任時の倍近くに届こうとしている。
 往々にして売上げが拡大するのに伴って、社員の労働時間が急増というのはよくある話。しかし、同社は、水落代表の強い思いがある。スケジュールが押し迫っている場合はやむを得ない残業はあるものの、取り立てて予定がない日は、基本は定時上がりだ。
 「建設は人と人との関係性によって成り立つもの。だからこそ、他社との差別化を図るには施工管理者の人間性が大切です。様々な事柄によって人間性は育まれるものですが、余裕のある働き方も重要な要素ではないでしょうか」
 「休むのが悪」と考える社員はもういない。頭を切り替えるための大切な時間だという事実を、全員が共有していることが同社の成長の一つの力となっているのは間違いない。

body2-1.jpg水落代表も実は文系出身。分からない人間の気持ちを理解した指導を実践している

女性施工管理者も違和感なく溶け込める職場を作る

 改善された労働環境が一つのセールスポイントとなり、2016年初頭からは若手の新人を数人採用することもできた。その中の一人が上松志穂さんだ。これまでに官庁系の宿舎の改修工事をはじめ、同社が最近の得意分野としている公共工事を数多く手がけてきた。
 施工管理業界はまだまだ女性は少数派。力仕事だと思われている部分が大きいが、実際は職人に指示を送る指揮者的な役割を担っているだけに、重いモノを持つような仕事はほとんどないという。筋力の男女差はあまり関係ない。しかも同社の場合、女性の施工管理者にとって働きやすい環境も整備。元請案件が増えたことで現場事務所のレイアウトも自分たちで決められることから、更衣室やトイレなども男女別に分けるなど、女性も違和感なく働ける。
 「代表も話していますが、施工管理とは2次元で描かれた図面を3次元の立体物に変換していく仕事です。そのためにお客様や職人ら多くの人の間に立ち、必要な資材やお金の管理も行いながら円滑にコミュニケーションしていくのが使命です。素直に人の声に耳を傾ける資質があれば、誰でも十分にやっていけると思います」
 かく言う上松さんは、文系の出身。前職でCADオペレーターを経験したのをきっかけに、建築に深く携わりたいと思うようになり、未経験者でも積極採用する同社の門を叩いた。知識面での苦労はあったというが、上司が時間をかけて指導をしてくれ、また社内で資格取得補助制度なども整っていたのが心強かったと話す。そして、会社の補助で専門学校に通うこともでき、2級建築施工管理技士を獲得できたと喜ぶ。手厚い教育も又、同社のセールスポイントなのである。

body3-1.jpgメジャーや安全帯は施工管理者必須の道具。その使い方から同社では丁寧に指導する

子育てにも積極的に参加。余裕ある暮らしを実現

 2016年11月に入社した遠藤正之さんも文系学部出身で、ほぼ施工管理経験なしで同社に飛び込んだ。中途入社ながら社長とマンツーマンでの研修を受けて、“建築とは何ぞや”を学んだ後、学校・保育園の改修、空港に隣接する建物の改修といった比較的規模の大きな公共工事に携わってきた。
 「どちらの案件でも工程を撮影したり、着工前の書類の準備をしたりといった仕事を受け持ってきました。現場で使う言葉や専門用語は、研修で学んだ教科書どおりというわけではなく、実践の中で身に付けるべきことが多々あると痛感させられています。覚えるべきことがたくさんあって毎日が目まぐるしいばかりですが、苦労を乗り越えて完成したときの達成感が非常に大きいので、モチベーションを高く持って仕事に臨むことができています」
 そんな遠藤さんの実家は防災設備の工事会社。作業着姿の父親の姿を見てきたことが、施工管理者を目指すきっかけの一つになったと言う。実はある中学校の改修では防災設備の工事が必要となり、遠藤さんの実家とタッグを組むことになったと顔をほころばす。
 「寡黙な父は何も言いませんでしたが、祖母は喜びの声を上げてくれました。きっと少しは嬉しさを感じてくれていたんだと思います」
 家族といえば、遠藤さんは2017年春に第1子を授かった。男性でも育休が取得できることから、出産日と退院日にはそれぞれ育休を取った。残業が少ないので、子育てにも参加しやすいメリットもある。
 余暇を利用して、建築について学びを深める時間も取れているそうだ。余裕を持って暮らせる日々が、自分を更に高めていると遠藤さんは感じている。

body4-1.jpg現場代理人として早く独り立ちするのが遠藤さんの目標だ

編集部メモ

未経験者を育て上げる文化が根付く


 同社では職場環境の改善のみならず、人を育てるという面でも積極的に投資を行っている。例えば、建築施工管理技士の資格に関しては数十万円の通学費用を全額バックアップ。CADや足場組立て、高所作業などの社外講習にも送り出しており、費用が会社負担なのはもちろん、“出勤扱い”で受講できるという待遇で挑戦を促している。
 昇級昇進制度も整えており、一般職である“1級”から部長クラスの“6級”までキメ細かく設定。昇給に必要な知識やスキルも細分化されているため、ランクアップを目指す上での目標も設定しやすいと社員は評価する。
 一線級の案件を手掛けてきたベテランぞろいの会社でもあるだけに、過去に蓄積してきた豊富なノウハウこそが、人を育てる上での最大の財産だと言えるだろう。先輩たちも持てる知識を惜しみなく伝授するという文化も根付く。だからこそ、同社では未経験者も、文系出身者も自信を持って活躍をしているのである。

edit-1.jpg育栄建設では企業理念として「育む」「挑む」「栄える」の三つの言葉を掲げている