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有限会社丸幸水産

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子どもたちの「美味しい」を支えたい 給食を通じて魚の食文化を支える

魚屋目線で美味しさにこだわった魚介類を届けるストーリー
子どもたちの「美味しい」を支えたい 給食を通じて魚の食文化を支える

人気の給食メニューといえば揚げパン、カレー、ソフトめん…。食の欧米化が進む中、魚を食べ慣れていない子どもたちに「美味しい魚を届けたい」と、丸幸水産は水産物の切身加工品を小中学校や保育園、病院などの給食用に提供している。「たとえ今、魚が好きじゃなくても、大人になって食べられるように」と鮮度や産地にもこだわっている。

チルド・国産を中心に美味しさを追求


 水産物の加工場では、白衣に身を包んだ従業員が、きれいに研がれた包丁を片手に、サケ、ブリ、イカを次々と手際よくさばいていく。冷蔵庫はすでに処理済みや、この後の加工を待つ食材で一杯だ。今、加工しているものは、すべて翌日の給食になる。
 丸幸水産は、都内10 区の小中学校約350 校に水産加工品や給食の食材全般を卸している。全国から取り寄せた魚介類は、築地から運ばれ、総勢10 人の従業員が、3枚おろしにしたり一口サイズに切り刻んだりする。大規模校向けであれば、1 度に3 千~ 4 千枚のアジを開くことも稀ではない。
 「このアジは、水揚地の佐賀で下処理をして、チルドで空輸しました。冷凍とは口にしたときのふかふか感が違います。値段は割高ですが、美味しい記憶はずっと残りますから。大人になっても好きな給食メニューの話をすることがあるでしょう?子どものうちは苦手でも、口にする習慣があると、歳を重ねてから食べられるようになる傾向が高いんです。特に魚介類の食感や食味には、魚屋目線で、まずいものは出せません。高い基準を意識して、加工しています」
 小堺社長は、冷凍が一般的な給食用食材で、漁獲から使用まで『生(=チルド)』にこだわる理由をそう説明する。
 魚介類は国産が中心。一般家庭では日常的にはなかなか手が出ない贅沢な食材もある。加工はすべて従業員の手作業で行う。加工場の洗浄には薬品を使わずに、オゾン水で除菌する。すべて、「学校給食の予算の中で、最大限に美味しいものを提供したい」というこだわりを追求した結果だ。
 丸幸水産では、海苔などの乾物、缶詰、野菜、卵など、水産加工品以外も、ニーズに応じて提供する。そのため、何千種類にも及ぶ食材を大量に仕入れることで、コストを下げ、その分、より質の高い魚介類の仕入れに充てている。プロの魚屋ならではのやりくりだ。

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ぷりっぷりの新鮮なタコ。冷凍よりもチルドで、翌日の給食用だけに加工する。同社の美味しさへのこだわりが、都内の子どもたちの魚介類に対する味覚を育てている

実践的にスキルアップ 社員の資格取得を会社が積極支援


 「昔、数人で加工場を回していたときは毎晩、遅くまで残業していました。今は人数も増え、従業員のスキルもアップしてきたので、残業はほぼありませんね」
 加工場では、同業から転職した熟練の従業員はもちろん、ほぼ未経験から仕事を始めた、20 ~ 30 代の若手も活躍している。新入社員は、イカの角切りなど、初めは単純な作業で包丁遣いの基礎を身に付ける。ベテランになると、大きな魚1尾をおろすことから任され、仕事の幅が広がり、責任感も増す。
 「技術向上にある程度の時間は必要ですが、経験はまったく問いません。美味しい食材を自らの包丁で提供したいという気持ちが本人にあるかどうかが重要です。OJT で先輩から実践的に教わりながら覚えていくことができます」
 その日によって、学校が注文する食材にはばらつきがあるので、現場の従業員がうまく連携しながら、工夫して効率よく作業を進めるチームワークも求められる。個々のスキルアップも図りながら、先輩と共同作業を通じて、現場で和気あいあいと仕事できる点も、若手従業員のやりがいにつながっている。
 魚や食材に関する資格取得を会社が支援し、魚を美味しく食べるため、魚介類にまつわる知識や調理法を学ぶ「おさかなマイスター」に小堺社長が認定されているほか、ジュニア野菜ソムリエ、食育マイスターなど、多数の社員が果敢に挑戦している。会議室には社員の資格証がずらりと並ぶ。会社としても社員の資格取得を積極的に支援し、水産物や食に対する啓もう活動を行っていることは、社員にとっても心強い。

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「会社の自慢は?」との質問に、「当社は人」と迷うことなく答える小堺社長。「水産物を高品質、適正価格で提供し、『おいしい』という笑顔と感動、心の豊かさに貢献する」との経営理念を掲げる

食を扱う責任とやりがい 人物重視で若手も活躍


 丸幸水産の朝は早い。6 時から、前日に加工した食材の配送トラックへの積み込みが始まる。学校の食材受け入れ可能な時間は限られているので、7〜 9 時には配送を終える。
 関東地方で大雪が降った際は、物流が止まり、小堺社長が川崎まで引き取りに行ったこともあった。また2017 年末から2018 年にかけての冬は、インフルエンザの猛威で、学級閉鎖による急な注文変更にも悩んだ。
 「食材を扱う難しさと責任は常に感じますが、私が注文した食材を子どもたちが喜んでくれている姿を想像するとやりがいがあります」
 入社4年目の営業部の鳴海さんは、保育園からの受注と、練り製品等の発注を担当する。もともと鮨店でアルバイト経験があり、水産業界に興味があって入社した。
 食材紹介のチラシを女性の細やかな感性を活かして作成したところ、学校の栄養士から好評を博した。
 それぞれの得意分野を仕事で発揮できるほか、学校運営と密着する丸幸水産では、まとまった長い休みが取れることも特徴だ。各学期の終わりには研修会と慰労会を開催。学校の夏休み期間中には、業務量も減るため、社内でやりくりし、最大で10 日間の休みを2 回取得できる。
 また、産地視察を毎年行い、自社に限らず、栄養士向けの調理講習や、学校へ出向いて、子どもたちに魚の魅力を伝える出張授業も実施している。
 そんなフットワークの軽さを強みとする同社が採用の際、重視しているのが人柄だ。これまでは即戦力の中途採用が中心だったが、OJT や資格取得支援、産地視察など、充実した育成体制が整ってきたのを背景に、今後は新卒の採用を積極的に行い、和食を代表する魚の食文化を支えていく考えだ。

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仕事をうまくすすめるコツは「些細なことをあいまいにせず、その都度、確認すること」と、日頃の業務では誠実な対応を心掛けている鳴海さん

出張授業で魚好きの子どもを増やしたい


 学校へ出張授業を行った後日、子どもたちから届いたお手紙が私たちの仕事への情熱をかきたててくれます。手描きの絵や、一生懸命書いてくれただろう文章、ときには「体に気を付けて」と私たちを気遣うメッセージをくれる子もいて、じーんと胸が熱くなります。出張授業を通じて水産物の多彩で豊かな魅力を子どもたちに伝えたいと、ジュニア食育マイスターの資格を3年前に取得しました。
 家庭での洋食化が進み、また家族がばらばらに食事をする孤食も増えて、家ではあまり魚を食べない子が増えていると感じます。それでも、当社が提供する食材や出張授業で、お魚好きの子どもたちが少しでも増えてくれたら嬉しいです。(鳴海さん)

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子どもたちの可愛らしい手書きの絵やメッセージは、すべての社員の励みになっている

●第14号 (2018年10月発行)掲載 ※掲載内容は発行日時点のものです。

企業情報

社名
有限会社丸幸水産
設立・創業年
1963年10月
資本金
1,000 万円
代表者名
小堺 洋市
従業員数
28 名(内、女性従業員10 名)
所在地
135-0043 東京都江東区塩浜2-11-28
TEL
03-5857-5655
採用情報