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中央・城北地区 日都産業株式会社

日都産業株式会社 乳幼児のための公園遊具を作ろう。「小さな大冒険」を形にした情熱

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乳幼児のための公園遊具を作ろう。「小さな大冒険」を形にした情熱

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日都産業株式会社

乳幼児のための公園遊具を作ろう。「小さな大冒険」を形にした情熱

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いきいき新製品開発ストーリー
乳幼児のための公園遊具を作ろう。「小さな大冒険」を形にした情熱

 ジャングルジムや滑り台。子どもの頃、誰にでも遊んだ思い出があるだろう。日都産業株式会社は、安全で楽しい遊具作りを徹底し、信頼を勝ち得てきた老舗。同社の遊具にあくなき情熱を傾ける社員たちを追った。

子どもたちにいかに楽しんでもらうか

 「うちのもので倒れたものは一台もない」
 山中慎吾社長はそう言って胸を張る。1960年代に日都産業が開発した球形の回転ジャングルジム「グローブジャングル」のことだ。その人気に追随したメーカーが次々に現れたが、支柱が腐食して転倒する事故がしばしば報告され、安全性が問題視された。厳しい局面にさらされた遊具であったが、元祖グローブジャングルは、今に至るまで一台も事故を起こしたことがないという。
 「肉厚なパイプを使い、腐食対策も手を抜かなかった。安全性については絶対の自信があります」
 日都産業は公園の遊具を製造・販売している。70年近く一貫して滑り台やジャングルジムを作り続けてきた。安全性にこだわるのは製品が子ども用だからというだけではない。公園に設置されるものである以上、だれにどう使われるかわからない。想定外を出来るだけなくし、十二分に安全配慮が施されていることは、公園遊具にとって絶対不可欠な条件なのだ。
 だが、安全なだけでは遊び道具にはならない。
 「子どもは正直です。おもしろくなければそっぽを向かれてしまう。安全だけど少し冒険心をくすぐるもの。そういうものが子どもは好きですし、私たちとしても腕の見せ所なのです」

body1-1.jpg安全性と冒険心を。理念を語る山中慎吾社長

少子化の流れとともに高まったデザイン性を求める声

 かつて子どもが多かった時代、住宅地が郊外へと広がるのに併せ、次々と大小の公園が誕生した。遊具メーカーにとっては、まさに追い風の時代。できた公園に決まった形の遊具を据えていくだけでも十分に喜んでもらえた。
 風向きが変わり始めたのは、子どもの数が減少に転じた1980年頃。公園が造られることは少なくなり、既設の遊具の更新が主な仕事になっていった。ただし、それまでと同じ遊具を設置すればいいといった単純なものではない。公園を管理する自治体などからは「前とは違ったものを」という要望が寄せられ、そこでは遊具のデザイン性も問われた。
 「見た目や機能美は当然のこととして、『町のシンボルとなるような遊具を』というお声をいただくことが多くなったんです。シンボルという以上、個性的でなければなりませんから、いかに差別化するか試行錯誤。デザインを外部に委託したり、より優秀な人材を雇うようになったのもこの頃からでしたね」と山中社長は当時を振り返る。
 以来、子どもの数は減る一方で現在に至る。厳しい競争が続く中で、同社が目をつけたのが、乳幼児向けの公園遊具だ。公園遊具のほとんどは乳幼児にとって規格外。ブランコや滑り台はもとより、木馬のような遊具でも自分で上ることはできず、親が乗せて落ちないように手を添えているというのが休日の公園の光景だ。
 この状況は付添人にとっては大きな負担で出かけるのも億劫になるというのも頷ける。なるほど、家庭用ならば、ブランコ、滑り台といった乳幼児用の遊具もあるが、それでは家から出られないことになる。公園は、育児ストレスの解消にもなる憩いの場所でもある。 同社はそこに目をつけた。改めて乳幼児の遊具のニーズを探ってみると、困っているのは乳幼児を抱える家庭だけではないことがわかった。
 都市部では敷地内に園庭のない保育施設が少なくなく、近隣の公園を代替としている。しかし、乳幼児がのびのび遊べる遊具がないのが現状だ。

body2-1.jpg乳幼児がのびのび遊べて、母親同士も交流できる。

保育園に体験入園して乳幼児の目線になる

 この市場に勝算を見出した同社では2013年、乳幼児向けの公園遊具開発という新しいプロジェクトを立ち上げた。デザイナーに指名されたのは、入社2年目の内田さゆりさん。大抜擢だった。
 デザイン専門学校でプロダクトデザインを学んだ内田さんは、「みんなに見てもらえるような大きなものが作りたい」と就職先を探すなかで、公園遊具に目を留めた。
 「数社廻ったのですが、輸入品を加工しているだけの会社が多い中、日都産業はオリジナリティの高い製品が多いと感じました。おそらくここはデザイナーを大事にしてくれるのだろう」と同社への就職を決めた。
 それにしても、入社2年といえば、ようやく仕事の流れがつかめたくらいの時期。そこでの指名はうれしい反面プレッシャーもあったはず。けれども内田さんは違っていた。「とても気合いが入りました」と目を輝かせ、当時を振り返る。
 「友人たちの中には、自動車メーカーに就職した人もいますが、もちろん2年目で、プロジェクトをまるごと任されるようなことはありません。それだけに、責任の重さも感じましたが、一方で、チャレンジ精神も触発されました」(内田さん)
 デザインラフを何十件と起こし、提携している保育園に“体験入園”もした。
「保育士の先生と一緒に、子どもたちを室内遊具で遊ばせたり、お散歩にでかけたりと、やっていることは先生の手伝いなのですが、乳児の視点になって『これ楽しい!』とか『ちょっと危なかったかも』とつぶやいていましたね」
 体験で得た感覚をもとにコンセプトをまとめ方向性を決める。体験入園は合計9回にも及んだ。安全だけど、挑戦したいという気持ちにさせるもの。歩き始めたばかりの乳児でも、手をかけて登っていける形。お母さんたちが集って会話ができるスペース。新製品は内田さんの頭のなかで着々と形を現し始めていた。

body3-1.jpg乳児用遊具「りぐりぐ」の平均台の仕上がりをチェックする内田さゆりさん。高さ10~20センチと小さな子どもでも登れるが、設置条件に合わせて自由にカーブを変えられ、大人が歩いても少しワクワクする

楽しんでもらえるものを作れるのがうれしい

 「デザイナーがほんとに素敵なものを考えてくれましたから、なんとしても、よいものに仕上げないとと気を引き締めました」と語るのは設計の髙木絵美さんだ。通常、デザイナーはコンセプトとラフデザインと呼ばれるスケッチを作るところまでが仕事。そのラフをもとに、髙木さんたち製品設計のプロフェッショナルが形にしていく。それは微に入り細を穿つもので、ネジの径にいたるまで寸法を決定し、さらに、部品を発注、製品を組み立て、試作品を完成させる。
 髙木さんは入社10年を経過した中堅。大学で建築を学び、公園設計に携わりたいと日都産業に就職した。産休が明けて職場に復帰したところで、乳幼児用遊具の設計を任された。
 「安全な遊具に仕上げようとすれば、どんな些細な見落としも許されません。細部に至るまで、子どもにとって安全なものになるか、しっかり強度が確保できるか、何度も線を引き直しました」
 内田さんと一緒に保育園に赴き、子どもの目線と安全管理を考察。メジャーを片手に椅子や水道の蛇口、遊具などの寸法を測り、乳幼児に最適な高さ、広さはどれくらいなのか、確かめていった。
 「乳児も使うだけに、より、配慮が必要です。自分がどれだけ見えない危険を察知できるか、試されている気分でした」と振り返る。
 模型を作っては議論を重ねる内田さんと髙木さん。新ラインナップが形を見せるにつれて、他の設計・デザインスタッフ、工場のスタッフにも二人の熱は広がり、模型作りの手伝いを買って出たり、尋ねてもいないのにアドバイスを寄せる社員が日増しに増えていった。社内には、楽しいことにどん欲に身を乗り出してくる人が多く、それに加えて、社員みんなが仲間のために何かしたいという気持ちを持ち合わせているようだ。
 2014年秋、乳幼児遊具「りぐりぐ」の試作品が完成した。工場の立地する地元羽村市の産業祭に出展すると、来場していた地元の乳児が、よちよち歩きで近づいてくる。そして、滑り台の手すりに手をかけておぼつかない足取りながらも、しっかりと登っていった。もちろん満面の笑みだ。
 「自分がつくったもので、人に楽しんでもらえる。こんなにうれしいことはありません」(髙木さん)
 「子どもの頃に楽しかった経験は、大人になっても覚えています。私たちが作ったもので楽しんだ経験を、その人がずっと持っていってくれるといいなと願っています」(内田さん)

body4-1.jpg設計図面に取り組む髙木絵美さん。自身も新米の母親だ。

編集部からのメッセージ

「子どもが好き」その気持ちが仕事の原点

 「小さい頃、登って降りられなくなった遊具がいい思い出」(内田さん)「遊び場といえば公園。おままごとの家になったり、秘密基地になったり、空想力いっぱいに楽しみました」(髙木さん)。
日都産業の社員は、誰もが小さい頃に遊んだ遊具の思い出を、実に楽しそうに語る。「お客さんの満足は、最終的に子どもが笑顔を見せてくれること。私たちも同じ思いです。うちの社員は、子どもが好きじゃないと勤まらないでしょうね」と社長も笑う。
 本文でも触れた産業祭に出展したり、小学生の社会科見学を受け入れるなど、地元との交流にも力を入れる。社会と相思相愛の関係を構築できていることが、同社が堅実に歩んできた理由なのかもしれない。

  • 社名:日都産業株式会社
  • 設立年・創業年:設立年 1944年
  • 資本金:2,600万円
  • 代表者名:代表取締役 山中慎吾
  • 従業員数:73名(内、女性従業員数15名)
  • 所在地:167-0053 東京都杉並区西荻南1-1-9
  • TEL:03-3333-0210
  • URL:http://www.nitto-sg.co.jp/