サービスを超えた「地域福祉」ストーリー
地域に根差した社会福祉の実践に向け丁寧な指導でスペシャリストを育てる
高齢者介護事業と障害者支援事業の両方を運営する大三島育徳会。2000年の設立以降、地域のニーズに沿った様々な福祉サービスを提供している。単なるサービス提供を超えた「地域福祉」の考え方に基づいた、丁寧な人材育成と働きやすい環境作りが社員のやりがいと意欲を生み出している。
地域福祉に貢献するため 幅広いサービスを提供
「単に介護サービスを提供するだけでなく、福祉を提供したいと考えています」
そう話すのは田中理事長。同法人は高齢者向けサービスと障害者向けサービスを両輪とし、特別養護老人ホームやグループホームなど、世田谷区に9拠点15 事業所を展開している。
特別養護老人ホーム「博水の郷」の運営理念は、「あなたらしい生活と生き方を支援します」。ショートステイ、デイサービス等の施設も併設されており、介護が必要な方の生活を様々な形でサポートしている。介護の仕事のやりがいは利用者との関わりにあると、介護課の中尾さんは話す。
「出勤して挨拶をしたとき、利用者様が『あなたがいると明るくなるね』と言ってくださったときは、とてもうれしいです」
同法人は「地域に根ざした社会福祉の実践」を理念に掲げ、地域貢献にも積極的に取り組んでいる。東京都や世田谷区と連携して、生活困窮者の就労支援や小中学校での車いす体験授業、高齢者宅の見回りなどを幅広く行うほか、障害者雇用の実績もある。
「社会福祉法人にとって最大のステークホルダーは地域です。そのため、地域のニーズに応えるだけでなく、ニーズの掘り起こしも積極的に行っています。地域に密着しているからこそ、感謝の言葉をいただくことも多く、スタッフのやりがいにもつながっています」(田中理事長)
福祉を大事にする同法人だからこそ、介護と福祉のスペシャリストを目指すことができるのだ。
マンツーマンで丁寧な指導 勉強や資格取得もサポート
人手不足と言われる介護業界だが、同法人は離職率が低く人材が定着している。その理由は、働きやすさにある。「職員が長く働きたいと思える場所にしたい」との考えのもと、休みが取りやすい環境が整えられており、有給休暇の消化率も高い。残業もほとんどないため、プライベートとの両立が可能だ。育児休業や介護休業からの復帰後は周囲がサポートする体制が整っている。その証拠に、ライフ・ワーク・バランスや職場環境・風土などの指標を明示した東京都の『TOKYO働きやすい福祉の職場宣言』のガイドライン項目を100% 達成している。
「一度退職した職員が他の施設を経験し、『当施設の方が働きやすい』と戻ってくるケースもあります」(田中理事長)
また、社員教育にも力を入れている。入社後はまず社会人の基礎を身に付ける研修を受け、その後ケア技術を磨く研修に移る。配属後の育成として新入職員には教育担当の先輩がマンツーマンで指導するエルダー制度を取り入れており、約半年間かけて自立を目指す。業務知識を増やすだけでなく、不安点の解消や職場での人間関係の構築にも重点を置いているため、指導を受ける新入社員には「分からないことがあっても気軽に聞ける人がいる」ことの安心感が大きいという。介護課の松沢さんも次のように話す。
「最初からうまくできなくても、先輩から教えてもらったり、経験から学んだりして身に付けることができます。中でも利用者様から学ぶ部分が一番大きいです。『この人はどうしてこういう行動をするのかな?』と興味を持って見守っていると、一日一緒にいるだけで、その人のことが見えてきます」
キャリアプランを会社が把握し 社員の成長を支援
また、施設内には「食事」「イベント」など分野ごとに委員会があり、職員は入社2、3年目になると何らかの委員会に所属する。委員会では月に一度集まって困っていることを話し合い、解決方法を考えて会社に提案する。職員に得意分野ができると同時に、責任感も芽生えるという。
更に、社内勉強会や資格取得支援、外部研修への参加支援も行っており、公益財団法人社会福祉振興・試験センターの海外研修への参加実績もある。希望すれば障害者施設と高齢者施設の交換研修を受けられるのも、両方を運営している同法人ならではだ。
そうした研修内容は、年初に職員全員が提出するエントリーシートと面談によって検討される。個々のキャリアプランや勉強したい分野を会社が把握し、研修参加や資格取得などの希望はできる限り叶えられるよう調整する。
「やりたいことを言えば実現できるよう働きかけてくれますし、困ったときに何でも相談できる先輩が身近にいる現場だと思います」(松沢さん)
先輩社員や利用者など、幅広い年齢層の人との関わりの中から様々な学びが得られるだけでなく、社員の「成長したい」という思いを後押ししてくれる環境がある。
他施設の職員とも交流を深める
職員会議で「社員間の親睦を深めるためイベントを行いたい」との意見が出たことがきっかけで、2008年に3 施設合同のイベントがスタート。以降、社内イベントを年に1回、法人全体で行っています。職員へのアンケ―トをもとに複数のイベントが企画され、職員はその中から好きな行き先を選んで参加することができます。行き先はサーカス、キャンプ、京都観光、テーマパークなど様々。他施設の職員と合同で行うので、普段あまり交流のない職員とも情報交換ができ、コミュニケーションがとれる良い機会になっています。
(中尾さん)
●第14号 (2018年10月発行)掲載 ※掲載内容は発行日時点のものです。