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多摩地区 株式会社栄鋳造所

株式会社栄鋳造所 27歳で経営を託され、逆境を乗り越えた社長のもと、若手社員が次代を切り拓く

株式会社栄鋳造所

27歳で経営を託され、逆境を乗り越えた社長のもと、若手社員が次代を切り拓く

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多摩地区

株式会社栄鋳造所

27歳で経営を託され、逆境を乗り越えた社長のもと、若手社員が次代を切り拓く

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若手奮闘ストーリー
27歳で経営を託され、逆境を乗り越えた社長のもと、若手社員が次代を切り拓く

 さらさらの砂を真空状態で造型し、液状の金属を注湯・冷却することで複雑な形状の鋳造を可能とする「Vプロセス工法」。この鋳造技術を武器に、国内外大手メーカーから信頼を勝ち取る栄鋳造所。20代社員が全体の2割以上を占め、外国人社員も積極登用。若手の挑戦マインドと多様性が同社を牽引している。

27歳で社長に就任した鈴木社長。逆境を乗り越え続けた日々

 栄鋳造所の創業は1952年。創業者は鈴木隆史社長の祖父であり、鈴木社長は2001年に先代の父親から経営を引き継ぎ、四代目社長に就任した。
 「学校出たての頃は家業を継ごうなんて気はさらさらありませんでしたね。まれに手伝いの真似事みたいなことをしたことはありましたが、社員は平均年齢60代後半のおじさんばかりで、軍歌がBGMのような職場ですよ。雰囲気もどんよりと重かったですね」
 率直にそう振り返る鈴木社長は、高校卒業後テーマパーク運営会社に就職。そこは若手社員がのびのびと活躍する職場で、仕事もプライベートも充実そのもの。そんな鈴木社長が母親から「うちに入ってくれ」と懇願されたのは、就職4年目の夏の日のことだった。聞けば、将来を見据えて新たな鋳造技術「Vプロセス」の設備導入に踏み切ったものの、古くからの職人たちに猛反発され、二進も三進もいかない状態だというのだ。苦難に立たされる両親の思いは理解できたが、敢えて火中の栗を拾う気にはなれずに、固辞し続けたものの、母親の切実な訴えに折れて入社の決意を固めた。
 「入社初日から現場に放り込まれた私は、何もわからず立ち尽くすばかり。掃除をしようとしても、職人は『いいから黙って見てろ』と全く相手にしてくれない。悔しくてやるせなくて、終業後、風呂場で一人涙を流しました」
 しかし、逆境が鈴木社長をポジティブ思考へと駆り立てていった。
 「自分の手で若い人が働きたくなる会社に変えよう」と自らを奮い立たせ、実行したのが前代未聞のサプライズ。前職時代の先輩や後輩に同社でアルバイトをしてもらい、仕事を終えた後に、「うちの悪いところ」をそれぞれに書き出してもらったのだ。「汚れる仕事なのにシャワーがない」といった指摘の一つひとつを真摯に受け止め、職場環境の改善に臨んだ。
 現場を経験したのちに鈴木社長は営業の最前線に立った。巷は1999年の消費税増税を契機とした「買い替え需要」が起こり、同社の主軸だった自動車シートの金型製造の注文が殺到。年商10億円に届くまでに業績が伸びた。むろん、それは一過性のもの。「買い替え需要」が落ち着くとともに、にわか景気の潮は引く。わかっていたことではあったがその反動は想像以上のものだった。経営の読み違いにより社員数も60名からわずか3名まで減らさざるを得ない事態に陥った。この危機を乗り越えるべく、鈴木現社長が先代から経営を引き継いだのは2001年のことだった。
 当時の鈴木社長は27歳。創業以来最大の危機に瀕した会社の再建を背負い込むには、余りにも若い。しかし、鈴木社長はここでもポジティブに構え、挑戦マインドで逆境を跳ね返す。その代表格が新規取引先の獲得に威力を発揮するWebを活用した販促・広報戦略の展開だった。さらに自動車シートの金型製造1本だった事業構造も見直し、医療機器や半導体装置など多分野のメーカーにも積極的にアプローチし、Vプロセス鋳造による高精度化・コストダウンを提案していった。
 市場開拓には同業他社との差別化、つまり、個性のアピールも必要だろうと考えた。独自技術という武器を手に入れるべく、試行錯誤を繰り返し、開発に成功に至ったのが、鋳物にパイプを鋳込んで一体化させる新たな鋳造技術だった。これはほとんど前例のない技術で、パネルを半導体やサーバーラック等に密着させ、パイプに水を流すことで冷却効果をもたらす薄型冷却パネル「コールドプレート」を誕生させた。この技術が市場開拓に弾みをつけ、アジアを中心に海外展開を推進していった。こうした積極的姿勢が外的要因に左右されにくい企業体質を醸成し、業績は見事に回復。現在、海外輸出も売上全体の約7割を占めるほどの成長を遂げている。

body1-1.jpg「若手社員と一緒に会社のビジョンを掘り下げていきたい」と語る鈴木社長

25歳最年少営業社員の奮闘。前例のないモノづくりを経験

 逆境を乗り越えた栄鋳造所では、現在29名の社員が活躍する。高齢化が課題とされる製造業において、20代の若手社員が全体の2割以上を占めるのは頼もしい限り。若き日の鈴木社長がそうだったように、若手社員たちも失敗を恐れず、挑戦マインドを果敢に発揮している。最年少は、営業部メンバー・北隅貴行さん(25歳)だ。
 文系出身の北隅さんは、製造や生産管理を通じて鋳造の基礎を学び取り、入社2年目に希望していた営業部へ配属となった。その3カ月後、北隅さんのもとに装置メーカーから驚きの製造依頼が舞い込んできた。
 「当社のコールドプレートの技術が開発担当者の目に止まり、大規模な通信装置の冷却パネルの製造依頼をいただきました。しかし、お客様が必要とされているのは、当社がこれまで手掛けてきた最大サイズをはるかに上回る大型パネルだったのです」
 正直たじろいだという北隅さんと同じく、話を聞いた製造リーダーも頭を抱えたという。まさに暗中模索の状態。試しにと、小サイズのパネルと同様の工法で試作品づくりを行ったものの、プレート内部にパイプを鋳込む工程でパイプが温度に耐えきれずプレートを突き破ってしまう。納期が迫り焦りが募るなか、北隅さんは製造リーダーと意見をぶつけあい、解決策を探求。そして導き出したのが、パイプに固定材をかませるという新たな手法だった。
 「仕上げの作業は、もう祈るような気持ちで固唾を飲んで見守りました。そして、出来上がった試作品は、狙い通りにプレートとパイプが一体化。全身の力が抜け落ちるほど、ふーっと息を吐き出しながら喜びを噛み締めました」
 クライアントにもこの試作品は大絶賛され、量産に向けたプロジェクトが着々と進行中という。この経験で産みの苦しみとともに大きな手応えを味わった北隅さんは、「ゆくゆくは社内にメーカー部門を立ち上げ、鋳込み技術を応用した自社製品の開発・販売にも挑みたい」と、将来への意気込みを語ってくれた。

body2-1.jpg「経営数値も全社で共有し、全員で会社づくりを進めています」と北隅さん

韓国との橋渡しを担う29歳は、韓国支店の立ち上げを牽引中

 インターンシップを経て2014年に同社に入社した韓国出身の沈 泰輔(シム・テボ)さん(29歳)は、同社のメインの輸出先である韓国半導体装置メーカーとの橋渡しを主に担っている。シムさんをはじめ、同社では現在5名の外国人社員が活躍している。
 流暢な日本語を操るシムさんは、日韓のコミュニケーションギャップを埋めることで韓国の得意先からの信頼を厚くし、海を隔てながらも顧客の要望に的確に応じるモノづくりを推進している。
 「韓国の顧客メーカーに日本語の細かなニュアンスまで理解できる方がなかなかいないため、私が間に立つことでずいぶん安心していただいていると自負しております。今は月1のペースで韓国に出張し、既存クライアントのフォローはじめ、新たな顧客の開拓にも挑んでいます」
 外国人社員を積極的に登用する同社の展開する「ダイバーシティ経営」は、海外クライアントとの連携が密接になるという業務遂行上のメリットは言うに及ばず、多様なバックボーンを持つ社員同士が互いの考え方に触れ合うことにも大きな効果があるとシムさんは力強く語る。
 「私たち韓国人には、自分の意見を包み隠すことなく、相手に率直に伝える気質があります。それは相手にとってわかりやすい反面、ときには棘を感じさせてしまうこともあります。その点、当社の日本人の仲間は、相手に対する気遣いがとてもきめ細やか。是非ともその良さを吸収し、ビジネス上のコミュニケーションで役立てたいと思っています。逆に日本人の仲間は私から刺激を受け、自己主張することの大切さを吸収してもらえているのではないでしょうか」
 語り口にも芯の強さを感じさせるシムさんは、入社半年後には鈴木社長に韓国支店の立ち上げを提案。韓国マーケットでのシェア拡大をめざすには、現地に営業チームを組織することが不可欠だと訴えた。鈴木社長はその提案を認め、シムさんに韓国支店の立ち上げプロジェクトを一任。シムさんは韓国の支店立ち上げに関わる法律や手順を調べ上げ、韓国出張の際にはオフィスの賃貸契約、現地での人材確保などにも奔走し、2016年春の韓国支店立ち上げをめざしている。
 「私の目標は自分の年収を上げることと実に分かりやすいもの。これを達成するには会社をもっと大きく成長させ、業績を伸ばす必要があります。韓国支店の立ち上げは会社にとって大きな成長エンジンになるはずです。もちろん、それも通過点の一つに過ぎませんから、東南アジアや欧米の取引先開拓も進めています」

body3-1.jpg「風通しがよく、意思決定が早いことが当社の魅力」とシムさん

編集部からのメッセージ

ダイバーシティ経営企業100選に選出


 鈴木社長は事業後継者向けの育成プログラム「はちおうじ未来塾」の第1期生として参加し、地元・八王子の若手経営者との異業種交流を深めている。海外展開を同社再生の戦略に掲げたのも、同塾出身の経営者たちに触発されたことがきっかけになった。
 海外展開に向けて、鈴木社長は外国人社員の雇用を行った。海外展開に消極的だった社員たちにグローバルマインドを植え付けることが当初の目的で、NPO法人難民支援協会からの紹介を通じて、アジア、中東、アフリカからの外国人難民を雇用。日本人社員からの反発もあったが、やがて外国人社員のひたむきな頑張りにほだされ、自主的に英語のマニュアル作りを行うといった変化が起き、互いに理解を深め合う風土が醸成されたという。外国人社員は海外展開の重要な戦力にもなり、今では6カ国語に対応できる体制が整っている。こうした取組が評価され、同社は「ダイバーシティ経営企業100選」に選出された。

edit-1.jpg栄鋳造所の社員の皆さん
  • 社名:株式会社栄鋳造所
  • 設立年・創業年:創業年 1952年
  • 資本金:1,000万円
  • 代表者名:代表取締役 鈴木隆史
  • 従業員数:29名(内、女性従業員数5名)
  • 所在地:192-0154 東京都八王子市下恩方町350番地
  • TEL:042-651-9790
  • URL:http://www.sakae-v.com/