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城南地区 株式会社サカエ

株式会社サカエ 自社ブランドを立ち上げ、超極小細断シュレッダーで世界最高水準を凌駕

株式会社サカエ

自社ブランドを立ち上げ、超極小細断シュレッダーで世界最高水準を凌駕

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株式会社サカエ

自社ブランドを立ち上げ、超極小細断シュレッダーで世界最高水準を凌駕

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オリジナル商品開発ストーリー
自社ブランドを立ち上げ、超極小細断シュレッダーで世界最高水準を凌駕

 マイナンバー制度の導入によって個人情報を記載した文書の確実な廃棄が求められている中、俄然、注目されているのが株式会社サカエのハイセキュリティシュレッダー『Shred Gear(シュレッドギア)』だ。0.7ミリ×3.5ミリという世界最小レベルの細断を実現した同社には、自社製品への情熱が結集されている。

世界一のセキュリティレベルへ。超極小細断への挑戦

 紙を細かく切り刻む機械――。シュレッダーと聞くと、そう簡易に捉えられるかもしれない。しかし実は、刃の100分の1ミリ単位に及ぶ微細な加工、目詰まりや細断クズ飛散を防止する構造、静音性・耐久性を高める制御など、高度な技術が内包されている。
 1952年にスチール製事務機器メーカーとして創業したサカエは、1976年から大手シュレッダーメーカーへのOEM供給を開始。それから約40年間、同社製シュレッダーは約30万台に達し、国内オフィス用シュレッダーの約35%は同社製といわれるほどの実績を培ってきた。OEM供給によって磨き上げてきた独自技術は世界最高水準に達し、その技術を結集させ、2013年7月に自社ブランドとして立ち上げたのが『Shred Gear』だ。
 自社ブランドの開発にあたって、松本弘一社長は開発チームと根本から議論を重ねた。「シュレッダーは何のために必要なのか」と。行き着いたのは、「情報漏えいを防ぎ、セキュリティを維持するため」という大命題だった。
 ペーパーレス化が進む現代においても、紙媒体からの個人情報漏えい事件は後を絶たない。事実、NPO法人日本ネットワークセキュリティ協会が2013年にまとめた個人情報漏えいに関する媒体別調査報告によると、情報漏えいの原因は紙媒体経由が67.7%を占め、電子記録媒体や電子メール、インターネットよりも多い。しかも、マイナンバー制度の導入を控え、個人情報の漏えいというリスクがひっ迫していた。
 「このリスクから社会を守り、安心・安全を提供することがシュレッダーメーカーである私たちの役割」という思いを改めて強くした松本社長は、やるからには究極を目指そうと、「世界一のセキュリティレベル実現」を開発チームに託した。
 シュレッダーのセキュリティレベルを図る規格は、ドイツ規格協会が制定する7段階の規格がグローバル指針とされている。日本で一般的なオフィス用シュレッダーとして普及しているのは、細断チップの表面積が160平方ミリメートル以下の「レベル4」。一方、アメリカの政府機関等で採用されている最高水準の「レベル7」は5平方ミリメートル以下であるのに対して、同社が目指したのは、それをさらに凌ぐ2.45平方ミリメートルだった。

body1-1.jpgセキュリティ対策の浸透に尽力する松本弘一社長

10回以上も試作を繰り返し、極小細断に耐えうる構造を開発

 『Shred Gear』の開発には2013年3月から着手し、早くも同年7月にはレベル4~7のシリーズ『匠花shohka』、『千嘉senka』をリリース。念願の自社ブランドがデビューしたとあって、第1号機を初出荷した時には、開発メンバー全員でシュレッダーと共に記念撮影し、喜びあい、ねぎらいあいながら出荷を見送ったという。
 しかし、それは開発の幕開けに過ぎなかった。これまでのレベル7の細断サイズの2分の1に達するには、それから10カ月の開発期間を費やした。「世界最小レベルへの挑戦は、やはり一筋縄にはいきませんでした」と口を揃えるのは、開発を主導した事務機器事業部の武田幸宏さんと清水康平さんだ。
 機械設計を担う武田さんは、苦労したポイントに「カッターの構造設計」を真っ先に挙げた。従来のシュレッダーでは、刃を研磨・焼き入れして積み上げたシャフトを回転させて紙を細断する。しかし、それでは加工精度にむらが生じた時に、同社が目指す超極小細断に耐えられない。そこで同社は1本の鉄の丸棒から幅0.62ミリの刃256枚を削り出す「一体型削り出し加工」を開発した。ただ、カッターを薄く削り出し、細断チップが細かくなればなるほど、カッターにチップが付着しやすくなり、紙詰まりの原因になってしまう。
 高い耐久性と目詰まり防止を実現する構造が求められ、「チップとカッターを極限まで剥離させる構造を導き出すために、10回以上もの試作を重ねました」と、武田さんは産みの苦しみを語る。

body2-1.jpgさらなる改良を目指し図面と向き合う武田幸宏さん

耐久性と効率性の両立をきめ細やかな制御技術で実現

 一方、シュレッダーの制御を司る電気設計を担当する清水さんは、耐久性と効率性の両立に苦心したという。カッターが薄くなると、従来の制御では複数枚数の一斉細断に耐えられない。しかし、一度に処理できる最大細断枚数が減るとユーザーの作業効率が落ちてしまう。「絶妙なバランスが取れるまで、制御ソフトの仕様を何度も見直しました」という清水さんの飽くなき探求の結果、細断枚数が多い時には細断速度を抑え、少ない時には速度を上げるというきめ細やかな制御技術の開発に漕ぎ着けた。
 「OEMでは供給先メーカーの指示通りに開発することがミッションでしたが、自社ブランドの開発では自分たちが主体。しかも、目標に掲げたのは日本国内では類を見ない超極小細断。成し遂げた時の達成感は忘れられません」
 という武田さんの言葉に、清水さんも深く頷いた。
 そんな2人の開発意欲はすでにさらなる高みに注がれている。「“シュレッダーといえばサカエ”と広く認知されるように、製品をさらに進化させたい」(武田さん)、「“細かさ”以外でもオンリーワンの技術を開発していきたい」(清水さん)と、目標を力強く語ってくれた。

body3-1.jpg試作品の制御盤を調整する清水康平さん

マイナンバー制度導入に向けてセキュリティ対策を啓発

 こうして世界最小レベルを実現した『Shred Gear』は現在、2015年4月に発売した最上位機種「極美kiwami」をはじめ、「匠花shohka」、「千嘉senka」、「笑emi」の4シリーズ全22機種。セキュリティレベル3~7まで、用途やコストに応じて選べるラインナップを揃えている。
 これら世界水準の自社製品を引っ提げ、営業活動に奔走しているのは、事務機器事業部営業部の末永隆将さん(入社2年目)と都留友己さん(入社1年目)だ。
 末永さんは主に直販を担当し、大手企業を中心に新規提案を進めている。
「OA機器の代理店販売を行っていた前職時代には、製品に愛着が持てずにいたのですが、今は違います。『Shred Gear』は開発部門の仲間みんなのこだわりが結集された自信作揃い。その思いを胸に販路拡大を担っていますので、提案の言葉一つひとつに力がみなぎるんです」
 末永さん自身も初めて細断チップを見た時に「何だこの細かさは!」と驚愕したように、提案先でチップのサンプルを披露した際、同様のリアクションが返ってくるたびに喜びを感じると、自信の笑みを浮かべる。
 もっとも、開発した側の思いをよそに、ここまで細かく切り刻む必要性を感じないと、契約まで至らないケースも少なくなかった。その風向きを変えたのがマイナンバー制度だった。これが導入されると、各企業は従業員やその扶養家族のマイナンバーを源泉徴収票等に記載する必要があり、一定の保管期間が過ぎた書類は情報が漏れないように廃棄する義務を負う。セキュリティレベル7の最上位機種「極美kiwami」では修復不可能な状態まで書類を細断できるため、マイナンバー制度導入の対策として、企業側も末永さんの提案に耳を傾け始めた。地道にセキュリティ対策の警鐘を鳴らしてきた成果が実り始めたのだ。
 「私たち営業にとって、『Shred Gear』の拡販はもちろん、ペーパー情報セキュリティの重要性を広く啓発することも重要な役割。紙の安心・安全を高め、情報漏えいを未然に防ぐこと。そんな社会的な使命の大きさにもやりがいを感じています」と末永さんは言う。

body4-1.jpg「情報セキュリティの伝道者」だと自負する末永隆将さん

マーケットの声を吸い上げ、開発・製造へフィードバック

マーケットの声を吸い上げ、開発・製造へフィードバック

 都留さんはバスなどの運行管理会社の営業職を経て、2015年6月に同社へ転職。入社後、1週間の工場研修を受け、シュレッダーの組み立てや配線などを経験した。開発・製造のメンバーと共に手を動かし、モノづくりの面白さと苦労を肌で感じたことで、「私たち営業は開発・製造の成果を背負っているんだ」という思いが強まったという。
 現在、都留さんは販売代理店への販促支援を担当。必要に応じて代理店担当者に同行し、提案段階でのフォローを行っている。さらに既存顧客もできる限り訪問し、ユーザー目線からの使用実感を収集。ユーザーとの橋渡しとして、最前線で得た貴重な“マーケットの声”を開発・製造部門へフィードバックしている。
 「最新機種の『極美kiwami』には、クズ箱の扉を閉める音が耳障りにならないよう、減速しながら閉じるダンパー機能が搭載されています。また、クズ箱を持ち上げないでクズ袋を交換できるよう、クズ箱を本体から軽く引き出せるレール機構も設けています。こうした“使いやすさ”を高める新機能は、お客様の声をもとに生まれたもの。私も次なる進化の力になれるよう、お客様から得た改善のヒントを開発・製造部門に投げかけています」
 そう語る都留さんは、開発・製造とのやりとりを通じて、自らもモノづくりの一翼を担っている実感を深め、“モノ売り”だけに留まらないやりがいを見出している。

body5-1.jpg社内の風通しのよさを実感する都留友己さん

国内シェア拡大へ。そして世界市場の獲得へ

 こうした製販一体の体制こそ、自社ブランド化を成し遂げたサカエが新たに得た強みだ。展示会出展、新製品発表会、メディア取材対応といった広報活動も手探りながら自社で推進し、キー局の人気情報番組や新聞全国紙、ビジネス誌などへの露出を通じて、業界を問わず多方面からの反響獲得につなげている。松本代表も各部門の連携に手応えを感じている。
 「自分たちで販売戦略を立て、市場に周知頂けるよう、売り込んでいく。そして、マーケットニーズをダイレクトに製品開発に反映させ、改良を重ねていく。このサイクルを自分たちで回せることがOEMとは違う最大の利点。現在は営業、広報、開発・製造の各部門が目覚ましいスピード感で走り、日々の状況変化に対応しています」
 まずはマイナンバー制度施行に向けて、日本国内のマーケットシェアを拡大することが目標。さらに、海外市場をリードするドイツ製にも勝てる製品を開発し、欧米やアジアにも販路を広げていくと意気込む。
 「モノづくりにはこれでいいという終わりはありません。競合に追随するのではなく、市場に対して常に新しい価値を提供することが私たちの仕事。常に半歩先を見据えていきます」と松本代表が言うように、サカエのオリジナルへの挑戦は今後もたゆまず続いていく。

編集部からのメッセージ

自社ブランドの先駆けとして、糖尿病検査装置を開発

 シュレッダーをはじめとする事務機器に加え、医用・科学機器、ヒーター機器の主要3事業を展開するサカエ。先代の父親が急逝し、24歳で同社の舵を取ることになった松本社長は、OEM供給で基盤を固めた上で、長年抱き続けてきた自社ブランドへの意欲を実現させている。
 その先駆けは『Shred Gear』誕生の4年前。2009年に立ち上げた医用・科学機器事業の自社ブランド『A1c GEAR』だ。これは糖尿病のコントロール指標「HbA1c」の検査を行う分析装置で、正確さや迅速さ、簡便さに開業医・クリニックから高い支持を獲得。出荷累計台数はすでに1500万台を突破している。
 ヒーター機器では、大手電機メーカーの電気温水器用にOEM供給を行い、国内シェアで8割以上を獲得。大手コンビニエンスストアチェーンのコーヒーマシンにも同社製が採用されている。この技術をもとに、同分野でも自社ブランドの開発を目指す構えだ。

edit-1.jpg0.7ミリ×3.5ミリの細断チップはまるで粉雪のよう