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多摩エレクトロニクス株式会社 社長のポリシーが生む育成体制。新しいことはおもしろいことだ!

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社長のポリシーが生む育成体制。新しいことはおもしろいことだ!

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社長のポリシーが生む育成体制。新しいことはおもしろいことだ!

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育てろ!次期社長ストーリー
社長のポリシーが生む育成体制。新しいことはおもしろいことだ!

 大手情報機器メーカー・沖電気工業から2009年に独立した多摩エレクトロニクス。そこで行われる後進育成には、社長の経歴が大きく反映されていた。

世界最薄のIRフィルターを生み出すダイシング技術

 ダイシング加工という技術をご存じだろうか。これはウエハー(板)の状態で作られた半導体をさいの目状にカットしてチップにする加工のことだ。脆く、すぐに欠けてしまう半導体は、未熟な腕で扱うとすぐ断面がギザギザになってしまう。
 その点、長年ダイシング加工を扱ってきた多摩エレクトロニクスのダイシング加工は顕微鏡で見てもその断面は鮮やかにきれいにカットされている様子が見て取れる。これぞ熟練の技術との定評がある。同社はもともと沖電気工業の子会社。発注のあったものを作ることがメインのため、強みといえる程の技術を蓄積してこられなかった。ややもすると脆弱な企業体質に変化が見られたのが2009年の資本独立だった。まさに野に下ったかのような企業環境の変化の中で、生き残りをかけ一つの得意分野を追求していったのだ。その結果、たどり着いたのが自社製品の第1号となったダイシング加工の技術を用いた世界一薄いIRフィルター開発である。
 IRフィルターとは、スマートフォンのカメラに必ず付いている部品で、レンズから入ってきた光のうち、センサーに悪影響を与える紫外線と赤外線だけをカットするフィルターのことだ。ガラスの板に、60~70層以上の薄膜を蒸着させ、それをダイシング加工して仕上げる。数ミリ・数グラムの小型化・軽量化を競うスマートフォン業界では、いかに小さなパーツといえど、世界最薄であることは重宝される。
 現状、国内の大手メーカーから大口の発注を受けており、これからは海外も視野に入れられる製品の誕生で、多摩エレクトロニクスの可能性はぐんと広がった。

body1-1.jpg衛生管理が厳重なクリーンルームでの作業

新しい環境に飛び込むことはおもしろいことだ

 今でこそ一つの製品を開発するに至ったが、子会社時代の同社には度々取り潰しの話が浮上していた。そして2009年、ついにその話が本格化すると坪根衡社長は会社を潰すか、会社を買い取り存続させるかの選択を迫られた。迷った末に「おもしろそうな方、困難な方」と坪根社長は会社を買い取る決断をする。
 おもしろそうな方というと一見、軽い理由にも思えるが、「新しいことは、自分の幅を広げ、知識を増やすことでおもしろいこと」という坪根社長のポリシーに基づく表現という。その背景にあるものを深く知るために、社長の経歴を追ってみた。
 大学で物理学を学んだ後、通信機メーカーの沖電気に入社。最初は生産技術部門に配属された。そこではバイポーラとCMOSを組み合わせたバイ-CMOSという新しいデバイスの開発を任され、事業を軌道に乗せることに成功した。
 それを評価されると研究開発部門に異動し、特許を約20件も取得するなど成果を上げる。しかし、会社がバイ-CMOS事業から撤退することになり、生産企画部へ異動することになる。生産企画はいわゆる管理部門で、これまでの技術職からは離れることになる。
 「技術屋としてはまだまだ売れるつもりでいましたから転職も考えましたが、いざやってみると生産企画もおもしろい。管理といっても、企画を含めた広い意味の管理で、工場をどこに作るか、どこの工場で何をどれだけ作るかをプランニングする、いわば会社の心臓部ともいえる部門です。ここにはここのやりがいがあると気づきました」
 しばらくすると、今度は工場勤務を経験するため宮城の工場へ出向することに。年齢も年齢だったため骨を埋める覚悟で宮城へ移るが、光通信のデバイス部門を増強するからと、わずか1年で東京へ呼び戻された。
 しかし、間の悪いことに戻った直後に光バブルがはじけ、事業はみるみる縮小の憂き目に。生産管理に回され、品質保証や製造部門を担当した後、戦略企画室で事業の立て直しを歴任し、定年を控えた56歳の時、子会社である多摩エレクトロニクスへ行く話が出てきた。
 「いくつかの誘いを受けていて、選択肢は3つありました。本社に残るか、多摩エレクトロニクスへ行くか、新しく起業する人について行くか。いろいろ考えたのですが、せっかく誘ってくれているのに、誰かを選んだら、選ばれなかった人は気を悪くすると思い、上司に『勝手に決めてくれ』と言ったんです。そうしたらここへ来ることになりました」
 人生の重要な決断を他人に任せられるのも、与えられた環境でも楽しみを見つけられる順応性の高さがあるからだろう。自身のポリシーに基いて普段からさまざまな知識を吸収しているからこそ、さまざまな環境に対応できたのだ。
 「後進にもそういう気持ちで何事にも臨んでもらいたいのですが、一朝一夕にそうはならないものですね」と付け加える。

body2-1.jpg波乱万丈の人生を歩む坪根衡社長

将来の幹部を育てる10年塾スタート

 多摩エレクトロニクスがいま最も力を入れているのが、次期社長、つまり後進の育成だ。沖電気在職中は、多摩エレクトロニクスの不要論を唱えていた坪根社長だったが、何の因果か同社へ来ることになった以上、現状を変えようと2007年に若手社員を集めて勉強会を始めた。「一人前になるまで10年かかる」という意味から「10年塾」と呼ばれている。
 2010年にはその発展形として課長・部長クラスを集めた「経営塾」を、2013年には2つの間の「幹部塾」を開始した。10年塾→幹部塾→経営塾という階層性の育成体制が整った。
 「塾と言っても誰かから教わるわけではなく、商品開発・経営・10年塾の運営など自分たちでテーマを考え、調べ、話し合って進めていきます。主体性が問われますから、上司に言われて仕方なく出るのか、興味を持って進んで参加するのかで差がでますね」
 そう語るのは幹部塾に参加する傍ら10年塾の運営にも携わる菩提寺将詞さん。各々のモチベーションに合わせた進め方を試行錯誤しているという。
 「役職は係長ですが、年齢的には部署内で一番年下なんです。だから若手にはちゃんと育ってもらわないと困るんですよ」と打ち明け、後進育成の必要性を強く感じている様子だった。

body3-1.jpg後進への期待を語る菩提寺将詞さん

ジョブローテーションでさまざまな職場を経験

 こうした勉強会にとどまらず、会社で資格取得のための費用を負担したり、ジョブローテーション制を取り入れ、さまざまな職場を経験できるようにしたりしているのも、知見を広げるため。今の仕事だけではなく、幅広い知見を得ることで、将来のリーダー・幹部としての素養が磨かれていくのだ。
 若手の育成という意味では、工場に務める派遣社員のうち、向上心のある人を積極的に社員登用しているのもモチベーションアップにつながる取り組みといっていいだろう。現在、製造部メモリ課の係長を務める木村孝弘さんは、派遣から正社員への道を切り拓いた。
 「初めは決められた作業を一心不乱にこなすだけでしたが、職場を理解するうちに社員になりたいという思いが強くなりました。担当していた装置メンテナンスという部署にタイミングよく空きが出たので、社員に昇格できました」
 ジョブローテーションのおかげで、木村さんの経歴もめまぐるしく変化している。入社後すぐ担当の装置メンテナンスのラインが宮崎工場に移ることになり、一緒に転勤。1ヶ月半後、戻ってくるとカットされたウエハーのピッキングを経験し、岩手県北上の工場へ。2016年1月に東京へ帰ってきて、メモリ課に配属になった。
 入社8年でこれだけの職場を経験した木村さんは「勉強させてもらった」と満足気。同社の海外展開を視野に入れ、英語の勉強に励んでいるという。
 すべての取組の根底にあるのは、知識を得ることを楽しむということ。目の前の仕事だけでなく、さまざまな分野に寄り道してみることが、仕事へのモチベーションにも繋がるのだろう。この環境を整えている同社なら、やる気次第でどこまでも成長していけそうだ。

body4-1.jpg熱意を買われて派遣社員から正社員になった木村孝弘さん

編集部メモ

資格支援が太っ腹

 資格取得は、少しでも業務に関係あれば費用負担をしているという。工場で使いそうなフォークリフトは当然のこと、クレーン免許や簿記資格、英語と幅広い。中にはこの制度を利用して衛生管理者の資格を取った人もいるという。「会社が潰れた時に困らないように」と社長はドライに言い放つが、なかなか太っ腹だ。

働く環境改善のために

 後進育成の一環として、社内の取組をデータ化することにも注力している。残業や有給取得日数、OJTで教えた内容などを記録。残業時間の削減や年休取得率の向上といった具体的な目標を定め、ホームページから社外の人からも閲覧できるようになっている。

  • 社名:多摩エレクトロニクス株式会社
  • 設立年・創業年:創業年 1979年
  • 資本金:8,000万円
  • 代表者名:代表取締役社長 坪根 衡
  • 従業員数:254名(内、女性従業員数73名)
  • 所在地:192-0041 東京都八王子市中野上町4-8-3
  • TEL:042-625-9681
  • URL:http://tama-elec.com