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城東地区 有限会社豊岡製作所

有限会社豊岡製作所 諦めなければ失敗ではない。日夜、技術を磨く金属加工会社

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諦めなければ失敗ではない。日夜、技術を磨く金属加工会社

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城東地区

有限会社豊岡製作所

諦めなければ失敗ではない。日夜、技術を磨く金属加工会社

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町工場の技術ストーリー
諦めなければ失敗ではない。日夜、技術を磨く金属加工会社

 豊岡製作所は金属プレス加工会社。中でも深絞りの技術は業界でもトップレベルを誇るという。

1960年の設立当初から手掛けている絞り加工

 豊岡製作所の主力事業はプレス機による金属加工だ。一口にプレス加工といっても切ったり穴を開けたりするせん断加工や、金属に角度をつける曲げ加工など様々あるが、同社が創業以来一貫して取り組んできたのが深絞りという加工法だ。凸側であるパンチが金属の薄い板を凹側であるダイスに押し込めることで、主に円筒状や円錐状に成形する技術。同社ではシャワーホースと水道の連結部分や車載部品など様々なものを生産。身近なところで言えば、ポンプ式の化粧品の金属製ポンプがそれだ。金属部分を月に80万個ほど生産しているというから、多くの女性が同社が製造したものを手にしているかもしれない。
 「深絞り加工は数あるプレス加工の中でも難易度の高い加工だといわれています」と話すのは豊岡勉代表。プレスするといっても、単にプレスすれば良いというものではない。薄い金属板をそのままプレスしてはシワが寄ってしまう。そうならないようにするにはそれを伸ばすのに適切な圧力を加えるというコツが必要になる。また、クライアントの要望によってアルミ、鉄、銅、ニッケルなど使う金属も様々なので、それらを加工するための最適な圧力や熱処理時の温度などを熟知しておかなければならない。そのため、同社は製品を大量生産するための本工場の他に技術センターを設け、カスタマイズしたオリジナルの設備を導入し塑性加工を研究しているという。その熱の入れようは並ではなく、金属の結晶構造からプレス機の機械特性までをも研究。それが評判となり、大学から声がかかり金属塑性を専門とする教授陣向けに講義をするほどだという。
 同社の工場がある墨田区八広は一昔前までものづくりが盛んで、そこかしこで機械音が聞こえたという。時代の流れもあって今では工場の数もめっきり少なくなったが、その中で同社が着々と成長を遂げてきた背景にはこうした弛まぬ努力があったからに違いない。

body1-1.jpg深絞り加工の技術について説明する豊岡勉代表。手前は同社製品

挑戦する姿勢

 こうした努力の結果、同社は素人目にも分かるほど難しい加工を実現してきた。例えばチタンは強度が高いため通常の絞り加工でも難しいというが、一度絞ったものをさらに二度三度と再絞りしていくことで、薄さ0.02mm、長さ10cmの円筒に仕上げられるまで絞り技術を磨いた。豊岡代表は、一つの信念を持って技術向上に邁進してきたと豊岡代表は話す。
 「かつては神田の専門書店に足繁く通って金属塑性の本を読み漁っていたものですが、今ではその情報がインターネットで簡単に手に入ります。しかし、すぐに知識が手に入ってしまうからこそ、自分の頭で考えるということが少なくなってきているように思います。すでにある知識はすでに確立されたものですが大切なのはその常識を塗り替えるような新たな技法。未来の常識は現在の非常識ということを常に意識しています」
 これまで絞り技術をさらに進めるために試行錯誤を繰り返してきた。これからもその挑戦を止めることはないと言葉を継ぐ。
 「実際にプレス機を使ってのトライ&エラーの連続ですが、それは失敗だと思っていません。諦めた時が失敗です。諦めなければいつかは成功すると信じ、日々の業務に当たっています」
 そんな豊岡代表を慕う社員は少なくない。入社6年目、保険会社の営業だった堀内一正営業部長も代表の人柄と将来性に惹かれて、同社に転職してきたという。

body2-1.jpg作業中の眼差しは真剣そのもの

一朝一夕には真似できない技術

 「弊社は小さい会社ですから営業担当は代表と私の2人だけ。他は全員、技術者なんですよ」(堀内さん)
 それだけに営業手法は効率的。ものづくり企業が集まる年に一度の展示会とプレス加工業者が集まる展示会に出展。一度の出展で150社ほどの会社と名刺交換をし、そこから堀内さんがメールで連絡を取り、プレゼンテーションの際には代表自らが出掛けていくという。ここでも日夜、金属塑性や機械構造について研究してきた代表の成果が発揮されるという。
 「今の時代、質が良いのは当たり前で問題はコスト面です。少しでも安く製品が作れるようメーカーの方々は躍起になっていますから、そこでプレス加工の真価が現れます。切削加工等と違って加工時に出る素材のロスが圧倒的に少ないため費用面で分がありますし、加工動作自体はパンチが金属板をダイスに押し込むというシンプルなものですから生産効率が高い。そして、プレゼンテーションの際には自社の製品をただ売り込むだけでなく、代表が製品の図面を見ながら、この構造ならこの部品を絞り加工で製作したほうが安くできるといった提案をするんです」
 これがクライアントに大受けで、現在は全国各地を忙しく飛び回る日々という。豊岡代表は「コスト低減を目標にしていますが、それはあくまでお客様のコスト低減。弊社の製品を無理な値段で安売りするのではありません。社員が丹精込めて作ってくれた製品を適正な価格で買ってもらえるよう動き回るのが私の役割なんです」と話す。また、もう一人の営業担当である堀内さんは、深絞り加工という技術の将来性を声高に評する。
 「製造業は機械化が進み、誰でもどんな国でも設備さえあれば作れてしまうような現状があります。しかし、深絞り加工は加工する際の温度調節や潤滑油として素材に塗る油の具合など、職人の技巧に頼らざるを得ない部分があり、一人前の絞り加工ができるようになるには10年必要ともいわれているぐらいです。ノウハウは一朝一夕には身につきませんから、匠の世界ともいえるこの深絞り加工技術なら戦えると思ったんです」
 転職前の会社は1000人規模の大きな会社だったという堀内さん。以前はいくら働いても会社のためになっているという実感を持ちづらかったが、現在は自分の仕事がダイレクトに会社に反映されるのでやりがいは段違いと話す。
 「従業員の姿がなくなった時間に、代表が工場で何かしていたので、後ろから覗き込んでみたんです。すると、危ない、離れて離れてと言われて遠巻きすると、突然『パンッ』という音が響いたんです。どうやら新しい絞り技術を試していたようで、まだ実験段階だから失敗してしまったというんです。代表自ら実験・研究をするのはいつものことで、つくづくものを作ることが好きなんだなと思いますね」
 試行錯誤する過程が好き、あるいはものづくりが好きという人にとってはやりがい十分の職場に違いない。

body3-1.jpg「小さな会社だから、やりがいは十分です!」と話す堀内一正営業部長


編集部メモ

後進を育てたい


 豊岡代表の現在の目標は後進の育成という。
 「私の代だけで終わってしまったら、働いてくれている従業員はもちろん取引先の方々にも申し訳ないですからね。私が培ってきた技術の継承という意味でも若い人の育成に力を入れていきたいです」
 豊岡代表が築き上げてきた加工のノウハウは若い世代へと受け継がれ、さらに進化し脈々と続いていくに違いない。

edit-1.jpg熟練工から加工技術を教わることも多いという堀内さんedit-2.jpg自動で次の工程に流れていくトランスファープレスで次々と製品ができあがる

  • 社名:有限会社豊岡製作所
  • 設立年・創業年:設立年 1960年
  • 資本金:1,500万円
  • 代表者名:代表取締役 豊岡 勉
  • 従業員数:15名(内、女性従業員数0名)
  • 所在地:131-0041 東京都墨田区八広1-2-7
  • TEL:03-3613-2231
  • URL:https://toyooka-products.com/