<中小企業しごと魅力発信プロジェクト>

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ニッカー絵具 株式会社

ニッカー絵具 株式会社 手塚治虫もスタジオジブリも、この絵の具でアニメを描いた<br>アニメで使う絵の具は、ほとんどがニッカー絵具製。顧客ごとに色・塗り心地の要望に応え、600色もの絵の具を扱う

ニッカー絵具 株式会社

手塚治虫もスタジオジブリも、この絵の具でアニメを描いた
アニメで使う絵の具は、ほとんどがニッカー絵具製。顧客ごとに色・塗り心地の要望に応え、600色もの絵の具を扱う

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輝く技術 光る企業

ニッカー絵具 株式会社

手塚治虫もスタジオジブリも、この絵の具でアニメを描いた アニメで使う絵の具は、ほとんどがニッカー絵具製。顧客ごとに色・塗り心地の要望に応え、600色もの絵の具を扱う

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  • 社名:ニッカー絵具 株式会社
  • 設立年月:1950年
  • 資本金:300万円
  • 従業員数:16名
  • 代表者:代表取締役社長 妻倉一郎
  • 休日:今年度:年間休日118日間、有給10日間
    夏期休暇(土日含む)9日間
    冬期休暇(土日含む)9日間
  • 本社所在地:東京都練馬区北町2-32-5
  • 電話番号:03-3931-4211
  • 公式HP:http://nicker-enogu.com/
  • ・学校用、アニメ用、壁画用、マーブリング用などの絵の具を開発・製造
  • ・アニメや人形、神社仏閣など、顧客ごとに違う色・塗り心地の要望に応える
  • ・ニッカー絵具“愛”のある会社を残したい。若手社員に世代交代中
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業種

水彩絵具・ポスターカラー・デザイナースカラー・ アクリック・アクリックガッシュ・水性カラー・デザイン用品

事業紹介

今期で64期目(1950年~)となり、古くは虫プロ(手塚治虫先生)の鉄腕アトムに始まり、アニメブームが起き、今のジブリなどの背景などにも使われております。 絵の具の色数は約600色にもなります。
写生教材をはじめ、壁画絵の具、3D絵の具、マーブリングなど、一般向け商材も数多く、ユーザー対象に開いているイベントの数は年間50件にも及びます。営業部を中心に生産部のスタッフとみんなで力を合わせ、出展サービス実行中。商品イベントの他に動物愛護活動、NPO、日本ユネスコ協会連盟などの活動にも協力しております。
みんなで考え、みんなで前進をモットーとした企業です。

何を作ってる?

学校の図工や美術に使う絵の具、アニメを描く絵の具、壁画を制作するのに使用する絵の具、水面に絵の具を垂らしてからあらゆる素材に浸すことで複雑な模様を生み出すマーブリング用の絵の具・画材。そうした絵の具・画材作りを専門にするのがニッカー絵具。用途に合わせてさまざまな絵の具を手掛け、色数だけで言っても600色ほどの種類を扱っている。 売上の柱になっているのが学校向け。全体の半分を占めている。次に画材専門店や百貨店、文具専門店などの小売店からの売上が4割ほど。壁画用の特注色や、人形メーカーや神社仏閣の補修をする職人などから頼まれて個別に調合した絵の具を販売するのが残り1割。 同社は、アニメに使われる絵の具のメーカーとして有名。古くは手塚治虫の「鉄腕アトム」の制作に使われ、「銀河鉄道999」「機動戦士ガンダム」なども同社の絵の具で描かれたものだ。色にこだわるスタジオジブリも同社の絵の具を愛用。「もののけ姫」「となりのトトロ」など、数多くのヒット作で使用されている。 一時期はアニメで使用する絵の具の90%以上を製造。幼いころに観たアニメは、この会社の絵の具によって描かれたものかもしれない。

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04.jpg 提供:画材図鑑.jp

会社の強み

アニメ制作会社や人形メーカーなど、顧客の要望に応えるため、顧客ごとに絵の具作りのレシピを変えてきた。 例えば、アニメ会社から求められたのは「混色しても鮮やかなままで濁らない色」。人形メーカー向けには、人形の素地になじみやすく、なめらかに塗れる絵の具を開発した。神社仏閣の天井などを飾る絵を描くためだけに、ごく少量の専用絵の具を作ることさえある。 そうした柔軟に対応する姿勢を貫くことで、作れる色数は今や約600色。水彩・アクリル・インク系といった用途別に見ても、それぞれ約60~100色ほどもある。色数を増やすと、売れない絵の具も一定量は製造しなくてはならないので、経営効率には悪影響。しかし、欲しい色なら何でもニッカー絵具で手に入るようになれば、顧客は困らなくなる。小売店の棚に製品を並べてもらいやすくなり、置いてもらえるスペースも広くなるのだ。

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職場としての魅力

ニッカー絵具は半数近くが60歳前後のベテラン。目下、世代交代を急ピッチで進めているところだ。若手社員にさまざまな業務を経験してもらい、近い未来の同社を支えられるように育てている。 会社の人間関係は濃密。誕生日を迎えた社員がいれば一緒に飲みに行って祝い、動物愛護のボランティアに会社ぐるみで参加することもある。会社近くの住民とも交流。チラシを配って工場見学会を企画したところ、700人ほども集まった。それ以降、良好な関係を築いている。 「私はニッカー絵具に恩があるから、先代社長からこの会社を引き継ぎました。今の家庭があり、子供も孫も犬も猫も幸せに暮らせているのは、ニッカー絵具のおかげ。その恩、精神を次の世代につなげていきたいのです。 効率一辺倒の会社で、午後5時になったらみんな別々に帰っていくような職場は嫌です。ファミリーでありたい。ニッカー絵具“愛”のある会社を残したいのです」(妻倉一郎代表取締役社長)

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社長メッセージ
ジブリのスタッフが20人ほども来社。こだわりの色を求めた会議は半日ほどもかかった

代表取締役社長
妻倉 一郎さん ――貴社はアニメ用絵の具で9割ほどのシェアがあるそうですね。
ニッカー絵の具は今年で創業64年です。戦後間もない時期に、軍需産業で使っていた鉛やスズといった金属の平和利用を考えて、絵の具のチューブを作るようになりました。 1つの転機になったのは、モノクロのテレビ放送で「鉄腕アトム」の放映が始まったことです。当社の近くにアニメ制作を担当していた虫プロダクションがありましたから、「アトムのブーツの色をこんなグレー色にしたい」と相談を持ち掛けられました。こだわりがあり、普通のグレーでは納得いただけませんでしたので、納得いただけるまでグレーを作りましたね。その色は今でも残っています。それがきっかけで、アニメ関係の企業から引き合いが来るようになりました。 いまから20年くらい前には、男鹿和雄氏や田中直哉氏のお二人をはじめ、ジブリのスタッフが20名くらい来社されて、「こんな色が欲しい」と半日ほども会議をしました。すごくこだわりがあって、とにかく会議は長くなりましたね(笑)。 これまでは基本的に、小売店に製品を流通してくれる問屋さんに営業していました。ところが、問屋さん頼りではなかなか製品が売れなくなってきました。最近では画材専門店や百貨店、文房具専門店やホームセンターなどに直接営業を掛けるようにしています。 お盆など、買い物客でにぎわう時期は、営業担当者が大型ショッピング施設の催事場などに出掛けていき、当社製品のデモンストレーションをしています。水面に絵の具を垂らしてかき混ぜて、画用紙や石、布、木に吸い付けると複雑な模様ができる“マーブリング”は、とても人気が高いです。 また、この夏からは3D絵の具も同様にデモします。百貨店やホームセンターなどには、人目を引きやすいマーブリングの絵の具・画材などを、画材専門店には本格的な絵の具を置いていただくようにお願いし、店舗・売場ごとに売れる製品を考えながら営業するようにしています。 どんな商売でも言えることですが、まずは素直になることです。若いうちだけではありません。一生素直であることが大切です。  そうすると、お客様や先輩方から、かわいがってもらえるようになります。そして明るい雰囲気を生み出せるように自分が心掛けていれば、自然と仕事はうまく回るようになります。 私が主に経験してきたのは営業なのですが、初めてお会いしたお客様に対して「仲よくなれないかもな」と思ってしまう一瞬ってあるわけです。でも相手は、私の10倍くらい「何だ、こいつは」と思っているかもしれない。だから、こちらから素直になるのです。素を出して腹を割って話せば、別れるときにはハグして帰れるくらいの信頼を得られますよ。 あとは、家庭には嫌なことを持ち帰らないことです。私は、自宅へ帰る途中に渡る線路を越えたら仕事であった嫌なことを全部忘れるようにしていました。つらい顔をして帰れば、奥さんや子供は心配しますからね。きっちりと気持ちを切り替えて帰宅するようにしてください。

09.jpg 代表取締役社長 妻倉 一郎さん

先輩メッセージ
1日に作るセット数を自分が決めるように。予定がうまく運ぶと今までにない達成感

生産部
金澤さん ――以前からニッカー絵具のことは知っていましたか?
ニッカー絵具のことは、高校のころから知っていました。美術の授業で、当社の絵の具を使っていたのです。初めて当社を訪れたときには、「ここであの絵の具を作っていたのか」と思いましたね。 当社には高校卒業後、最初はアルバイトとして入りました。4月だったので、学校向け絵の具の製造が忙しいころです。1日に1300セットほども作っていたでしょうか。絵の具を箱に詰めてセットにしていく作業を1~2カ月ほども経験する中で、「アットホームな雰囲気のいい会社だな」と感じるようになりました。こんな会社で働きたいと思うようになり、社長に相談して半年間の研修期間を経て、正式に採用していただいたのです。 今は3年目です。最初は絵の具をセットにしていく工程などを担当していましたが、次第に絵の具をチューブに充填する作業を任せてもらえるようになりました。最近では、絵の具の在庫の一部を管理したり、不足しそうになったら仕入れも担当するようになりました。 そのほかにも、製造が落ち着いている時期は、営業の手伝いに行きます。大手の画材専門店や百貨店などに行き、マーブリングの実演をして当社の製品を紹介しています。マーブリングは見ていて面白いので、小さな子供たちに人気ですね。水面に模様を作って、紙に付けて引き上げた瞬間のみんなの反応が楽しみなのです。壁画の下地づくりやコーティング作業を請け負って、手伝いに行ったこともありますよ。 いろいろな業務を経験できて刺激が多いのですが、私としては基本を大事にしています。工場長もよく「基本なくして応用なし」と言って、気持ちを引き締めてくださいます。実際、基本に忠実に仕事を進めないと、チューブが汚れてしまったり、充填がうまくできなかったりと不具合が起きてしまいます。逆に基本を守ると、滞りなく生産できるので、予定どおり仕事が終わります。1日の目標をしっかりと達成してから帰るときが、私にとっては一番気持ちいい瞬間ですね。 社員がそれほど多くないので、ほかの部署の人とも本当に仲よくしています。お昼はみんな一緒の場所で食べるので、いろいろな部署の人と会話しています。アットホームで働きやすい職場だと思います。  私は今年の2月に誕生日を迎えて、20歳になりました。成人祝いということで、近くの焼肉屋さんでお祝いしてもらいました。ビールの飲み方なども教えてもらい、それ以降もよく飲みに連れて行ってもらっています。 最近は、1日にどれくらいのセットを作るのか、私が予定を立てるようになってきました。明日・明後日の予定を考えながら今日の仕事を進めていく。必要な資材が在庫にあるかも確認しないといけません。全体的に物事を考える必要が出てきましたので、それに慣れていきたいです。予定をうまく立てられて、しっかり回せたときには、今までにないほどの達成感を得られます。 社会に出てからも基本が大事です。きちんと毎日元気な声であいさつをすること、上司や先輩に指示されたことは素直に「はい」と受け入れて作業すること。当たり前のことが一番大事だと思いますし、それだけでもしっかりできるようになれば、社会人として十分にやっていけるようになると思います。 とにかく、基本を忘れないことです。基本を守って、がんばってほしいですね。

10.jpg 生産部 金澤さん
11.jpg 充填用に絵の具を装置に流し込む

先輩メッセージ
従来どおりの色味を変えないように、その日ごとに顔料の量を微調整して色付ける

工場生産部
駒沢さん ――ニッカー絵具に就職した経緯を教えてください。
ニッカー絵具に入社したのは、ハローワークに求人票が出ていて、紹介してもらったのがきっかけです。 もともと、趣味で絵を描いていました。絵の具には興味がありましたし、自分の手で絵の具を作れたら面白いだろうなと思ったのが入社した動機ですね。 学生のころは絵の具自体にそれほどこだわっていなかったので、当社の絵の具を使ったことはなかったです。ですが、当社の絵の具はジブリ映画の背景に使われていると聞いていて、よく知っていました。自分がそんな有名な会社で働ければ、面白いだろうし、やりがいを感じるだろうと思っていました。 工場見学に来てみると、工場は決して大きくありませんでした。「これだけ限られたスペースで、どうやってあれだけ種類の多い絵の具を作っているのだろう」とまずは驚きましたね。それで中を見学させてもらい、「こういった機械で絵の具をチューブに詰めるのか」といったことが分かり、工程ごとにすごく工夫されていると感じ、あらためて当社で働きたいと考えるようになりました。 私は充填前の絵の具を作る仕事を担当しています。 一番気を付けているのは、色味を変えないことですね。絵の具メーカーにとっては、従来の色味を変えずに作り続けることが大切。とにかくそこにこだわっています。色を付ける顔料にしても、時期などによって少しずつ違います。レシピを守り調合しても色が変わってしまい、そう簡単にはいきません。その日ごとに顔料の量を微調整しながら、少しずつ色味を調整して、自分の目で少しずつ整えていきます。 色付けをする際、一番難しいのは白色です。他の色を作っていたときに出たゴミなどが少しでも混ざってしまうと、純粋な白色ではなくなってしまいます。常に製造現場をきれいに整理整頓・清掃して、色味に影響を与えないように注意しています。 まだ先輩たちから助言をもらいながら色味を整えていくことが多いのですが、助言なしに1人で色を整えていき、「これでいいよ」と合格をもらえたときには、やりがいを感じますね。 当社は小規模な会社ですが、社員みんなが助け合っています。そして、小さい会社だからこそ、会社全体の流れがよく分かります。私も忙しいときは絵の具をセットにする工程を手伝いますし、入社してしばらくは絵の具の充填を手伝い、絵の具を梱包して発送する業務なども経験しました。そのように全体の業務を一通り経験したことで、「この色は早めに仕上げないと、セットで1色足りなくなる。急がないと」といったことが理解できるようになり、今すごく役立っていますね。 今の目標は、とにかく一人前になることです。まだまだ先は長いと感じていますが、色味を見極める目を鍛えていきたいです。 いつかは、私自身が人に教える立場に回ることになると思います。そのとき、後輩にうまく説明できるように成長していたいと考えています。 あまり肩肘張らず、気楽な気持ちをもって取り組めばいい結果が出ると思います。そんなにガチガチに緊張しても、いい結果は出ませんから。 とにかく、思い立ったら行動することではないでしょうか。あれこれと考えても何も始まらないので、行動してうまく行かなかったらそれはそれ。また次のことに挑戦してみれば、いつかはいい結果が出るはずです。 注)掲載している情報は、取材日(2013年7月)時点のものです。

12.jpg 工場生産部 駒沢さん
13.jpg 絵の具の調合