城南地区 株式会社ブレイン・ストーム

株式会社ブレイン・ストーム
「わがままでいこう」を合言葉に成長を続けるタフなアパレル企業

株式会社ブレイン・ストーム
「わがままでいこう」を合言葉に成長を続けるタフなアパレル企業

個の力はこうして伸ばせストーリー
「わがままでいこう」を合言葉に成長を続けるタフなアパレル企業
猫の目のように変わる消費者の嗜好を一歩先取りすることが求められるアパレル業界。時流に乗れなければ、大企業であっても容赦なく退場を迫られる業界にあって18期目を迎えるブレイン・ストーム。決して大きい会社ではないが、だからこそ自分の実力が試めせて面白いと社員たちは声をそろえる。
パスをつないでゴールを目指すアパレルの仕事
アパレルの仕事はサッカーやラグビーのようなスポーツに似ているところがある。デザイナーが考えたアイデアを、パタンナーが受け取るとそれを型紙に起こし、縫製工場で服に仕立てる。営業は販路を切り開き、最後は販売店の店員が客に手渡す。ポジションごとに役割があって、しっかり連携して、その役割がきちんと果たせた時に、ゴールが生まれ、その先で待つ消費者に感動を与えられるのだ。
チームの競技である以上、一つの才能での勝利は望めない。そこで欠かせないのはチーム力と一人ひとりの能力、そして自分に任されたポジションで最大限にパフォーマンスを発揮できる個性である。18期目に入ったブレイン・ストームは、そのコンビネーションを見事なまでに反映させ、業績を伸ばしているというわけである。
「素直でおとなしいだけでは個性は表れてきません。ですから、社員にはどんどんわがままを言ってほしい。デザイナーにはこうしたいというこだわりがあるだろうし、営業にはこんなんじゃ売れないという言い分があるはず。そういうこだわりをとことん突き詰めていった時に新しいものが生まれ、会社は強くなるんです」と企業哲学を披露する大野哲夫社長は文字通りの総合監督。現在、社員11名規模のアパレルメーカーでありながら、レディスカジュアルブランド「Mt(エムティー)」と「sisyu(シシュー)」の2ブランドを展開し、下北沢に自社店舗を持つ他、全国のセレクトショップに卸し、インターネット通販にも力を入れている。
同社の設立は1999年。それまでも大野社長は、複数のアパレル企業の社員としてキャリアを積んできた。最後に勤めていた会社では、仕入れ担当社員として働いていたが、時代の波を捉えきれずに倒産。普通なら早々と次の勤め先探しに走るところだが、大野社長は取引先に迷惑はかけられないと一人会社に残り、在庫や備品を整理し負債を完済する。意気に感じた取引先企業から「大野くんがやるつもりがあるなら応援するよ」と背中を押され起業したという。

プライベートが楽しくなければ 人をワクワクさせられない
20年目のベテランデザイナーの横山幸江さんも大野社長の魅力に惹かれて、昨年、ブレイン・ストームに“加入”した。前々職のアパレル企業時代に大野社長の下で働いたことがあり、それぞれ別の会社に移ったのちも、たびたび仕事の相談に乗ってもらっていたという。
「『今勤めている会社が堅苦しくて、好きなことが全然できない』と悩みを打ち明けたら、『じゃあ、うちに来たら?』と声をかけてくださったんです。包容力があって、おまけに負けず嫌い。ここなら面白いことができそう」と転職を決めた。そして今は思う存分に働ける環境があると話す。
「もちろん売り上げにつながるものであることが大前提ですが、世の女性が求めるものはこれですと私が言えば、『いいね、それでいこう』と信頼して任せてくれる。自然と力が入ります」
同社ではノー残業デーを導入するなど、働き方にも多様性を積極的に取り入れている。例えば、横山さんは、なるべく夜は早く帰る。自分の時間をやりくりして街行く人を眺め、美術館をめぐり、おいしい料理を食べるなど、デザインのためのリサーチにも時間を割いているという。
「料理を食べていても盛り付けのきれいさに目がいく。いつのまにか仕事気分になってしまうんですが、それでもプライベートが楽しいことはとても大事。自分が楽しい気分を味わえなければ、人をワクワクさせられるようなアイデアは出てくるはずがありませんから」

お客様の願いを一緒に実現できる喜び
「『壁を突き破るためには大失敗しなきゃだめだ』とよく社長に言われるんですが、なかなかそうもいかなくて」と頭をかくのは営業の工藤哲也さん。中途入社3年目の35歳。介護の専門学校に通っていた時、ファッションデザイナーになりたいと思い立ち、卒業後デザインの専門学校に進んだ。しかし、新卒で就職した企業では生産管理に配属。希望部署ではなくとも腐らずに仕事に打ち込んだ。それが評価され、通販事業の立ち上げも任された。仕事にも慣れ、面白さも感じていたが、知人の紹介で大野社長と出会い、「この人と一緒になにかやりたい」とそのキャラクターに惹きつけられて転職を決めたという。
「うちの会社は、よくも悪くも自分次第。こうやりたいと僕が言えば、よっぽどのことがない限り却下されることはありません。仮に僕が『デザイナーをやりたいです!』と言い出したとしても、ビジョンがあるならやってみろとトライさせてくれるでしょう。でも、当分そんなことにはなりませんね。今の仕事が気に入っていますから」
営業の仕事は、全国のセレクトショップのホームページや店員のブログをチェックするところから始まる。各店舗がそれぞれにどんなコンセプトを打ち出しているのか、今季どんなラインに注目しているのかを調べ、気に入ってもらえそうなアイテムをカートに詰め込んで新幹線に乗り込む。
「『うちのラインですと、このあたりの商品なら、消費者に気に入ってもらえると思いますよ』とお伝えするのが基本スタンス。こんな商品を作ってもらえるとありがたいんだけどと注文されることもありますが、相手に敬意を払いながら、今あるものをしっかり売っていくのが大事なんです」と流儀を語る。
どのショップも、当然今の売れ筋は知っている。そこへ、同社の商品は流行も踏まえていてさらにここが違うと説明すると、売り方の指導にもなり、ショップにも喜ばれるのだと言う。
「次にお会いした時、『あの商品、売れたねー』と言われるのが一番うれしい。お客様であるショップの皆さんの望むことを一緒にやれたと実感できるのは、この仕事の醍醐味です」
「仕事が楽しい」と、社長以下、社員も口をそろえる。もちろん、成果を挙げるためには、他社よりも知恵を絞り、汗をかかなければならないのは間違いないが、売れたという実績が自信をつけさせ、ショップや消費者とともに喜びたいという思いが、体を軽くしている。そんなところもスポーツに似ているかもしれない。

編集部メモ
なにより大事なのは、やっぱりコミュニケーション能力
「どうやったら社長を追い抜けるか、自分なりにいつも考えています」と営業の工藤さん。大野社長は3年前まで営業未経験だった工藤さんに付き添って、ショップを巡りながら営業のテクニックを指導してくれたのだという。
「知識が多くて、選ぶ言葉も巧み。視点もいろいろで、横で聞いているだけでも面白い。基本は謙虚な気持ちだと社長は言うのですが、これが難しく、まだまだですね」
この仕事で一番大切なものはと問うと、デザイナーの横山さんからは「コミュニケーション能力」という答えが返ってきた。
「営業は人対人の仕事ですから当然ですが、デザイナーであっても、自分が持っている思いやセンスを言葉にして伝えられなければ、思い通りのものは作れません。縫製メーカーに発注する時も、納期やコストを交渉する力が必要ですし、意見をはっきり言えるかどうかは、商品の出来に直結します。後輩を指導する時も、まずそこからですね」
聞き取る力、伝える力こそ、アパレル業界での成功を後押しする最大の武器といえそうだ。

