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中央・城北地区 株式会社東邦電探

株式会社東邦電探 水資源を見つめて半世紀以上。被災地・福島から新たなステージが始まる

株式会社東邦電探

水資源を見つめて半世紀以上。被災地・福島から新たなステージが始まる

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中央・城北地区

株式会社東邦電探

水資源を見つめて半世紀以上。被災地・福島から新たなステージが始まる

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独自技術で業界を牽引するストーリー
水資源を見つめて半世紀以上。 被災地・福島から 新たなステージが始まる

 高度経済成長期のただ中にあった1959年創業の東邦電探。農業用水の保全や公害対策のニーズから、多彩な水質測定機器を製造している。

地下資源研究から生まれ水質測定のパイオニアとして発展

 東邦電探という社名の「電探」とは、戦前から日本政府が推し進めた地下資源研究の名残の名称。
 「天然資源の乏しかった日本では、かつて国策として地下資源の研究開発を積極的に行っていました。父は、当時の逓信省電気試験所(現:産業技術総合研究所)の地下に眠る鉱脈や地下水の調査方法を研究する部門で電気探査に関わる研究に携わっていたと聞いています」
 そう話すのは伊藤祐士社長。戦後の紆余曲折の末、伊藤社長の父、公衛さんが地下資源の調査方法を異分野でも応用したいという気持ちから、1959年に東邦電探を設立した。
 そして創業以来、自然現象を測定する機器の開発・製造を続けてきたが、その中でも現在は水資源分野が主体である。一口に水資源と言っても、海、河川、湖沼、地下などの自然界をフィールドは様々で、そこでの水質や流量など命の源“水”の性状・状態などを目的に応じ調査・モニタリングする装置の開発から製造販売メンテナンスまでの業務である。
 「水をサンプリングしその分析結果から、水質を定量化(良し悪し判断)するのが検査。これとは別に、水質などを常時モニタリングするのが測定で、その装置は原因調査・メカニズム究明・対策制御などの水質環境保全の各段階において重要な役割を担っています」
 高度経済成長期以降、国内でダムが次々に建設され、1970年代後半頃から飲料水や農業用水の水質汚濁が大きな社会問題となりだした。そこで注目されたのが同社の測定技術だった。ダムのような大量の水が貯められている場所で濁度や水温といった水質情報を水深別に自動モニタリングする装置を開発。業界では草分け的な存在となり、これまでに同社が手掛けたダムは全国で200か所。こうして半世紀以上にわたって業界を牽引してきたのである。

body1-1.jpg「1970年代の後半から、当社の水質測定技術は飛躍的に発展していきました」と語る伊藤祐士社長

3.11後の混乱の中福島県内の水質調査を実施

 1950年代から数々の技術革新と新製品を世に送り出してきた同社は、70年代から全国のダムをフィールドに発展してきた。そして事業は、2011年の東日本大震災を契機に大きな転換期を迎えた。震災の直後に発生した福島第一原子力発電所事故により、大気中に膨大な放射性物質が放出された。かつて戦争による唯一の被爆国となり、今度は原発事故による放射能環境汚染に直面。山野に降り注いだ放射性物質は雨水と共に河川や湖沼、農業用溜めに集積・移流することが判明。安全・安心対策を目指しより詳細な挙動・メカニズムの究明に資する装置を日本原子力研究開発機構との共同研究を経て開発したのだ。
 「長年にわたり水質測定を手掛けてきた当社らしく、復興に役立てることはないかという思いで水中放射能濃度測定装置を開発しました。平常時の農業用ため池やダム中の放射性物質は、そのほとんどが濁り物質と共に水底に堆積しています。すなわち放射線を遮る水で密閉されているため、大気中の放射性物質に比べ被曝の危険はほぼ無いのです。」
 真剣な表情で、伊藤社長はこう続ける。
 「科学的根拠に基づくとはいえ、やはり不安ですよね。居住地域の除染が済み、避難解除されても若い世代中心に帰還しない人々が多い理由の一つです」
 そこで現在、政府が推し進めようとしているのが「福島イノベーションコースト構想」と呼ばれるプロジェクトだ。福島県の東部沿岸地域、通称“浜通り地区”の産業基盤を再構築するため、廃炉研究は勿論のこと、ロボット技術や再生可能エネルギーなど最先端技術から農林水産再生など、多くの学術及び産業に関連する企業や研究機関を集める計画だ。同社はここで、水質モニタリング技術を応用したプロジェクトに携わる予定だという。
 「先代がよく言っていました。『自身の専門分野と異なる分野でその専門性を発揮できるステージを見出すとチャンスが増える』と。震災が起きて、我々は福島に新たなフィールドを得ました。福島の復興を陰ながら支えていきたい、今はそう思っています」

body2-1.jpg本社屋の3階にある技術部では、ダムの水質測定などに使われるセンサーを製造している

ものづくりの現場で自分の価値を高める

 40~50代の社員が大多数を占める同社で、入社2年目の松澤和孝さんは最年少の31歳。現在は、測定機器を制御するためのソフトウェア開発を担当している。小中学生のころから図工や技術が得意だったという松澤さんは、ものづくりの世界への憧れが強かった。社会人を経験した後に一念発起してゲームクリエイターのスクールに入学。卒業後はゲーム会社に就職し、デザイナーとして数々の作品を手掛けた。そんな異色の経歴を引っ提げて2015年9月に同社に入社したのだが、当初はアルバイト採用だった。
 「世の中に役立つものづくりがしたくて採用試験を受けたのですが、この業界は全くの未経験でした。アルバイトからのスタートでも頑張り次第では正社員になれると信じて、入社を決意しました」
 入社直後は先輩社員の指導のもとで簡単な機械の組立を担当。クリエイタースクールでプログラミングを勉強していたため、次第にソフト開発業務にも携わるようになり、電気回路の仕組みを必死になって勉強したという。
 「スクールで学んだとはいえ、実務になると分からないことばかりでした。電気回路もそうですが、測定機器の動く仕組みや制御のポイントなどを一日も早く習得したい、その一心で勉強しましたね。もちろん、先輩方が丁寧に教えてくれる環境があるので、恐れることなく仕事に取り組めたのだと思います」
 知識を身につけ、次第に腕も認められるようになり、入社半年後の2016年4月に正社員へと登用された。普段は社内にこもって黙々とプログラミングをするが、納入した機器に不具合が発生したときには、顧客のもとへ出向くこともある。
 「実際にご使用いただいているお客様の声をもとに、より良い製品を開発できるよう、社内にフィードバックしています。ダメな部分は徹底的に原因を追究して、次はもっと良くしていこうという気持ちで、取り組んでいます」
 入社当初は不安だらけだったというが、憧れて入った会社。仕事を覚えるにつれ、この仕事が好きなのだと確信し、とことん追求する姿勢が大きな自信になったと目を輝かせる。

body3-1.jpgアルバイト入社後、着実に知識と経験を積んできた松澤和孝さん。今後更なる活躍が期待される存在だ

知識を総動員し新たな分野へ中堅社員として会社を牽引する

 測定機器の設置やメンテナンスを担当する谷川剛さんは、社歴21年目のベテラン社員。父親の影響で幼いころから川釣りをしていた。川の水が澄んでいたり濁っていたりするのが子どもながらに不思議だったという。水質に興味を持ったことがきっかけで、高校卒業とともに同社に入社した。高校では電子について学んでいたが、この業界で必要とされる電気や機械工学などの知識はほぼ皆無だったと振り返る。それでも、入社後3か月間の研修では水環境の概要を始め、業界の特性、測定機器の仕組みなどをみっちりと習得したと、当時を振り返る。
 「資格の取得という面では、電気工事技師免許や船舶免許を持っている社員もいます。当社はダムが主なフィールドですから、船舶免許の取得を会社がサポートしてくれます」
かつては技術部で流速計などを手掛けていたが、7年ほど前から現場に出る機会が増え、現在では月の半分ほどのスケジュールが出張で埋まっている。
 「外に出るようになって分かりましたが、机に向かってばかりでは良い製品は作れませんね。お客様と会話することで、現場のニーズや不安をダイレクトに感じ取っています」
 自身が手掛けた製品を自身の手で客先に届ける。入社21年たった今でも“産みの苦しみ”と戦う日々だが、現場で顧客の満足そうな表情を見た瞬間、全ての苦労は報われると谷川さんは語る。どんなときにやりがいを感じるかと尋ねると、「新しいことに挑戦するときですね」と即答。未知の世界に飛び込み、周囲のサポートを得ながらひたむきに歩んできた。福島県の復興プロジェクトにも積極的に取り組み、会社の未来を切り開こうとしている。

body4-1.jpg丁寧な仕事ぶりと高い技術力が評価されている谷川剛さん。毎週のように全国のダムを回っている

編集部メモ

誰よりも情熱を持って社会に貢献していきたい


 国策として戦前に始まった天然資源調査。そのノウハウをもとに60年近くにわたって国内外の水資源を見つめてきた同社。経済の発展や時代の変化とともに水を取り巻く環境も変わり、そのたびに電気水温計や電気式流速計、濁度水温測定装置といった機器を生み出してきた。そして2000年代、あの忌まわしき東日本大震災を経ても尚、革新的な装置を開発し、被災地復興を下支えしている。
 伊藤社長の原点は創業者である父のマインド。そして、同社が更に発展していくには社員一人ひとりの活躍が鍵になるという。
 「いかなるときも情熱を持って仕事に取り組む人です。男性でも女性でも、熱いものを内に秘めた人たちがその思いや情熱をぶつけ合える多様性があってこそ、次世代を拓くイノベーションというものが起こるのだと思いますから」
 社員に求める資質は、専門的な知識や技術力よりも情熱だと語る伊藤社長。そうした人材があってこそ、次のフィールドに挑戦できるのだ。

edit-1.jpg組み上げた測定機器にパソコンを繋げて動作チェック。バグが発生したらすぐに修正作業を行うedit-2.jpg同社が開発したフロート式水質自動測定装置の検出部。各種センサーが組み込まれており、ダムの中で水質をモニタリングする