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城南地区 株式会社環境経営総合研究所

株式会社環境経営総合研究所 超微細に粉砕した紙の粉が、環境分野に新風を巻き起こす

株式会社環境経営総合研究所

超微細に粉砕した紙の粉が、環境分野に新風を巻き起こす

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株式会社環境経営総合研究所

超微細に粉砕した紙の粉が、環境分野に新風を巻き起こす

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新素材開発ストーリー
超微細に粉砕した紙の粉が、環境分野に新風を巻き起こす

 17年前に元損害保険会社のサラリーマンが立ち上げた環境ビジネスベンチャーである環境経営総合研究所。設立から約4年でプラスチックに取って代わるとまでいわれている新素材の開発に成功し、15年目の年商は120億円に達した。環境分野で目覚ましい躍進を遂げる同社。その成長の軌跡をたどる。

大荒れの船出

 2010年、アメリカで開かれた国際プラスチック環境会議で、日本の中小企業がその独自の技術と生み出した新素材によって世界を驚かせた。創業12年目の環境ビジネスベンチャー、環境経営総合研究所である。専門家をして、これまで見たことがないと言わしめたその技術と新素材は、世界大手の化学メーカー、ダウ・グループの目に留まり、ジョイントベンチャーという形でミシガン州に生産拠点を構えたというからまさに絵に描いたようなアメリカンドリームである。とんとん拍子に海外進出まで果たした同社だが、そのスタートは決して順調ではなく、むしろ、現在の躍進ぶりからは想像もつかない大荒れの船出だったという。
 現在では世界でただひとつといわれる新素材を開発するなど、化学メーカーとして展開しているが同社だが、もともと損害保険会社の市場開発部で未公開企業への投資事業を手掛けていた松下敬通氏が興した会社だけに、創業当初は勤め人時代のノウハウを活かした、環境ベンチャーへのコンサルティング会社だったという。随分な転身に映るが、きっかけは最初にコンサルティングを手掛けたリサイクル会社がもたらした。その企業は豆腐工場で排出されるオカラに樹脂を混ぜ合わせて、梱包などに使われる緩衝材を作る技術を持ち併せており、業界内では有望視されていた。しかし、それを信じたのが仇となった。あろうことかその企業が行方不明になってしまったのだ。松下氏個人の出資金はもとより、松下氏が知人に声を掛けてかき集めた出資金も全て持ち逃げされたというから、まさに唖然呆然の事態だったという。手元に残ったのは出資の担保にしていた緩衝材製造の特許のみ。知人からも出資金を募っていた手前、残された特許に一縷の望みを託して、自らがビジネス展開するよりほかなかった。しかし、実際にオカラと樹脂を混ぜて緩衝材を作ってみても、製造後に腐敗するなどしてものにならない。つまり、残されたその特許すらデタラメだったというわけだ。

body1-1.jpg紙パウダー技術を解説する藤代清工場長

苦心の末に辿り着いた新素材、MAPKA

 それでも松下氏はくじけなかった。くじけていられなかったというのが真実だろう。オカラがダメならと、お茶やコーヒーの搾りカスなど思いつく限りの廃棄材料を試してみた。が、どれも出荷できるレベルの製品にはならず、撤退もやむなしと諦めかけたその時、思わぬ光明が差したという。知り合いの産業廃棄物業者から持て余している古紙のクズがあるという情報が入ってきたのだ。ピンときた松下氏はすぐに古紙クズを取り寄せ、作ってみるとこれが弾力性と耐久性を持った緩衝材になった。もちろん、その時点では試作品レベル。気長な研究に没頭しなければならなかった。そして、わかってきたのが、高品質のものを安定して出荷するには古紙クズをもっと細かく粉砕して樹脂と馴染ませなければならないということだった。
 「当時は、古紙クズをミクロン単位まで粉砕する技術は確立されていなかったので、自社で技術開発するしかありませんでした。そこで2年を費やして編み出したのが、石臼をヒントに開発した粉砕機による紙パウダー生成技術です。その後も改良を重ね、現在では粗粉砕機にかけたあと、微粉砕機にかける手法で、30ミクロンから50ミクロンの超微細の紙パウダーの生成に成功しています」
 と話すのは同社の千葉工場の藤代清工場長。紙を粉砕する技術を確立したことで高品質の緩衝材製造に成功したというが、この紙パウダーの用途はそれだけに留まらなかった。緩衝材のような発泡プラスチックだけでなく、通常のプラスチックの代替品もできないかと研究が進められた。そして開発されたのが新素材、MAPKA(マプカ)だ。これは、紙パウダーに樹脂を熱溶解させて粒状にしたもので、成分の重量比は約51%が古紙。つまり、素材表示上は紙である。それにも関わらず、従来のプラスチック成形機による射出成形やシート成形が可能というから、まさにポストプラスチックになり得る新素材だった。温暖化の防止や資源の有効活用といった意識が高まっている今、焼却時にダイオキシンなどの有害ガスが発生せず、CO2排出量も汎用プラスチックと比べて少ないこの素材は、企業からの引き合いも多く、食品容器や箸、紙クリップなどに活用されているという。後にこれら、紙パウダー生成技術やMAPKAといった新素材がアメリカで開かれた環境会議で賞賛を浴びたというわけである。しかし、同社が誇る製品はこれだけではない。紙パウダーとでんぷんを混ぜ合わせたペレットという粒上の素材を使った断熱材もまた、同社独自の技術による製品である。

body2-1.jpg千葉工場で製造しているペレット

試行錯誤の末、編み出した断熱材の製造法

 「断熱材の製造工程は4つです。まずは、紙パウダーを生成する紙の粉砕の作業。ここでは弊社が開発した粉砕機で、製紙工程で出る損紙という廃棄紙を30ミクロンから50ミクロンまで細かく粉砕します。その後、紙パウダーとでんぷんと水を混ぜてペレットにする造粒工程を経た後、そのペレットと樹脂を混ぜて発泡押出させ連続した弾力性のある板にします。最後は、その板をカットすれば、住宅などの断熱材となるわけです」
 と解説するのは千葉工場が開設された2003年から同工場に勤めている若梅惠子さん。今でこそ、こうした工程がきちんと整備されているが、工場設立当初は暗中模索の状態だったと明かす。
 「紙パウダーとでんぷんと水を混ぜてペレットにするという方向は決まっていたものの、どの紙とどのでんぷんを混ぜるのかが決まっていなかったんです。ですから、文字通り一から配合を模索していきました」
 それこそ、廃棄紙と呼ばれるものは全て試したといい、でんぷんもとうもろこしやじゃがいもなど適合するものを探求していったと振り返る。
 「古紙にラミネート加工などがされていると、混ぜ合わせている段階で固まってしまって、機械にこびりついてしまうんです。そうなると機械を止めて、固くこびりついたものをハンマーなどで取らなければならないという苦労もありましたし、一度、うまく出来たと思ったものが、湿度や気温の影響で次の日は、粒状ではなくラーメンのようになってしまったということもありました」
 そうした試行錯誤の末に、最も適している紙やでんぷん、水の分量などを探り当てた。確立した製造方法による断熱材は環境に優しく断熱性能も高いと評判になった。
 「弊社に入る前は、ただの一工場要員で、仕事は流れ作業が中心でした。そんな私にとっては、試行錯誤の日々は楽しくて仕方がなかったんです」
 評判が評判を呼び、注文が相次いだ。当初5人しかいなかったという工場内は、次第に人数が増えていき、今では50人以上の大所帯になっている。その中からは将来有望の若手も育ってきた。紙パウダーとでんぷんを混ぜる造粒を担当している入社5年目の湯川大輝さんもそのひとりだ。
 「紙やでんぷんを供給タンクに入れれば、後は機械が自動で造粒してくれるのですが、毎日同じものができるとは限らないんです。造粒機内の無数に穴の開いた金型からペレットが出てくるのですが、湿度によってその穴が詰まってしまったり、うまく粒状にならなかったりするんです」
 そのため、適宜、造粒機の中を目視する必要があるといい、そのときの状態によってペレットになるか否か判断しているという。
 「造粒機内の表面を原料が滑っているような状態だとペレットにならないなど、本当にわずかな違いに注視して作業を進めているのは、まさに職人気質だと思います。こうした技能を持った若手が育ってくれると頼もしいですね」
 と藤代工場長は目を細める。同社はまだまだ若い会社。これから、どのようなイノベーションを起こしてくれるのか目が離せない。

body3-1.jpg「工場内は和やかな雰囲気です」と若梅惠子さん

編集部からのメッセージ

和やかな雰囲気漂う千葉工場

 藤代工場長は、一部上場のメーカーで技術開発の業務に37年間従事していた。縁あって同社の千葉工場で働くことになり、まず手をつけたのが作業の体系化だったという。
 「工場立ち上げから間もないこともあって、作業が効率的になされていない部分がありました。それを整理すると共に、従業員一人ひとりに歩留まりなどの目標を持たせるなど、以前いた職場のノウハウを応用していきました。今後は、一人ひとりのスキルを向上させるための体制整備に取り掛かりたいです」
 前職では機械設計もしていたことから、工場内の機械改良でも活躍しているという藤代工場長。その藤代工場長いわく、以前いたメーカーと比べて、同社は穏やかで和気あいあいとしているという。なるほど、休憩時間には先輩後輩の垣根なく談笑する姿がそこここで見られる。こうした和やかな雰囲気も同社の特徴のひとつに数えられよう。

edit-1.jpg先輩社員とも仲が良いという湯川大輝さん(左)
  • 社名:株式会社環境経営総合研究所
  • 設立年・創業年:設立年 1998年
  • 資本金:4億7,000万円
  • 代表者名:代表取締役 松下敬通
  • 従業員数:181名(内、女性従業員数18名)
  • 所在地:150-0036 東京都渋谷区南平台町16-29 グリーン南平台ビル2F
  • TEL:03-5428-3123
  • URL:http://ecobioplastics.jp/
  • 採用情報:ホームページよりお問い合わせください