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多摩地区 株式会社エリオニクス

株式会社エリオニクス 産学官による連携でナノの極限に挑み続け、世界屈指の技術を開拓

株式会社エリオニクス

産学官による連携でナノの極限に挑み続け、世界屈指の技術を開拓

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多摩地区

株式会社エリオニクス

産学官による連携でナノの極限に挑み続け、世界屈指の技術を開拓

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技術者集団の挑戦ストーリー
産学官による連携でナノの極限に挑み続け、世界屈指の技術を開拓

 1ナノメートル=10億分の1メートル。この想像を絶するナノの極限領域に挑み、光デバイスやメモリーチップの研究開発に欠かせない電子ビーム描画装置などを開発・製造する株式会社エリオニクス。世界トップレベルのメーカーとして、国内外の研究者から絶大な信頼を寄せられる同社の凄みに迫る。

半導体技術の黎明期に官民一体のプロジェクトに参画

 大手精密機器メーカーの技術者7名が、「科学技術の進歩に貢献したい」という思いから設立したエリオニクス。同社が世界屈指のナノテクノロジーを手がけるきっかけは、設立2年目の1976年に訪れた。同年、通商産業省(現・経済産業省)は、将来のコンピュータシステムの要となる超LSIの開発に取り組もうと、リーディングカンパニー5社に声をかけ、「超LSI技術研究組合」が発足したのだ。その参加企業の一つだった半導体製造装置メーカーから、創業メンバーの実績が買われ、電子ビーム描画装置の共同開発の申し入れを受けた。当時の日本は半導体技術の黎明期。同分野の技術開発で先行していたアメリカへの依存から抜け出すためにも、官民一体となった新たな製造技術の開発が急務だったのだ。
 「当社が同プロジェクトで開発したのが、当社の電子ビーム描画装置の第1号である『ELS-1』です。当時では最小レベルの描画精度を実現し、この開発を機に、当社のナノテクノロジーへの挑戦が始まったのです」
 と振り返るのは、同社の4代目代表取締役社長を務める岡林徹行社長(取材当時)
 このプロジェクトの成果もあって、1980年代から日本の半導体技術が世界を席巻する。エリオニクスは半導体関連メーカーへの装置提供を通じてその隆盛を支えた。
 順調に成長を続ける同社であったが、1990年代に入ると大きく舵を切る。既存の半導体分野で大手競合他社に追随するのではなく、ナノテクノロジーの最先端研究に挑む大学・研究機関と連携し、研究者たちが研究過程で必要とする装置の開発に乗り出したのだ。同社が強みとする産学連携の幕開けだ。1997年には、当時50ナノメートルが加工限界であったナノテクノロジーの世界で、世界で始めて当時世界最小となる10ナノメートルの描画にも成功した。

body1-1.jpg技術者として同社の技術開発を支え続け、2011年に代表取締役社長に就任した岡林徹行社長(取材当時)

最小描画線幅4ナノメートル。世界最小の描画技術を開発

 「研究者の方々からの要求レベルは、もちろん高いですよ。『こんなことができるのだろうか』という難題の連続です。しかし、だからこそ、世の中にないものを製品化するという意欲、いわば技術者魂も燃え上がるんです」
 そう語る岡林社長(取材当時)の表情は穏やかだが、自身も技術者として研究者たちと一体となって先端技術を切り拓いてきた誇りが伺えた。
 同社は産学連携によって10ナノメートルから一桁台の精度実現に踏み込み、今では同社の電子ビーム描画装置の最小線画線幅はわずか4ナノメートル。これは世界最小。1センチメートル角の領域に100万本以上もの線を描くことができ、これによって大容量の次世代ハードディスクなどの研究開発を可能としている。
 「私自身、技術者時代には電気回路設計をするとともに、自ら部品を集め、試作品の組立・配線も行っていました。そうした試行錯誤があってこそ、製品化に至ったときの喜びは大きく、技術が磨かれ、さらに高いハードルへ挑む意欲が湧き上がってくるのです」
 同社の装置納入先には現在、40以上の国公立研究所、60以上の大学、150以上の企業研究所が名を連ねている。いずれも日本を代表する錚々たる顔ぶれだ。同社はこうした研究の最前線から研究動向を直に掴み、新たな技術開発に結びつけている。例えば近年では、東京大学の研究者からの要望に応えるかたちで、原子間力顕微鏡では困難だった試料表面の評価を可能とする表面力測定装置の製品化に成功。極低荷重の測定を可能とする超微小押し込み硬さ試験機は、長岡技術科学大学との共同開発から生まれたものだ。

body2-1.jpg本社1階では技術者が新製品の試作づくりに没頭する

入社2年目で新製品開発を担当。試行錯誤を重ねた日々

 岡林社長(取材当時)は現在、自身の経験と重ね合わせながら後進の育成にも力を注ぐ。
 「当社では若手社員にも積極的に開発プロジェクトの主担当を任せています。私がそうだったように、設計、制作、導入、その後の改善まで、自ら責任をもってプロジェクト全体を担い、失敗と成功を重ねていくことが技術者としての成長につながるからです」
 岡林社長(取材当時)のその言葉を体現する一人が、入社7年目の開発技術部機械技術課リーダー・小林隼人さんだ。
 小林さんは大学院で精密機械技術を研究後、エリオニクスに入社した。就職活動中、周りの友人は大手志向が強かったが、小林さんは自分が大人数に埋没されかねない大手企業には目を向けず、少数精鋭の一員として独自技術の開発に挑みたいという信念で同社を選択。大学院時代にはエリオニクスとの産学共同プロジェクトも経験し、同社の技術力の高さや新技術の開発に挑む熱意を肌で感じていたことも決め手になった。
 入社後の小林さんは特注部品の機械設計を担当。そして2年目の4月には、早くも新製品開発プロジェクトの主担当を任された。
 「機械、電機、情報システムの技術者3名でプロジェクトチームを編成し、超微小押し込み硬さ試験機の最上位機種『ENT-3100』の開発に取り組むことになったのです。先行製品で培った技術がすでにあったので、当初は正直、それほど難しくはないだろうと高をくくっていました。しかし、大きな間違いでした。装置性能をさらに突き詰めていくのは、かつてない未知の領域で、問題が発生するたびに、一体何が起きているのかという状況すら理解できない状態でした。3名で頭を突き合わせて考え、周りの先輩の力を借りながら原因を究明し、解決の糸口を見つけては試作を重ねる日々でした。困難の連続でしたが、まだ世の中にない技術を生み出すことへの信念と情熱は見失いませんでした」

body3-1.jpg「ナノレベルの開発では自然の神秘にも触れられるんです」と語る小林隼人さん

大手では得られなかった濃密な経験を通じて成長

 開発には2年を費やしたが、小林さんたちの未開の領域への挑戦が実を結び、『ENT-3100』が同社の製品ラインナップに加わった。同機種では、ナノ単位の素材に1000分の1グラムという超微小の圧力をかけることで、素材の硬さ測定を可能とした。高レベルの精度と安定性を実現し、液晶保護フィルムやダイヤモンドライクカーボン(DLC)などの評価に実用が広がっている。
 「専門分野の機械技術に留まらず、電気やソフトウェアの仕様検討にも加わり、企画段階から開発、試作、製品化に至るまで、リーダーとしてモノづくり全体を推進することができました。この経験を通して、技術開発や製造に対する理解も視野も格段に広がりました。分業化が進んでいる大手企業を選んでいたら、入社2年目でこうしたプロジェクト全体を担うチャンスは得られなかったと思います」
 自信に溢れるまなざしでキャリアの道筋を語る小林さんは、現在、表面力測定装置『ESF-5000』のブラッシュアップを担当。装置のユーザーである大学の研究者と実際の測定データや活用方法などを共有し、ユーザーの生の声をもとに製品改良を進めている。
 「私たちは装置開発のエキスパートですが、研究にどう活用するかという事例の蓄積や製品評価についてはユーザーである研究機関の方々が長けています。そうした研究の最前線から直接、開発の種をいただけることも、産学連携に取り組む当社ならではのこと。ユーザーがどんな研究に取り組み、そのために何が必要で、そこに自分たちはどう貢献できるかというユーザー目線の開発に今後も挑んでいくつもりです」

body4-1.jpg技術と営業が開発の進捗やユーザーニーズをきめ細かく共有

海外営業の突破口として、アメリカの名門大学へ装置を導入

 こうしたエリオニクスの技術力の高さは、海外にも浸透し始めている。韓国、台湾、シンガポール、中国の大学・研究機関ですでに同社製装置の導入が進み、現在は欧米マーケットの開拓に乗り出している。その最前線を担っているのが、営業本部海外営業課課長・若松哲臣さんだ。
 「日本国内では大学の約8割に当社の装置が導入されていますが、国内と比べて、海外ではELIONIXの名はまだ知られていません。アジアマーケットの開拓には手応えを感じていますが、欧米マーケットの開拓はこれからが勝負です」
 率直にそう語ってくれた若松さんは海外戦略をこう語る。
 「まずはナノテクノロジーを牽引するアメリカの有名大学で導入実績を作り、その強力な実績、つまり最先端の研究者たちからのお墨付きを引っさげて、学会や展示会などを通じて大きく拡販させていこうという戦略です。ハーバード大学、プリンストン大学、マサチューセッツ工科大学(MIT)というアメリカを代表する名門3校に、すでに当社の電子ビーム描画装置の納入を果たしました。もちろん他社とのコンペでしたが、性能面で高い評価をいただき、受注に成功しました」
 若松さんの戦略が見事にはまり、有名校での実績が強力な後ろ盾となってアメリカの大学・研究機関からの引き合い増加に拍車がかかっているという。さらに、ハーバード大学をはじめとする研究者が、エリオニクス製装置を使った研究成果を学会等で次々と発表。そうした学術面の成果は海を超えてヨーロッパにも渡り、デンマークやノルウェーの大学にも同社の装置が導入された。現在はこうした実績づくりに加え、世界的に権威のある学会に展示ブースを設け、技術力をアピール。海外第一線の研究者から好評価を得ているという。
 「当社の海外売上は現在のところ全体の15%ほどですが、会社として海外営業を強化し、40%まで高めることを大命題として掲げています。そのためにどんな戦略が効果的なのか、戦略の立案、マーケティング、展示会等の企画・実施、パートナー企業とのリレーション構築など、すべての裁量を任されていますので、営業としての面白さは尽きません」
 と、若松さんは海外戦略を担うやりがいと手応えを話してくれた。海外においても実績と評判が着実に広がり始めている同社。日本、アジア諸国に続き、欧米マーケットにELIONIXの名が知れ渡る日もそう遠くないことだろう。

body5-1.jpg「飛び抜けた技術力を武器に自信をもってプレゼンに挑んでいます」という若松哲臣さん

編集部からのメッセージ

産学官による連携を切り拓いてきた実績

 機械・電気・物理・情報システムなど、各分野のエキスパートが集結するエリオニクスの技術開発部門。営業部門とも密に連携しながら、大学や国立研究機関、企業研究所と直に課題・ニーズを共有し、次世代デバイスなどの研究の最前線と一体となった製品づくりに挑み続けている。こうした産学官連携の取組が認められ、2010年には現会長の本目精吾氏が「産学官連携功労者表彰」経済産業大臣賞を受賞。また、同氏は2011年に春の叙勲旭日双光章を受章している。
 同社の高精度な描画・測定技術は、次世代デバイスの研究に欠かせないものだ。若松さんが語ってくれたように世界の研究者からの評価も高まる一方で、2014年には経済産業省「グローバルニッチトップ企業100選」にも選出されるなど、国からも大きな期待が寄せられている。世界屈指の技術を培う同社が、今後も新たな次世代デバイス開発のカギを握っていると言っても過言ではないだろう。

  • 社名:株式会社エリオニクス
  • 設立年・創業年:設立年 1975年
  • 資本金:2億7,000万円
  • 代表者名:代表取締役社長 七野実 代表取締役会長 岡林徹行
  • 従業員数:99名(内、女性従業員数14名)
  • 所在地:192-0063 東京都八王子市元横山町3-7-6
  • TEL:042-626-0612
  • URL:http://www.elionix.co.jp
  • 採用情報:ホームページよりお問い合わせください