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城東地区 フットマーク株式会社

フットマーク株式会社 創業から続くユニークなものづくり。 カナヅチも泳げてしまう不思議な水着

フットマーク株式会社

創業から続くユニークなものづくり。 カナヅチも泳げてしまう不思議な水着

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城東地区

フットマーク株式会社

創業から続くユニークなものづくり。 カナヅチも泳げてしまう不思議な水着

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商品開発ストーリー
創業から続くユニークなものづくり。カナヅチも泳げてしまう不思議な水着。

 水着や水泳バッグに印された足あとをかたどったロゴマークで知られるフットマーク。水泳帽子の国内市場で高いシェアを誇る一方で介護用品の開発製造も手がけている。従業員61名の中小企業がこれほどまでに高い認知度やシェアを維持するのは、ひとえに商品開発力である。そこで同社の特徴ともいえるユニークな商品開発ストーリーを紹介する。

思わぬ発想から誕生した、ある大ヒット商品

 同社は、赤ちゃんのおむつカバー製造メーカーとして1946年に創業。時あたかも団塊世代で知られる第一次ベビーブーム前夜。1947年から49年までの3年間で生まれた子どもの数は800万人ともいわれているだけに、同社の事業は右肩上がりに拡大していった。ベビーブームの恩恵を享受する同社であったが、一つだけ気がかりがあった。
 「おむつカバーは気温が高くなると中が蒸れてしまうため、夏場を迎えると売上ががくっと落ちてしまったんです。社長を務めていた磯部成文現会長は、盤石な経営を実践するには、夏場に売れる商品開発が不可欠だと考えました」
 と三瓶芳代表取締役社長は当時を振り返る。そこで赤ちゃんのおむつカバーで使用していた素材と培ってきた縫製技術を活かして誕生したのが水泳帽である。
 「偶然か先見の明か分かりませんが、ベビーブームのときのように環境も後押ししてくれました。戦後間もない頃までは、水泳日本といって日本のお家芸にもなっていたんですが、1964年の東京オリンピックでは結果が振るわなかったんですね。そこで文部省が水泳の底上げを図ろうと、全国の小中学校にプールを設置して本格的に水泳教育を導入し始めたんです」
 今でこそ、プールの授業時には着用するのが当たり前化している水泳帽だが、当時は、着帽文化はなかったという。それだけに、普及には5、6年ほどかかったというが、衛生面の効能はもとより、水泳帽に名前を記せば、児童の判別がしやすく、また、帽子に泳力に応じたマークを貼れば指導がしやすいという提案営業を続けていったおかげで、次第に浸透していった。いわば、プールの授業で水泳帽をかぶるという文化、ひいては、プールでは着帽という習慣を、同社が普及させたというわけだ。
 ユニークな発想から大ヒット商品を生み出した同社。この社風は現在まで脈々と受け継がれている。同社の「スーパー中学生ものづくりプロジェクト」もまた、こうした社風のもとで生まれた企画である。

body1-1.jpg若い頃は、営業に製造に配送にとひとりで何役もこなしたという、三瓶芳社長

女子生徒の会社訪問がきっかけでスタートしたプロジェクト

 「毎年、中学生の職場体験を受け入れているのですが、2013年に来た2人の女子中学生が驚くべき行動力を持った生徒だったんです」
 と振り返る三瓶社長。それもそのはず、生徒たちはわざわざ静岡から実費で同社に訪れた上に、2人とも大人顔負けでしっかりとした考えを持ち、ものづくりにも興味をもっていたという。感心した三瓶社長、その2人の女子生徒に一緒にものづくりをしてみないかと持ちかけたというのだ。これが、中学生が水着を開発するというユニークな取り組み「スーパー中学生ものづくりプロジェクト」誕生の瞬間だった。
 「それからも2人の行動力には驚かされっぱなしでした。全校生徒に対して本場の市場調査顔負けのアンケート調査を実施してデータを上げてきたんです。そこには、プールの授業では日焼けクリームを塗っているという実態や、お腹が気になるので隠したいといった男子生徒の意見など、我々が考えもしないような貴重な意見の数々がありました」
こうした市場調査に加えて、双方で静岡と東京を行き来しての打ち合わせを重ねた結果、完成したのが「HELLO swimwear」である。この水着、お腹まわりに余裕をもたせたギャザー構造にし、肩口にはゴーグルをかけられる紐を付けるなど、生徒たちの声を積極的に反映した商品に仕上がった。
 「これをきっかけに、第2第3弾と同プロジェクトを続けてきました。会社としては、我々では思いもつかないような発想が刺激になりますし、子どもたちにとっても実際のものづくりを体験できる貴重な場になっていると思います。今後も率先して取り組んでいきたいですね」
 同社のユニークなものづくりプロジェクトはこれに留まらない。泳げない子どもが、着るだけで泳げるようになる魔法のような水着の開発を目指した「クロールで25」もその一環で、開発に3年を費やしたという。

body2-1.jpg「クロールで25」開発の経緯を語る佐野玲子さん

自分と同じような思いをしている子どもを救いたい

 プロジェクト立ち上げのきっかけは三瓶社長が、プールの授業を欠席する子どもが増えているというニュースを耳にしたことだった。水泳用品を開発している同社にとって、このニュースは由々しき問題。早速調査してみると、確かに水泳嫌い、あるいは泳げない子どもが増えており、それがいじめの原因にもなっているケースがあることも分かった。そこで、三瓶社長、水泳開発チームの佐野玲子さんに「着るだけで泳げるようになる水着があったら凄くないか?」と持ちかけたという。実は佐野さんはほとんど泳げない、いわゆるカナヅチであった。
 「私が泳げない苦労をしっているだけに、実現は難しいだろうと思ったんですが、一方で、それって本当にできたら凄いことだよなと、開発意欲がにわかに沸いてきたのも事実です」
 営業や製造、広報などの各部門のリーダーを呼んでプロジェクトチームを組んだが、社内を横断する組織づくりは初めての試み。誰がどのようにどんな手順でプロジェクトを進めていくのかも手探りの状態だったという。それでも、外部のブランド開発や商品開発の専門家の手も借り、ミーティングを重ねていった結果、ある結論に至った。
 「討議を重ねた結果、泳げないのは下半身が沈んでしまうからという答えを導き出したんです。下半身が沈めば、前進できないのはもちろん、息継ぎもできなければ腕で水をかくこともできない。それがわかると対策はシンプルで、下半身が浮く水着があれば、泳げるようになるかもしれないという結論になりました」
解決の糸口が見つかると、早速、社長も交えての実証実験を行った。体のどの部分にどの程度の浮力材をつければ下半身が浮き上がるのかということを、実際にプールに行って実験が繰り返された。
 「実際に検証していくうちに、浮くことと泳ぐことは同じではないことが分かってきたんです。下半身が浮けば泳げるようになる訳ではない、泳げるようになるには理論と習得するための何かが、必要ではないか…。水泳の専門家の協力が必要になりました。そこで出会ったのが水泳の個人指導を専門にしている株式会社アクアの小倉和宏さんです」
 水泳指導の専門家が参加したことでプロジェクトは大きく前進。小倉氏による「4点浮力理論」により、太ももと脇腹部分に浮力材を付けて体を浮かせる水着形状を導き出した。
 「浮いてから泳げるようになるには、技術が必要であることも分かってきました。そこで小倉さんの監修と出演で分かりやすく制作したDVDとテキストブックもセットにして販売することにしたんです」
 その後、幾度となく水着のモニターテストを繰り返し、試作品第一号が完成。この試作品を試してみたのは、他ならぬ佐野さんだった。 
「水着を着て、プールに入った瞬間、『あ、これはいける』と感じました。水泳教材を監修したプロの方の指導もあったのですが、実に1時間で25m泳げるようになったんです。途中、ふわっと突然、泳げるようになった瞬間があったんですが、その感覚は今でも鮮明に覚えています」
 子どものころは、プールの授業が大嫌いで憂鬱だったという佐野さん。同じような思いをしている子どもたちが、自分が体感した泳げる瞬間を感じたら、どんなに喜ぶだろうと目を輝かせる。現在、この水着をビート板のように備品として採用している学校も増えているという。
 「自分たちで考え出したアイディアを一丸となって実現に向けて取り組んでいく。そしてその先には手にとった人の笑顔がある。これがものづくりの醍醐味です」
と力強く語る三瓶社長。同社のユニークなものづくりは、今後も多くの人の笑顔を生み出していくに違いない。

body3-1.jpg間仕切りのないオフィスは、コミュニケーションも図りやすく風通しが良い

編集部からのメッセージ

ものづくりに打ち込める職場

 水泳開発チームの佐野さんは「クロールで25」に携わる以前は、水中ウォーキング用の水着の開発などを行っていた。この水着のメインターゲットである高年齢者の声を聞くために、職場近くの両国屋内プールに通っていたという。それもわざわざ半年間の水泳講座を受講し一緒に泳ぐほどの力の入れようだったというから頭が下がる。佐野さんの行動力はもちろん、こうした時間をかけてのものづくりを許可してくれる同社の懐の深さにも驚かされた。妥協はせずに納得いくまでものづくりに没頭したい、そんなものづくり好きには格好の職場環境といえよう。

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  • 社名:フットマーク株式会社
  • 設立年・創業年:設立年 1950年 / 創業年 1946年
  • 資本金:8,500万円
  • 代表者名:代表取締役社長 三瓶芳
  • 従業員数:61名(内、女性従業員数29名)
  • 所在地:130-0021 東京都墨田区緑2-7-12
  • TEL:0120-210-657
  • URL:http://www.footmark.co.jp/
  • 採用情報:こちらからご確認ください。