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城東地区 株式会社旅籠屋

株式会社旅籠屋 アメリカのMotelをモデルにした宿泊施設で日本の旅を変える

株式会社旅籠屋

アメリカのMotelをモデルにした宿泊施設で日本の旅を変える

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城東地区

株式会社旅籠屋

アメリカのMotelをモデルにした宿泊施設で日本の旅を変える

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新事業創出ストーリー
アメリカのMotelをモデルにした宿泊施設で日本の旅を変える

 アメリカのMotelをモデルにしたロードサイドの宿泊施設を展開する旅籠屋。その事業の背景には、自由気ままな旅の実現という夢があった。

アメリカで実感した旅の魅力を日本にも

 アメリカ映画の中でしばしば登場するロードサイドに点在するMotel(モーテル)。クルマ社会のアメリカの大衆的な宿泊施設で数万軒にも及ぶと言われている。このMotelをモデルにした宿泊施設を運営して、日本の旅のあり方を変えようと挑んでいるのが旅籠屋である。
 そのきっかけは同社代表取締役の甲斐真氏が知人からもたらされた「アメリカにMotelというポピュラーな宿泊施設があるよ」という情報だった。さりげなく耳にした話ではあったが、脱サラしたばかりの甲斐氏はどこか魅力を感じ、友人とアメリカに飛んだ。クルマで移動しながらMotelをはしごする旅は半月に及んだ。しかし、Motelの心地よさに疲れを感じることはなかったという。俄然、「日本で気ままな旅ができる宿泊施設を作る」という思いを強くしての帰国だったと当時を振り返る。
 「日本でMotelといえばラブホテルを連想しますが、アメリカでは旅に不可欠な素泊まりの宿泊施設として周知されています。土地勘もなければ、英語もあまりしゃべれない私でも、シンプルがゆえに見知らぬ街でも物怖じせずに泊まれるMotelを日本に広げたいと設立しました」(甲斐氏)
 もっとも、日本の国内旅行といえば、1泊、2泊でご当地の名物に舌鼓し、観光地だけを巡る旅が一般的。甲斐氏が根づかせたい旅とは、気ままに出かけて地域の人々や文化などに偶然に出会えるスタイル。そんな旅を日本に根づかせるというところから旅籠屋式Motelの展開は始まった。

body1-1.jpg自分自身も気ままなバイク旅行が好きと語る甲斐真代表取締役

全国の国道や高速道路のサービスエリアに出店

 素泊まりのロードサイドホテル「ファミリーロッジ旅籠屋」第1号店は鬼怒川温泉近くに開店。甲斐氏は夫婦で支配人として住み込んだ。もちろん、ロビーに立っていれば客が来るというものではない。サラリーマン時代の伝手を使ってマスコミに「日本初のMotel」というキャッチフレーズで売り込んだ。その仕掛けが功を奏し、雑誌などに取り上げられ、滑り出しから順調そのものだった。
 翌年からは利用者も増え、公募増資などによって集めた資金で4号店までオープン。5号店からは遊休地の所有者の建物を建ててもらい、それを旅籠屋が借り上げて経営・運営するというスタイルを中心に店舗を増やしている。
 「その後、国道などのロードサイドはもちろん、日本道路公団の民営化というのも手伝って、高速道路のサービスエリアにも3店舗を出店。現在では全国に52店舗という規模に成長しています」(甲斐氏)
 日本にMotelを展開し、気ままに旅ができるインフラを作るという夢を追い続けてきた甲斐氏。その夢は現実化しつつある甲斐氏が何よりもうれしい瞬間は利用者からの手紙だという。
 「定年退職した主人と夫婦水入らずに気ままな旅を楽しめました」といった文面を読むと、自らが目指した日本の旅のスタイルを楽しんでいる人が増えていることを実感すると表情を和らげる。

body2-1.jpg全国各地のロードサイドに出店する旅籠屋。こちらは「津山店」の外観

快適で働きやすい施設づくりに打ち込む

 旅籠屋では、ブランドイメージを統一するために白い壁にモスグリーンの屋根をあしらった意匠を全店舗に施している。こうした施設の設計、施工管理を担当しているのが、店舗開発部マネジャーの岡安雅人さんだ。店舗用地が決定すれば、現地調査、基本設計をして役所への確認申請を行い、設計通りに施工されているのかを確認する施工管理を行う。さらに既存施設のメンテナンスや改善も岡安さんの仕事である。
 「個人住宅の設計に携わっていましたが、3年前に当社に転職しました。個人住宅と宿泊施設の違いはありますが、利用する方が快適に過ごせる空間を創るのが私の使命。ただ前職と決定的に違うのは、当社には一体感があるということ。オープン前は社員が集まって準備するのでチームで仕事をしている実感が味わえます。しかもオープン後も自社で運営するので愛着はひとしおですね」
 そんな岡安さんが設計で心がけているのは、例えば、掃除がしやすい設計であったり、パソコンなどの配線を見えないところに収納するといった、宿泊客や働く人に配慮した設計だ。さらに住宅設計で培ってきたノウハウを活かし、軒を出して壁が傷みづらい設計をするなど、建物の耐久性を高めるような工夫にも余念がない。

body3-1.jpg宿泊客はもちろん、施設で働く支配人のことを考えて設計に臨む岡安雅人さん

「成人」を迎えた旅籠屋の新しい20年をつくりたい

 施設づくりを通して快適な旅を支援するのが岡安さんの使命なら、各店舗の支配人をサポートしているのが店舗管理部の小倉博也さんである。小倉さんは専門商社勤務や農業を営んだ後、一生をかけてすべき仕事を探している時に旅籠屋に出会った。
「求人情報を機会に社長のブログや書籍を読み、事業にかける熱い想いや規制の壁を乗り越えて日本にMotelを展開してきた姿勢に共感、当社の門を叩きました」
 そんな小倉さんの現在の仕事は、支配人や利用客の問い合わせに対応すること。パソコン入力の仕方からお客様対応の仕方など、運営に関わるすべての問い合わせに迅速に応えているが、つねに配慮しているのが、「明確な答え」である。わかることはすぐに答え、わからないことは「2時間後に返事する」といったように時間を区切る。
 「現場で困っているから私に電話がかかってくるわけですから、イエス・ノーをはっきりしないと支配人は不安を抱えたままです。また支配人や代行支配人は全員、面識がありますから相手の性格を考慮して伝え方を工夫することも心がけています」
 社会人経験が豊富な小倉さんだが、入社は1年半と社歴は浅い。しかし、キャリアの浅さは逆手に取って、「先入観に捉われずに当社の良いところは残し、新しいことに挑戦しながら旅籠屋に貢献したい」という。旅籠屋は今年22周年を迎えるが、「次の20年を自分たちで創ろう」という小倉さんの情熱は甲斐氏に勝るとも劣らない。

body4-1.jpg支配人の相談役でもある小倉博也さんは、常に相手の立場から物事を考える

編集部メモ

カップルで働くというユニークな支配人制度

 全国に広がる旅籠屋の雇用形態もユニークで、各店舗の支配人はカップルが住み込みで働くというスタイルを踏襲している。その多くは夫婦だが、戸籍上の夫婦に限定しない。「生涯を共にするパートナー同士」という規定で、若い人から60代まで年齢層も幅広いのが特徴。支配人の仕事はフロント業務、建物内外の清掃、維持管理、周辺地域へのPRなどで、業務習得のための半年から1年程度、支配人代行として勤務を経験後に店舗に配属されることになる。
 同時に旅籠屋では、支配人の休日に代役を務める支配人代行専門も募集している。
こちらも夫婦などの二人一組のカップルが対象である。支配人代行の仕事は基本的に支配人と同じだが、特定の店舗に住み込まないのがポイントで、「リタイヤした後も夫婦ふたりで喜ばれる仕事がしたい」「フルタイムではなく自分たちのペースに合わせて働きたい」「仕事をしながら日本各地を訪ねたい」といった多くのカップルが勤務している。