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中央・城北地区 株式会社ヒカリ

株式会社ヒカリ 「すべての理美容師に、カットが楽しくなるハサミを」 職人企業の強い使命感とぶれない姿勢

株式会社ヒカリ

「すべての理美容師に、カットが楽しくなるハサミを」 職人企業の強い使命感とぶれない姿勢

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株式会社ヒカリ

「すべての理美容師に、カットが楽しくなるハサミを」 職人企業の強い使命感とぶれない姿勢

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職人を支える職人ストーリー
「すべての理美容師に、カットが楽しくなるハサミを」 職人企業の強い使命感とぶれない姿勢

 「理美容師にいいハサミを使って仕事をしてもらいたい」。純粋な使命感に燃え、品質にこだわり、技術力を磨いてきたヒカリ。理美容師を支える企業のポリシーに迫った。

カットが楽しくなるハサミを作る企業

 「弘法筆を選ばず」という言葉があるが、実際は優れた技術者ほど道具にこだわるもの。ピタッと手になじみ、ストレスなく動く道具なしには、持てる腕前を100パーセント発揮することはできないからだ。いうまでもなく、それだけ高度な要求に応える道具となると、作る側にも相応の技術が求められる。使う側が職人ならば、作る側もまた職人でなければならないのだ。
 とりわけ、朝から晩までハサミを握り続ける理美容師にとって、ハサミは我が身同然でなければならないもの。当然、そこに妥協はなく、1丁数万~十数万円する高価なハサミが当たり前に使われている。ヒカリは、理美容師用のハサミを作り続けて50年の老舗メーカー。それだけの金額と要求に見合う製品を提供し続け、全国の理美容師からの信頼を得ているのだから、同社の技術力の高さは推して知るべしといえよう。
 同社の強みは高い技術力だけで成り立っているわけではない。それを支える「すべての理美容師にいいハサミを使ってもらう」という強い使命感に他ならないと語るのは、今年5月に就任した3代目社長の高橋伸一さん。
 「いいハサミを使わないとカットが楽しくないんですよ。まっすぐ切りたいと思ったらまっすぐ切れる、20パーセントすこうと思ったらその通りにすける。そんないいハサミを使えば、カットが楽しくなって、もっと技術を磨きたいという気持ちになってくるんです。カットが楽しくなるようなハサミを、理美容師さんに使ってもらうのが当社の使命です」
 そう熱く語る高橋社長。自身も美容師資格を持っており、入社前に9年間サロン務めを経験。「カットが楽しい」という感覚的表現は、美容師だからこその実感がこもった言葉というわけだ。

body1-1.jpg仕事にかける純粋な思いを語る高橋伸一社長

品質に手を抜かない企業は、人材育成にも手を抜かない

 「人の手で作ったぬくもりや味のあるハサミは、機械で作ったハサミとは全然違います。言葉にするのは難しいのですが、握った時、髪にハサミを入れた時に指に伝わる感覚が違うんです。だから、当社の仕事に機械化はありません」(高橋社長)
 直感的な楽しさを重視するヒカリでは、すべてのハサミが手作りだ。約40工程を手作業で行い、品質のチェックも徹底している。工程の最後に社長や会長(前社長)が検査し、品質が達しないものは思い切って破棄となる。
 一丁のハサミを作るのに多くの手間と費用ををかけているだけに破棄は大きな痛手に違いない。中には一般的な基準で言えば合格点に達しているようなものもあるが、同社に妥協はない。人一倍の厳しい姿勢を貫くことが、理美容師からの信頼につながっているからだ。最終的に製品として完成するのは、多くても月に1000丁ほどだという。
 そして「人の手」が財産という同社は、人材育成にも投資を惜しまない。新人は入社早々から、実際の現場に行ってハサミの製造に携わることになる。練習用のハサミがあるわけではないから、ぶっつけ本番の製品づくりだ。当然、最初からうまくできるわけもなく、破棄も大量に出るという。
 「製品になれば十数万円にもなるものを何十丁、何百丁と壊しますよ。一人の職人を一人前に育てるまでに会社は2000万円は投資することになります。でも、いい製品を作り続けるためには、しっかり時間とお金をかけて人を育てていかないといけないのです」
 金額は目に見える形で、仕事に対する責任感につながる。自らに課せられた責任感を自覚し、緊張感を持って仕事に臨むことで、一流の腕は磨かれていくのだろう。

body2-1.jpgハサミのラインアップは200種類以上

責任感が新たな職人を育てる

 製品づくり以上に若手の成長につながっているのが、実はメンテナンス。現在、メンテナンスを中心に行っている高木敦さんは、製品づくりとは違った緊張感の中で、腕を磨くことにやりがいを感じているという。
 「展示会などがあると出張メンテナンスといって、その場でハサミを預かって、お客様の目の前でハサミを研磨するイベントを行っています。それは緊張しますよ。実際にお客様が使っているものですから、失敗は絶対に許されません。しかし、使っている人の声が直に聞ける貴重な機会でもあります」
 そう話す高木さんも元美容師。ヒカリに入社したのは3年前、30代になってからだった。職人としてのスタートには遅いようにも思えるが、本人のモチベーションは極めて高い。
 「これまでの経歴は関係なく、技術力さえあれば経験の長い人も追い越していけるのが職人の世界です。やればやっただけ成長を感じられるのが、技術職の一番の魅力ですね」(高木さん)
 同じくメンテナンスを担当する佐藤美帆さんは、一方でネイリスト用のキューティクルニッパーも担当する入社2年目の若手社員。モノ作りに興味があったことから、高校を卒業後、地元の企業であるヒカリに入社。新潟工場で1年間製造の経験を積み、現職についた。
 「東京にはキューティクルニッパーの担当は私しかいないので、わからないことがあっても、自分で考えて解決しなければならないのは大変です。大きな責任に押しつぶされそうになることもありますが、やりがいも大きくなりますから毎日充実感いっぱいですね。もっとスキルアップして先輩社員に認めてもらうのが目標です」

body3-1.jpg職人人生に手応えを感じているという高木敦さん

海外でもぶれないヒカリの軸

 これまで、カットが楽しくなるハサミを全国に届けてきたヒカリ。その活動範囲は海外にまで広がっている。高橋社長は、現在、東南アジアなどと日本を行ったり来たりする毎日だという。
 価値観の異なる海外でものを売るのは一朝一夕にいかないもの。とりわけ、理美容師用のハサミは難しいという。実は理美容師に国家資格が必要な日本と違い、海外の多くの国ではそこまで厳格なものがない。ある意味では誰でも始められる職業で、カット技術を向上させるという発想はもとより、いいハサミを使うメリットも感じてもらえないというのだ。
 そこで、高橋社長は海外でカット技術を向上させるセミナーから始めた。技術を習得することの楽しさを知ってもらうことで、いいハサミを使うメリット、ヒカリのハサミの良さも感じてもらえるようになるのだと語る。
 「世界にはまだまだ普通のハサミを使って髪を切る理美容師さんがたくさんいます。一人でも多くの理美容師さんに、いいハサミを使って、楽しくカットしてもらいたい。そのためにもっと当社のハサミを発信していきたいです」
 そうである以上、品質にも手は抜けない。定期的なメンテナンスが必要になるハサミの品質を維持するために、海外の代理店には必ず研磨の研修を受けさせる。代理店のスタッフを日本に呼んで、1~3か月の研修で技術を修得できた者のみ、製品のみ取り扱いを許可するという徹底した姿勢を貫いているのだ。
 海外での活動を語る中で、高橋社長は「海外展開、海外進出」というビジネス色の強い言葉を使わなかった。ヒカリにとって海外での活動は市場開拓ではなく、「理美容師にカットが楽しくなるようないいハサミを届けたい」という純粋な使命感の表れなのだ。どこまでもぶれない姿勢に、職人企業のあるべき姿を見た。

body4-1.jpgキューティクルニッパーを研磨する佐藤美帆さん

編集部メモ

ヒカリの原点。理容師からハサミ職人への転向。

 ヒカリの創業は、現社長の祖父の代。創業者は新潟で理容業を営んでいたが、当時はハサミの材質や品質も悪く、自分で研磨しながら、なんとか使っていたという。メーカーに理想のハサミを提案したこともあったが、なかなか製品化にはこぎつけられなかった。
 そんな折、新潟地震により経営していたサロンが倒壊。それを機に上京し、理想のハサミを自分で作ろうと会社を興した。
 創業当時は、工場でハサミを作り、ワゴン車に製品を積んで全国を回り、在庫がなくなったら帰ってきてまた作るという地道な経営を続けた。
 「地方で代々続く理容店などに行くと、祖父の時代のことを覚えてくれている人に出会ったりするんです。私は祖父の仕事ぶりを見たことはありませんが、そんな人たちから話を伺う度に、祖父や父、そしてここまでに社員が作り上げてきたこの会社を背負う責任を強く感じます」(高橋社長)

edit-1.jpg今年、新社長の元で新たなスタートを切った。
  • 社名:株式会社ヒカリ
  • 設立年・創業年:設立 1967年
  • 資本金:1,300万円
  • 代表者名:代表取締役社長 高橋 伸一
  • 従業員数:57名(内、女性従業員数18名)
  • 所在地:173-0034 東京都板橋区幸町25-8
  • TEL:03-3973-1626
  • URL:http://hikari-scissors.com