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城東地区 細見工業株式会社

細見工業株式会社 誰に何をどう伝えたいのか。本質を考え抜き、唯一無二の「展示」を創造

細見工業株式会社

誰に何をどう伝えたいのか。本質を考え抜き、唯一無二の「展示」を創造

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城東地区

細見工業株式会社

誰に何をどう伝えたいのか。本質を考え抜き、唯一無二の「展示」を創造

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オンリーワンのものづくりストーリー
誰に何をどう伝えたいのか。本質を考え抜き、唯一無二の「展示」を創造

 美術品や文化財の展示ケースをはじめ、ディスプレイ製品やオブジェをオーダーメイドする細見工業。「魅せる」「伝える」をカタチにするものづくり企業。

お客様のお客様まで意識し、難解な要望にも徹底して向き合う

 博物館や美術館に並ぶ展示物を収納する展示ケース。いうまでもなく鑑賞物の魅力を損なうような設えであってはならない。むしろ、いま時は “引き立て役”として期待度も高まっている。
 そんなミュージアムケースのオーダーメイドを請負う細見工業は、デザイン・設計・制作・施工・取付まで自社で一貫して取り扱うものづくり集団。「ケースの存在感を限りなく消し去りたい」「頑健なセキュリティを確保しつつ、鍵穴などは観る人に見せたくない」といった難問にも細見工業なら限りなく要望を受け入れてくれると多くの企業から信頼を寄せられている。
 「熱や光、湿度などから展示物を守る気密性、展示物を際立たせるデザイン性、そして施設運営側の方々の使い勝手。これらの要望は得てして相反することが多く、全ての要望に応えるのは一朝一夕にはいきません。それでも、私たちは決して『できない』とは言いません。私たちの直接のお客様であるディスプレイ会社や各施設の方々はもちろん、お客様のお客様、つまり実際に展示物をご覧になる方々の視点まで意識し、『誰に、何を伝え、どう感じてもらいたいのか』を突き詰めていき、それを具現化するのが私たちのものづくり姿勢です」
 細見大作代表がそう語るものづくりのスタンスこそが同社の真骨頂。信念を揺るがすことなく約半世紀の歴史を刻んできた。

body1-1.jpgディスプレイ業界の大手企業で経験を積み、2002年から同社の経営に手腕を振るう細見大作代表

日本最古の顕微鏡を飾る360度ガラスのケースをカタチに

 製作全体の指揮を執る海老原栄輔製作部部長は、「難しいからこそ面白い」と胸を張る。その精神を物語る好例が日本最古の顕微鏡の展示ケース。博物館側は「緻密な機械構造を余すところなく観てもらいたい」と、360度ガラスで覆った筒形ケースをオーダーしてきた。
 「筒状のガラスを固定する金属の土台や骨組みが問題となりました。どうやったら目立たないように設置でき、強度を確保するか。設計はもちろん、部材、加工方法まで、お客様をも巻き込んで調整を重ねる日々でした」
 ガラスと金属の接合はミリ単位の作業。塗装にも細心の注意が払われた。完成したケースにライトが当てられ、そこに顕微鏡の雄姿が浮かび上がった瞬間、「最高のケースができた」と立ち会った全員で喜び合ったという。
 展示ケースには金属、ガラス、木、布など多彩な素材が駆使され、塗装や溶接の方法も千差万別。強度や気密性、セキュリティ面での充実も欠かせない。いわば、展示ケースは技術の集大成であり、この技術を体得するには一朝一夕にはいかない。
 「だからこそ探求への興味が尽きず、常に新たなチャレンジを楽しめるんです」と、海老原さんは学びの連続だと、仕事の奥深さを語ってくれた。

body2-1.jpg「私たちがリカバーするから心配はいらない」と、若手のチャレンジを日々後押しする海老原栄輔さん

想定外の事態を乗り切り、完成の日の目を見たときの達成感

 同社のものづくりには顧客や製作・設計担当、部材メーカー、施工業者など多くの力が結集されるため、円滑にモノづくりを進めるには全体の進捗を管理する存在が欠かせない。その要となるのが同社の営業推進部だ。「営業」と名が付くが、顧客との窓口となるのはもちろんのこと、要望のヒアリングからプランニング、さらにはそれに基づく各種手配をこなし、取付施工にも立ち会うなど全工程に関わる。
 入社1年目の田中琢人さんは、主に商業施設の空間を彩るディスプレイ装飾を手掛けている。大型商業施設のリニューアルにあたってエレベーターやエスカレーターの壁面装飾を担当した際には、その難しさと共に大きなやりがいを感じたという。
 「コンセプトは木目の風合いを生かした柔らかい空間づくり。木目の枠を格子状に組み上げ、所々に観葉植物を飾るケースを配置するというデザインでしたが、消防法の兼ね合いで本物の木を使うことができないため、ステンレス素材に木目のシールを貼り付け、ビス止めなども見えないようにする工夫が求められました」
 田中さんが何より骨を折ったのは、現場での取付だったと振り返る。
 「大規模案件でしたから関わる業者は多岐にわたり、その整理だけでも大変でした。なにしろ、各工程ごとに搬入や施工作業の段取りをきっちり調整しなければ、現場は大混乱に陥りますから気が抜けません。納期が迫るなか、しびれる場面の連続。そうした苦労が実り、完成の日の目を見たときの達成感は忘れられません」
 完成後には友達を施設に連れて行き、「俺たちが作ったんだ」と誇らしげに自慢したと笑顔を弾ませた。

body3-1.jpg「多くの方々の目に触れるものを作りたい」と、同社への入社を決意した田中琢人さん

得意を見つけ、伸ばし、結集させる。それが当社の教育方針

 「田中のような次世代を担う人材を育成することに最大限の力を注いでいます」と細見代表が語るように、同社では若手社員がスキルアップに挑める環境作りにも注力する。毎月1回、「質問力向上」「プレゼンテーション」「安全衛生」「機械操作・保守」などのテーマ別に勉強会を実施し、社内ライブラリーには細見代表自らが社員のために購入した書籍がズラリと並ぶ。細見代表が社員に「何をやりたいのか」「どんなことに興味があるのか」と声を掛け、キャリアに関するアドバイスをする姿は恒例の光景だという。
 「人には得意・不得意があります。ある意味、それが個性にもなります。私はバランスの良い人材に育てるというよりも、得意を伸ばすバックアップをしたいと常々考えています。それぞれが個性を尊重し合い、得意を結集させれば、会社の力も最大限に高めていけるはずです。もちろん、そのためにはお互いを思いやる姿勢が不可欠であり、そこは全社で徹底しています」
 若手社員が様々な職場・部署を経験できるようにローテーションを実施しているのも、社員自らが得意なことややりたいことを見つける機会をつくるためだという。細見ブランドを全員の手で作り上げ、互いに高め合い、成長し続ける。その一体感こそ、オンリーワンのモノづくりを行う同社の源泉なのだろう。

body4-1.jpg多くの力がひとつになって完成するミュージアムケース。展示品を美しく引き立てる

編集部メモ

葛飾ブランド「葛飾町工場物語」に認定された実力派

 同社の創業は1969年。1972年からディスプレイ業界に参入し、船の科学館の展示室内の装飾金物の受注をきっかけに本格的に装飾金物の製作を開始した。以来、国立科学博物館、日本科学未来館などの装飾を手掛け、商業施設、イベント展示、ショールーム、オフィスなどへも領域を拡大。2008年には葛飾ブランド「葛飾町工場物語」に同社の展示ケースが認定されるなど、東京を代表するものづくり企業に成長している。
 眼光紙背に徹す――。これは、表面の意味だけでなく、その裏に潜む深い意味までも読み取ることの重要性を謳った言葉だ。細見代表の座右の銘であり、同社のものづくりのスタンスが体現されている。つまり、顧客に展示を通じて伝えたいことを理解してもらうために、単純にハード(モノ)を作るのではなく、「伝え方」から考え抜く。そこに細見工業がディスプレイ業界から絶大な信頼を集める由縁があるのだろう。

edit-1.jpgベテランと若手が一体となってものづくりに挑み、固有技術の継承が着実に進んでいる