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城東地区 磯部塗装株式会社

磯部塗装株式会社 経営危機を乗り越え社員と価値を共有しながらV字回復を果たす

磯部塗装株式会社

経営危機を乗り越え社員と価値を共有しながらV字回復を果たす

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東京カイシャハッケン伝!企業
城東地区

磯部塗装株式会社

経営危機を乗り越え社員と価値を共有しながらV字回復を果たす

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会社再生ストーリー
経営危機を乗り越え社員と価値を共有しながらV字回復を果たす

 東京タワーの塗装も手掛けた磯部塗装は100周年を迎えた直後に経営危機に陥った。再生を図った若き社長の勇気ある決断と、社員の奮闘の姿を追った。

創業110年の老舗を襲った会社存続の危機

 橋梁、マンション、商業施設などの建造物には耐久性と防錆、それに美観を備えた塗装が施される。いわば、これは女性のお化粧と同じで、美しさを保つのに欠かせない施工ということになる。磯部塗装は明治40年に創業という100年を超す歴史を刻む老舗中の老舗。事実、日本で初めての鉄道橋梁の塗装を手がけたのを皮切りに、東京タワー、明石海峡大橋、レインボーブリッジと、誰もが知る建造物の塗装に携わってきた。
 まさに世紀を跨いで脈々と塗装事業に精進してきた同社だが、大きな危機に晒されたことがあった。2009年の1月のことだ。副業として始めた塗料販売が大きな赤字を出したのだ。前代未聞の危機に、当時、社外の人間だった磯部武秀社長は叔父である先代社長をサポートすべく、急遽入社してその対処に奔走したという。
 「結局、塗料販売を切り離して、磯部塗装も子会社に移管して再スタートを切ったのですが、その際に経営者を変える必要がありました。周りを見渡しても成り手がいないので、それでは経営者一族の私がと手を挙げて経営者になりました。そこからは本当に苦難の道でした」
 と当時を振り返るのは代表取締役社長の磯部武秀氏。弱冠26歳にして茨の道を選んだのだった。しかも、塗装に関してはほとんど門外漢。会社の状況を把握すべく、財務関連の書類にくまなく目を通す一方で、社員と積極的にコミュニケーションを取りながら情報収集を図っていった。そこで判明したのは本業である塗装事業も赤字を抱えていることだった。そこから再生のための磯部社長の奮闘が始まる。

body1-1.jpg従来の社内慣習を断ち切って経営刷新を図った磯部武秀社長

情報の共有と評価基準の「見える化」で経営を再建

 当時の磯部塗装は旧態依然とした経営で、工事ごとの収支もわからないような財務管理状態だったという。そこで磯部社長が打ち出した方針は徹底した「見える化」だった。案件ごとの利益の見える化はいうまでもなく、社内の評価基準も明確にして、社員がやりがいをもって働ける環境に整備していった。
 「これまでは、従来のお付き合い上からほとんど利益の出ない工事でも受注していました。ですから売り上げはあるのですが利益が出ていない状態。しかも売上げベースで評価していたので社員も売上至上主義に陥っていた。それを工事ごとに収支がわかるようにして利益を上げた社員を評価できる仕組みにしました」
 受注案件も利益が上がるものだけを選んだために一時は売上高が急激に落ちた。また、磯部社長の受注案件を絞り込むという方針にベテラン社員も異を唱えた。それでも磯部社長は、会社の再生には不可欠な手段だと方針を貫き通した。さらにベテラン社員に新規開拓を依頼した。受注案件を選別したことで、新たな工事案件も獲得しなければならなかったのだ。中にはこの大改革についていけないと会社を去るベテラン社員もいた。
 「それでも、経験豊富な社員には新規案件の獲得をお願いするなど難易度の高い仕事をしてもらうようにしました。こうした経営方針の大転換で、一時下がっていた売り上げも2ケタで伸び、業績もV字回復しました」
 営業方針を明確にした磯部社長は、社員のスキルを磨くための仕組みづくりにも着手。入社3年までに身につけるべきスキル一覧をチェック表にした。また、普段は顔を合わさない支店間の社員の交流も兼ねた研修旅行を計画。そこでは毎回テーマを決めてグループワークを行うなど、体系的な研修制度を導入して人材育成の改革も行った。
 こうした改革は微に入り細を穿ち、磯部塗装は生まれ変わった。今では危機を迎えた以前の売上まで回復。そして利益は大きく増収するまでになった。

body2-1.jpg磯部塗装が手掛けた明石海峡大橋

アパレル業界から転身し塗装施工に携わる

 若い経営者の元には新しい人材が多く集まっている。アパレル業界から転身を図った中西信行さんもその一人である。2014年に入社して現在は、マンションの大規模改修や立体駐車場の塗装に携わっている。
 「まったく業界が違うので、初めは右も左もわからず戸惑いました。それでも先輩方が仕事の合間を縫って専門知識や段取りを丁寧に教えてくれましたし、私からも積極的にコミュニケーションを図って聞くように心掛けたので、今では一通りの仕事ができるまでに成長できました」
 そんな中西さんのモットーは、「仕事は楽しくする」というもの。楽しく仕事に取り組むことで自然とコミュニケーションが生まれる。先輩や上司はもちろん、現場で一緒に働く職人たちとも親密になれる。こうした現場の雰囲気づくりが一体感を生み、品質の高い塗装工事につながるという。
 「当社は社長が若く、社員の意見を聞き入れていただき新しいことに取り組む社風で、社員が同じ方向に向くなど一体感があります。また、研修旅行では、全国の支店の社員と仕事の改善点や将来の目標などを話し合うグループワークも行っているので、大いに刺激になるのはもちろん、価値観を共有できる場になっています」
 現在の中西さんは主にマンションや立体駐車場の塗装を担当しているが、将来的には、商業施設や土木分野の橋梁や道路側壁など様々な現場を経験したいと目を輝かせる。

body3-1.jpg中西信行さんはアパレル業界から転身。今では周りから頼りにされる存在に成長した

お客様の立場からより良い提案を心がける

 現在、建設サービス部に所属する渡邉瞳さんは、ボルトやボンドなどの建設資材の卸会社から2016年に転職した。
 「磯部塗装にも資材を提供していて現場に行くことも度々あり、そのうち資材の提供だけでなく、実際に建設現場の仕事に携わりたいという想いが強くなって転職しました」
 と入社動機を説明する渡邉さん。現在の建設サービス部は、施主に対して様々な提案を行いながら施工管理を行う部署。塗装以外の施設のリニューアル工事も請け負っており、渡邉さんは主に大手宅配会社を担当。物流拠点の改装で、より働きやすく効率的な業務ができるように様々な提案を行っている。
 「仕事に取り組むに当たって配慮しているのはお客様目線での提案。よりスムーズな業務ができるような改修案を心がけています」
 こうした細やかな仕事ぶりが社内外から高い評価を受けている渡邉さん。目標は、「ぜひ渡邉さんにお願いしたい」と言ってもらえるお客様を増やすこと。明確な目標を掲げた渡邉さんは日々、足繁くお客様の元に通いながら日々信頼関係を築いている。

body4-1.jpgお客様目線で配慮が行き届いた提案をし、信頼を獲得する渡邉瞳さん

編集部メモ

将来に向けた新機軸を打ち出して躍進する「新生・磯部塗装」

 経営危機を脱した磯部塗装は、将来に向けた布石を打てるまでに復活を遂げている。その布石の一つがM&Aである。塗装業界は後継者不足にあえぎ、廃業の危機を迎えている会社も少なくない。そうなってしまっては社員も職を失うことになる。友好的M&Aは、そんな境遇の会社を救済するのと同時に事業拡大を図ることが出来るため、同社は積極的に進めている。
 また、橋梁や鉄骨などの建設部材の塗装を行う工場を新たに2つ立ち上げた。
 「従来は橋梁・鉄骨メーカーが製品塗装をするヤードを保有していたのですが、案件が重なり、工期に間に合わないケースが増えてきています。そこで橋梁・鉄骨メーカーのニーズを吸い上げ、独自の塗装工場を構える事でお客様のご要望にお応えしております」(磯部社長)
 時代の変化を敏感にキャッチして、新たな経営方針を打ち出す磯部塗装の第2章はすでに始まっている。