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株式会社木村工業

株式会社木村工業 研修による技術の継承と、チャレンジシートによる経営理念の徹底で社風を一新

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研修による技術の継承と、チャレンジシートによる経営理念の徹底で社風を一新

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株式会社木村工業

研修による技術の継承と、チャレンジシートによる経営理念の徹底で社風を一新

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社長奮闘ストーリー
研修による技術の継承と、チャレンジシートによる経営理念の徹底で社風を一新

 「見て覚えろ、技術は盗め」が当たり前の職人の世界。しかし、それでは人は育たないと、体系的な人材教育に力を入れ始めたのが、8年前にトップに就任した木村晃一社長。経営理念や社風など一から立てなおし、最近ようやく形になってきたと語る木村社長にその波乱万丈を聞いた。

4倍速の新人育成。職人世界の逆風を乗り越えて

 「仕事は見て覚えろ」。父でもある先代社長は職人気質そのものの人だった。当時、技術者として仕えていた木村社長もそのやり方に何の疑問も持っていなかった。
 株式会社木村工業は、水道管の設置・メンテナンスを請け負う企業。公共設備を請け負っているだけあって仕事は十分にあるが、多くの中小企業がそうであるように、銀行から定期的に融資を受けて切り盛りしてきた。
 ところが、2007年頃から銀行が貸し渋りをするようになり、状況にかげりが見え始める。銀行からの借入金は企業の生命線となるが、交渉は難航。あわや黒字倒産というところまで追い詰められ、企業として大幅な方針転換を迫られた。そこで「ゆくゆくは社長に」といわれてきた木村社長が、ここが潮時と周囲の声を受け新社長に就任することになった。
 「『多分、できるだろう』くらいの軽い気持ちで引き受けてしまったため、初めは社員に対して上から目線の傲慢な態度をとってしまい、反発もありました。それでは経営が上手く運ぶはずがありません。つくづく、自分には何もできないことを思い知らされ、自分にできないことをやってくれる社員の大切さに気づいたのです」
 以来、社員の働きやすい環境を整えることが社長の責務であるという信念のもと、人材教育に力を入れ始めた。
 配管で一番難しいのが、配管を寸法通りに切り出し、繋ぐ菅にぴたりとはめる作業。熟練の技と長年の経験が欠かせないという。しかし、水道管の設置工事は約8割が道路を掘ったり埋めたりする作業で、配管作業は仕事全体からすれば2割程度でしかない。つまり、職人技術を習得する機会は極端に限られているのだ。しかも、道路を封鎖するなど時間的な制約があったりするものだから、どうしても作業はベテラン社員に偏ってしまう。結果的に、新人がモノになるまで4年は費やすことになるという。
それでは会社のためにならないばかりか、本人のモチベーションの問題にも関わる。育成のペースアップは必定と木村社長は頭をひねり、導入したのが配管を体得できる社内施設。自ら指揮を執って体系的な研修プログラムも作成し、あいさつや社会人としてのマナーや考え方などを一から教育できるようにした。
木村社長渾身のアイディアだったのだが、社内には逆風が吹いた。
「社員は皆、職人ですから先代と同じく『仕事は見て覚えるものだ』という風潮が根強く残っていました。『現場に出ないで研修をやったってどうせ使い物にならない』といわれたこともありました。しかし、何事もすぐに結果が出るわけありませんから、じっとこらえて続けました」
数ヶ月も経つと潮目が変わり、現場の作業員からこんな声が聞こえ始めた。「今年の新人は明らかに仕事を覚えるのが早くなっているよ」と。研修の成果が目に見えて現れ始めたのだ。本来4年かかる新人育成が、1年に短縮されたのだから、「見て覚える」派も異論を挟む余地はなくなった。

body1-1.jpg社長就任から8年。手ごたえを感じ始めた木村晃一さん

経営理念を浸透させる チャレンジシート

 経営理念の明文化も社長の大きな功績の一つだ。「『共に育ち』『共に活き』『共に発展』安全を社会の安心に広げ、未来を創造してゆく木村工業」
 この理念に基づいて、社員同士のコミュニケーションを円滑化し、社員一人ひとりが成長を実感できて、しかも働きやすい環境作りが行われた。新人研修もその一つに位置付けられ、その成長ぶりを目に見える形にしようという試みがチャレンジシートだ。
 このチャレンジシートは社長が独自に考案したもので、個人目標の設定と進捗確認ができるようになっている。シートには、まず経営理念から部門スローガンを考え、それを書き込む。そして部門スローガンから個人スローガン→個人目標→具体的行動内容と段階的に落とし込んでいく。年4回、社長や上司と個人面談を行い、個人で立てた目標と会社として達成してもらいたい目標を擦り合わせ、その目標達成度によって賞与が出る仕組みだという。
 「具体的な行動を基準に『どこができているか』というプラスの評価が基本です。上司の好き嫌いといった感情的な評価にならないので、納得感も高く、モチベーションアップにつなげられました。経営理念と評価をセットにすることで、経営理念が社員に浸透しやすくなるんです」
 経営理念が浸透することで、会社に一体感が生まれ、仕事がしやすくなるというわけだ。事実、新体制に移行してから離職率が下がってきたという。先輩社員としても、すぐに逃げ出してしまう新人よりも、腰を落ち着けて技術を習得しようという新人のほうが教えがいがあるのは確かで、離職率の低下ばかりか、教える側のモチベーションアップにもつながるという好循環を生んだ。

body2-1.jpg経営理念を浸透させるために考案したチャレンジシート

教育は「共育」 教えることで教えられる

 チャレンジシートを通して、若手育成の思いを吐露した妙見浩二さんは、その思いを社長に汲まれ、研修スタートから2年目で新人研修を任されている。
 「日本の建物を日本の技術者で造るのが私の夢です。それには中小企業のもつ技術力を継承していくことが不可欠ですが、業界としてあまりうまくいっていないように感じていました。もっと現場を仕切れる現場監督の育成に力を入れたいと考えていたところだったんです」
 妙見さんは、かつては関西で会社経営をしながら建設や土木など幅広い分野に関わっていた。その経験から思うところがあり、現在、自分の知識と経験、技術を若い世代に継承しようと日夜、指導に励んでいるという。
もちろん、人材育成は一筋縄にはいかないことばかりだ。指導する側にとっては常識だと思っていたボルトとナット、その区別がつかない新人相手に頭を抱えたこともあれば、無理して相手に合わせようとしてうまくいかなかったこともあったと妙見さん。
その溝を埋めるには、「考え方や常識が違うのは当たり前」との割り切りが必要だった。言うべきことは言わなければならないが、そういう意識があるだけでコミュニケーションがうまく取れるようになり、今では教える喜びも感じられるようになってきたという。
「研修の卒業試験としてチームごとに配管作業をしてもらうのですが、取り付けた機械が逆になっているのを、真っ先に気がついて指摘したのが、ボルトとナットがわからなかった新人だったんです。1年間教えると成長するものだなぁとうれしくなっちゃいました」
教えることで教えられることがある。まさに経営理念にある「共に育ち」というわけだ。

body3-1.jpg「教える楽しみがわかってきた」と妙見浩二さん

250時間のみっちり研修。 若手が語る研修のメリット

 研修は週に1回、朝から夕方まで1日かけて行われる。5月~翌4月まで1年間行われるというから、250~260時間の研修時間があることになる。中小企業の研修としてはかなりみっちりという印象だ。
研修では、作業員育成を目指す「KKB」と現場監督を目指す「FBP」の2つのプログラムに従って技術向上が図られる。「技術的なことを知っておくことで考え方も変わる」との方針で、経理などの一般採用も研修を受ける。国家資格試験のカリキュラムを参考にしているだけあって、その内容は実に体系的で完成度が高い。
石塚大輔さんはFBPの第2期卒業生であり、新卒3年目の若手社員として活躍している。研修の利点をこう分析する。
「何を知らずに現場に出ても、先輩の動きのどこを見たらいいのかすらわかりませんが、研修で一度体験すれば見るべきポイントがしっかりわかります。研修で学んだことを現場で実践することで技術が身についていくのだと思います」
また、技術的な面以外でも、同期間の結束が強く、コミュニケーションが活発になったり、競争心が芽生えたりするのもプラスに働いているという。良き仲間であり、良きライバルができることで、仕事にやりがいが生まれ、離職率低下に影響を与えているのだろう。
 さらに、今年の4月に入社した深澤涼さんは研修の日々をこう語る。
「高卒での入社だったので、社会人としても知らないことばかり。会社の理念から社会人としての作法まで、一から研修してくれるところに魅力を感じて入社したので、今は新しいことをいろいろ覚えるのが楽しいです」
石塚さん、深澤さんとも、早く一人前の職人になって、社員やクライアントから頼られる存在になりたいと展望を語る。
 研修を始めて4年。「研修で社員を育てる」という雰囲気はすっかり定着した。研修を受けた新人が自信を持って現場に向かえるようになったことはもちろんその成果だが、これまで新卒・高卒・女性とさまざまな人に仕事を教えてきたことで、育てる側にも自信がついたのも大きな収穫だったと木村社長。
2012年からは外国人実習生を受け入れ始め、障害者をインターンとして受け入れる体制も整っているというから、今後ますます人材の幅は広がっていくだろう。技術者育成のあり方に一石を投じた木村社長の改革はまだまだ続く。

body4-1.jpgベテラン職人が懇切丁寧に技術指導

編集部からのメッセージ

合理的システムづくりで業態改革

 実は、社長交代を機に業態も変わっている。それまでは水道管敷設などの大口の仕事を請けていたため、売り上げは大きかったが、利益率が伸びなかった。そこで、メンテナンスなどの細かい仕事も積極的にこなし、利益率アップを目指している。
単に新人研修を行うだけだと表層的な取り組みに終わってしまうこともありうるが、同社では経営理念を軸に会社のあり方全体を見直す、抜本的な改革を行っている。しかも、その手法は体系的で合理的。会社としての長期的なビジョンがはっきりとしていて、長年の社風を変えてしまえるだけの説得力が確かにあった。
システムづくりだけでなく、社長自ら社員との面談を行うなど地道なコミュニケーションを欠かさなかったのも、改革が成功した理由の一つだろう。
 木村社長が社内体制を一新するに当たって、頼りにしたのが「東京中小企業家同友会」だという。同友会は約2200社の中小企業が参加する団体で、孤独といわれる中小企業の経営者たちの情報交流の場となっている。他の経営者や社員の意見を柔軟に聞き入れ、新しいことにも果敢にチャレンジする木村社長には、これからの取り組みも楽しみなところだ。

edit-1.jpg「早く周りに認められる一人前になりたい」と石塚大輔さんedit-2.jpg深澤涼さんは研修の真っ最中