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城東地区 株式会社クリエース

株式会社クリエース 展示会・式典会場を彩る経師(きょうじ)の世界。 多様な面に紙を貼る技術の継承は現場から

株式会社クリエース

展示会・式典会場を彩る経師(きょうじ)の世界。 多様な面に紙を貼る技術の継承は現場から

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城東地区

株式会社クリエース

展示会・式典会場を彩る経師(きょうじ)の世界。 多様な面に紙を貼る技術の継承は現場から

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現場経験が若手を育てるストーリー
展示会・式典会場を彩る経師(きょうじ)の世界。 多様な面に紙を貼る技術の継承は現場から

びょうぶやふすま、掛け軸といった日本伝統の紙貼り職人、経師。現代においては、展示会場を装飾するのに不可欠な存在として、そのスキルが継承されている。クリエースはそんな経師のプロ集団。伝統の技は現場経験を通して継承される。

特殊な技能を必要とする経師の世界

 日本は、古くから生活の中に紙を取り入れた独自の伝統文化を築いてきた。びょうぶやふすま、掛け軸といった室内装飾にもその志向は根付いていて、こうした装飾具を専門とする経師・表具師といった職人が重宝されてきた。今日にもそのスキルは継承され、展示会場や式典会場の装飾にまで守備範囲を広げ、存在感を発揮している。
 展示会場などで、ブースの壁に大きく企業のロゴや商品写真が印刷されているのを見たことがあるだろう。あれは、写真やロゴが印刷された壁紙や出力紙を、ベニヤで組まれた壁に貼り付けて作られたものである。一般的に住居用の壁紙はビニールクロスと呼ばれるものが多いが、展示会場で使うのは正真正銘の紙。それをシワも継ぎ目も見えないほどきれいに貼るのは、まさに職人のなせる技。その特殊性を、代々経師を務めてきた栗原孝之代表が解説する。
 「住宅の壁紙とは勝手が違うので、インテリアをやっている職人さんでも難しいとおっしゃいますね。紙の場合、はみ出た部分を折り込む順番が重要になるので、寸法の取り方が独特なんですよ。しかも、紙を貼るのはまっ平らな壁とは限らず、小さいものやクネクネしたものもあり、経験がものを言う世界ですね」
 ただでさえ高度な技術を要する経師だが、このところ壁にべったり紙を貼るのではなく、周囲だけをのり付けして中央部を浮かせる「水貼り」という特殊な方法がポピュラーになっている。そのほうが壁の色や表面の状態に左右されず、紙の柄がきれいに出るからというのだが、そのニーズに応えるとなると、専門で技術を磨いてきた人に限られる。そこで、がぜん注目を浴びるのが専門職人を数多くそろえる同社というわけだ。
 栗原代表の祖父はびょうぶやふすまをメインに扱う経師。その家業を引き継いだ父が会社を起こし、それを機に展示会場の設営に裾野を広げ、成長を続けてきた。1989年からは栗原代表も社員として会社を支えたが、2007年に先代代表である父親の急逝に伴い代表に就いた。
 「急な話でしたが、目の前の仕事は待ってくれませんから、誰かが一刻も早く代表にならなければならないという状況の中で慌ただしく就任しました。じっくり考える余裕はありませんでしたが、社内の若返りは図らないといけないだろうな、とは思っていましたね」
 くしくもこの代表交代が若返りのきっかけとなった。当時の主力社員は団塊の世代で、ちょうど60歳を超えたころ。実は多くが先代を慕ってついてきた職人で、先代逝去は引退するのにいい頃合いという流れが自然発生的に出来上がっていたのだ。話合いの末、労使納得の上で主力のベテランたちが去り、若者を積極採用するなど新たなスタートが切られたのである。

body1-1.jpg現場経験を積ませ、若手を育てる栗原孝之代表

伝統の技を新世代へ。 技術は現場で磨く

 新世代の主力となる若手を育てるためにまず改革したのが仕事の関わり方だった。先代は昔ながらの職人で「見て覚えろ」というタイプだったため、下積みとして雑用仕事から始まった。栗原代表はそれを改め、現場経験を尊重した。なるべく早く現場に出て、1枚でも多くの壁紙を貼る方向にシフトしたのである。
 「一部、工場での作業もあるので、そこで練習してもらうこともありますが、大半は現場での作業ですから、先輩が丁寧にフォローしながら実際の作業に加わって仕事を覚えていきます。最近は、大掛かりな会場設営が増え、高所作業も当たり前になってきましたから高所作業車の運転資格は全員が取れるよう講習などに参加してもらっています」(栗原代表)
 複数のブースを担当する案件では、人の動きは流動的になる。そのため、同社では新人に決まった先輩ではなく、近くにいる先輩が柔軟にフォローできる態勢で指導に当たっている。一人ひとりが責任を持って教え、教えられという姿勢になるため、成長スピードは格段にアップ。一人前に仕事をこなす若手が増えてきているという。
 さらに2~3年前からは、地域の高校との連携が盛んになり、新卒採用も積極的に行える体制が整ってきた。採用と育成が軌道に乗った先に見据えているのは、2020年東京オリンピック後だ。
 「オリンピック前になると東京ビッグサイトをはじめ、一部の展示会場は使用に制限がかかります。その時期は、展示会産業自体が落ち込むため、当社の仕事も減ると予想されます。それを機に高齢の職人さんが引退してしまう可能性があり、オリンピック後に仕事量が元に戻ったときに人手不足になってしまうのです」(栗原代表)
 オリンピックまで後2年。若手が無事に育って、オリンピック後の揺り戻しに備えられるかどうか、今が正念場だ。

body2-1.jpg展示会場設営の合間に。20~30代が主力になりつつある

先輩の「あきらめない」が後輩を育てる

 吉田和久さんは2001年に入社し、コツコツと経験を積み重ねて、現在は中堅といわれるポジションの社員だ。学校を卒業したものの、やりたいことが見付からないままに働き口を探し、ハローワークで同社の求人を目にした。当時、経師という仕事を全く知らなかった吉田さんは、求人票を読んでもどんな仕事か想像がつかず、興味本位で面接を受けたと吐露する。しかし、いくら話を聞いても経師の何たるかが分からない。そこで試用期間として3か月の体験をしてみることにしたのが、この業界に入るきっかけになったと話す。
 「志望動機はともかく、工期が1~2日と短期で決着するのが性に合っていたんだと思います。初めは『ほかにやりたいことがないから』という理由で続けていましたが、日々達成感を味わううちにこの仕事にやりがいを感じるようになりました。今ではどこに行っても通用するだけの腕が付いたと自負していますし、これが一生の仕事になると確信しています」
 目の前のことに集中し、一日一日を積み重ねてきたことが確かな自信に変わったのだろう。現在は後輩を指導する先輩の立場にもなった。職人気質の厳しい教育が残っていたころに若手時代を送った身として、若手との接し方にも気を付けているという。
 「ああしろ、こうしろと自分のやり方を押し付けないことです。作業のやり方は人それぞれなので、本人の考えややりやすさも尊重して、『こうしてみたらどう?』『こういうやり方もあると思うけど、どうかな?』などと、ほかの選択肢を提示するようにしています」
 その場だけを考えるなら、命令形で具体的に指示を出したほうが楽だが、それでは本人の経験値にはならない。たとえ一度で伝わらなくても粘り強く面倒を見る。成長を促すには、こうした見守る姿勢が必要なのだ。吉田さんは後輩指導の心掛けを「あきらめないこと」と断言する。

body3-1.jpg壁紙にのり付けをする吉田和久さん

謙虚な気持ちで着実にスキルアップ

 同社で新卒採用が始まったころの初期メンバーとして入社した二階堂健太さんは、新卒4年目にして「中堅並みに仕事をこなす」と評判の若手のホープ。学校に寄せられた求人票で同社の存在を知ったが、吉田さんと同じく、仕事のイメージはさっぱり湧かなかったという。ところが、面接時に実際の現場を見学し、入社を決めたという。
 「紙を貼るだけに見えて、実は奥が深くて、現場ごとに要領が全然違うんですよ。『こういうパターンもあるの?』『こんなやり方もあったんだ』と毎回、新しい発見がありますね」
 仕事の奥深さに魅力を見付けた二階堂さん、入社早々から現場に出て順調に経験を積んできたことが認められ、親方から一つの作業の一切を任されることも増えてきたと話す。
 「評価されていると感じてうれしくなりますね。ただ、そこで調子に乗ってしまったら成長は止まってしまうと思うので、常に『まだまだ』という気持ちは忘れないようにしています」
 一日も早く中堅と呼ばれるくらいスキルアップしたいと、向上心たっぷりの二階堂さん。モチベーションを高く保てるのは、本人の資質だけではなく、会社の雰囲気や先輩との関係性もその一因だと明かす。現場ではピリッとした緊張感が漂う一方、オフタイムには一緒にゲームをして過ごすようなフレンドリーな一面もある。こうしたバランスの良さが、若手がスキルアップに専念できる雰囲気を作っているというのである。
 展示会は昨今活況で、式典も含めると会場設営はほぼ毎日といっていいほど行われている。それだけに特殊なスキルを持った経師への期待は高まっていくだろう。そんな状況で安定的に若手が育てられれば、同社もますます活気を帯びていくことだろう。

body4-1.jpg二階堂さんは仕事のやりがいや魅力を爽やかに語ってくれた

編集部メモ

1日で終わる仕事だからこそ味わえる仕事のやりがい

 一般的な住宅インテリアは数週間から数か月と工期が長いのに対して、展示会場の場合、会場設営の時間は通常1日しかない。「その日の仕事をその日に終わらせて、次の日はまた別の現場へ」というサイクルが、この仕事を続けられる理由なのだと社員たちは口をそろえる。
 大きな目標に向かっていると成長や達成感が分かりにくくなってしまうが、目の前にある仕事に集中し、ひたむきになれれば、達成感は毎日味わえ、常に新鮮な気持ちで仕事に臨めるというわけだ。
 「大規模な案件になるとあまりに作業量が膨大で、現場に着いたときは絶望感が漂うことすらあります。でも、やれば必ず終わるんですよね。一つひとつ目の前の作業を確実に仕上げていくことがゴールに繋がっているという実感も、モチベーションの一つです」(吉田さん)

edit-1.jpgメジャーやハケなど経師に欠かせない道具セット
  • 社名:株式会社クリエース
  • 設立年・創業年:設立年 1978年
  • 資本金:1,000万円
  • 代表者名:代表取締役 栗原 孝之
  • 従業員数:19名(内、女性従業員数1名)
  • 所在地:130-0013 東京都墨田区錦糸4-4-3
  • TEL:03-3624-7891
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