<中小企業しごと魅力発信プロジェクト>

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城東地区 株式会社絆

株式会社絆 プロの技と心意気を次の世代に手渡したい

株式会社絆

プロの技と心意気を次の世代に手渡したい

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東京カイシャハッケン伝!企業
城東地区

株式会社絆

プロの技と心意気を次の世代に手渡したい

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ものづくりの魅力継承ストーリー
プロの技と心意気を次の世代に手渡したい

 手に職をつけて、社会にその力で貢献する。絆はそんな生き方に賛同してくれる仲間を求めている。同社の風通しの良さがその理想を実現に導く。

内装の設計・施工から新建材の開発まで

 電動のこぎりがけたたましく響く工場に、木を削る匂いが立ち上ぼる。
 株式会社絆は、オフィスや業務用商業施設、飲食店の内装工事を請け負う一方で特注家具の製造販売も手がける。社員18人ながら、足立区の本社のほか、名古屋と品川区に営業拠点、静岡県に工場を持つ。
 業務用の特注家具や什器をオーダーメイドする企業は少なくないが、同社のようにそれほど大きくない規模で、設計や販売まで一手に引き受ける企業は多くはない。仕事を依頼した側にとっては、仕事を発注した相手と施工する人間が同じ会社というのは、顔がよく見えて、安心して任せることができる。同社の底力が垣間見えるのは、新たな建材の開発も手がけていることだ。天然石と金属や合成素材を張り合わせた新建材の特徴は、天然石だけの素材に比べ軽量でさまざまな場所に貼れること。これは、これまでの常識を覆す革命的な素材で、家具へも応用できるというメリットもある。また、2013年には紙製の建材を自社開発。軽いうえに室内の快適性にも優れているのが自慢。実際、オール紙製のコンセプチュアルな建物を展示会に出展し、グッドデザイン賞も受賞した。
 「売上げの9割9分は木工です。でも、それだけでは同業他社と横並びで埋没してしまう。どんなものでもいい、少しでもいいから業界をリードしたい。それができれば、木工も引き立つんです」と前田裕介代表は、新規事業に取り組む狙いを語る。

body1-1.jpg「小さい所帯だからこそ、業界をリードする力を持ちたい」と前田裕介代表

運と勘と度胸は、たぐり寄せるもの

 同社の設立は8年前。サラリーマン時代の前田代表は、取引先の担当者とタッグを組み、新しい仕事に次々とチャレンジ。このコンビが独立への道筋を引いた。
 「彼がピッチャーで、僕がキャッチャー。大変なことも多かったですが、それはおもしろい日々でした」と学生時代野球に打ち込んでいた前田代表は、野球に例えて振り返る。
 取引先の担当者とはバッテリーそのもので、一緒に会社を設立したのも自然な流れだったという。8年前、前田氏が代表を務め、相方は営業部長として同社を牽引することとなった。会社名をどうしようかと考えていた時、二人の強い結びつきを知る仕事仲間が、「絆」という名前を提案し、まさにぴったりと膝を打ったという。
 前田代表の経営哲学は「運と勘と度胸」。経営効率を科学的に測ることが隆盛している今日では前時代的に響くかもしれないが、そこには確固たる根拠がある。
 「運はがんばっている人のところにしか回ってこない。勘はアンテナを高く多く上げているときにしか働かない。度胸は、助けてくれる人がいなければ生まれてこない。つまり、仕事そのものにも周囲の人々に対しても、日々誠意を持って臨むことがいちばん大事なんです」(前田代表)

body2-1.jpg前田代表と「仲間」たち

信頼できる仲間を増やしていきたい

 前田代表がもっとも大事にするのが、信頼できる仲間。これがあればこそ新しい事業にも果敢に挑戦できるという信念に基づき、同社では仲間を増やすことに力を入れている。その一つが独立を目指す社員を支援するという、会社という組織を運営する立場からすると奇天烈な取組。
 「至極まっとうな取組です。独立したいと思うのは、自信が生まれてきた証拠です。僕自身がそうだったように、独立したいと考えるのなら、その背中を押してあげたい。例えば、道具も場所もここを使ってもらってもいい。その日から株式会社○○ですと名乗って、グループの一員として活動してくれれば、私たちとしても頼りにできます」(前田代表)
 まだこの仕組みを使って独立した社員はいないが、是非ともチャレンジしてほしいと前田代表は語る。
 採用でも新たなチャレンジが始まった。今年は同社の歴史で初めて新卒採用を試みた。その第一期生として仲間に加わったのが20歳の清水まどかさんだ。実は清水さん、定時制高校の在学中に同社でアルバイトをしており、「雰囲気がとてもよかった」ので、新卒採用にエントリーしたのだという。
 「みんな明るくて居心地がいい。ここで働きたいなと感じたんです」
 現在は見習いとして家具製造を手伝ったり、施工現場のサポートに当たったりしている。
 「よく買い物に行くショッピングモールの家具売り場で、自分の会社が作っている家具を目にしたときは嬉しいようなくすぐったいような気分でした。いつかは自分でも図面を引いたり、営業できるようになって、『きみにこの仕事を任せてよかった』と言われるようになりたい」と意気込む。
 清水さんの指導役で、業界の大ベテランである工場長の谷垣政光さんも「雰囲気がよい」という清水さんの言葉に同意する。
 「長年勤務した大手メーカーでは、厳しい売上目標があって、胃がキリキリする毎日。ここに来てからはそんな思いをすることは一度もない。前田代表をはじめ経営陣の懐が深くて、社員たちはのびのび働けている」とベテランらしく分析する。
 そんな谷垣さんの目から見て、絆の最大の財産は、熟練の技術だという。
 「工場長を任されてすぐ相当の技術の持ち主がいることに気づきました。木工という仕事に誇りを持ち、仕事を続けてきた熟練工が大勢いるのは、工場長としては非常に頼もしいこと。加えて風通しのよい雰囲気が幸いして、先輩社員は若い世代がすることをいつも見ていて、疑問に感じたことを尋ねてくれば、惜しげもなく技術を披露し、指導している。ここまでうまくいっている現場はなかなかないでしょう」
 近年、団塊の世代の大量退職で、受け継がれてきた技術が若い世代に伝えられない「技術継承の断絶」が問題となっているが、同社とは無縁だ。
「ものを作るという仕事は、決してなくなりはしません。そして手に職をつけることで得られる自信や働きがいは、ものづくりに携わる者ならではの喜びです。ぜひこの道に進む若者が現れてきてほしい」と語る。
 働く喜びを味わいながら、独立を目指して自身を伸ばしていく。職人の世界では古くから自然だった働き方だが、もしかしたら今の時代にこそマッチしているのかもしれない。

body3-1.jpg「経営陣の面倒見のよさが働きやすい環境をつくる」と谷垣政光さん

編集部メモ

働くから大人なのではなく、責任を取るから大人になる

 絆の前田代表は、自身もサラリーマンとしてキャリアをスタートさせ、仕事の楽しみを覚え、自分の可能性を広げたいと考えて独立し、自分の理想を実現できる環境をつくってきた。だからこそ社員の独立を積極的に後押ししたいと話す前田代表だが、誰でもできるというわけでもない。
 「今日から独立しますといえば、その瞬間から独立はできます。しかし、独立を続けるのは決して簡単なことではありません。どれだけ技術があっても、どれだけネットワークを持っていても、仕事に対して自分自身で責任を取るという覚悟が必要です。働くから大人になるのではなく、責任を取らないといけないのが大人なんです」(前田代表)
 なにも独立して社長とならなくても、社会人であればだれでも仕事に責任を負う。これから社会に出る若い人には、肝に銘じておいてほしい言葉だ。

edit-1.jpg「居心地がよくて楽しい職場です!」と清水まどかさん
  • 社名:株式会社絆
  • 設立年・創業年:設立年 2010年
  • 資本金:1,700万円
  • 代表者名:代表取締役 前田 裕介
  • 従業員数:18人(内、女性2人)
  • 所在地:121-0064 東京都足立区保木間1-17-2
  • TEL:03-5856-6688
  • URL:http://kzn.co.jp