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城南地区 株式会社丸高工業

株式会社丸高工業 職人技を解き明かすビッグプロジェクト。 勇気の一歩が建設業界の未来を切り開く

株式会社丸高工業

職人技を解き明かすビッグプロジェクト。 勇気の一歩が建設業界の未来を切り開く

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城南地区

株式会社丸高工業

職人技を解き明かすビッグプロジェクト。 勇気の一歩が建設業界の未来を切り開く

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業界の 常識を覆す 大英断ストーリー
職人技を解き明かすビッグプロジェクト。 勇気の一歩が建設業界の未来を切り開く

工事の騒音や振動、そして慢性的人手不足。
建設業界の課題を克服すべく、丸高工業は作業の標準化と消音化に挑んだ。

職人の技を万人が使える形に。 途方もない挑戦の始まり

 建物の改修では電動ハンマードリルでコンクリートの壁の上に塗られたモルタルを撤去したり、電動ドリルを使って穴をあけたり、電動ドライバーでネジを埋め込んだりするため、近隣に騒音や振動が響いてしまう。そのため、店舗や施設として稼働中の建物の改修となると夜間や休日に作業せざるを得ず、働き手の確保は困難極まることになる。
 さらに高齢のベテラン職人が次々引退する一方、若手が集まりにくい状況が続く。職人の技が一朝一夕で身に付くわけでもなく、技術継承も進まない中、人材不足はさらに深刻化している。人材不足は、工事の長期化やコストの増大に繋がり、建設業界を圧迫しているのだ。
 こうした問題は業界の常識で、解決が難しいといわれていた。そこに切り込んだのが、改修工事の診断、設計、施工管理まで一括して引き受ける丸高工業だ。平日の日中の作業を可能にする「消音化・消塵化プロジェクト」とともに、職人仕事を未経験者でもできるようにする「標準化プロジェクト」を始動させ、人材不足の解消と生産性の向上を図った。高木一昌代表は自ら起こした改革の一部始終をこう語る。
 「建築作業は職人の世界ですから、技は『見て盗め』が当たり前でした。熟練の職人が大半の仕事を一人でこなす一方、若手は誰にでもできる雑用をこなしながら一工種の仕事を3年から10年ぐらいかけて覚えていくんです。私も代々職人の家系で、現場で鍛えられたタイプですが、このやり方では若手はやりがいを持てないし、続けることができません。これは何とかしなくてはと、職人の仕事内容をよく分析してみたんです」
 すると、色々なことが見えてきたと高木代表。そもそも、腕利きの職人にしかできない作業はわずか1割で、残りの9割は標準化できる作業だったという。つまり、作業の標準化ができれば、若手が主体性を持って仕事に打ち込め、自ずとやりがいを感じられようになり、職人は熟練の腕がなければできない作業に専念できることになる。当然、作業の効率化と人材不足解消に繋がると、高木代表は確信したという。
 標準化というのは、技術のない若手はじめ、力が弱く背丈の届かない女性や高齢者でも、楽に、きれいに、手際良く作業ができるように、工程や手順のマニュアルを作ることだ。言語化不可能といわれ、これまで感覚で伝承されてきた暗黙知の技を解明しようというのだ。それが果てしない道のりであったことはいうまでもない。

body1-1.jpg業界の常識を覆した高木一昌代表

標準化プロジェクトの中心は若手社員が担う

 標準化プロジェクトは、まず職人がどんな作業にどれだけの時間を費やしているのかを細かく分析するところから始まった。職人がどんな道具をどちらの手で操作し、どれくらいの時間を掛けたのかなど、こと細かに動画で撮影して、それを何度も見直しながら全ての工程を解析していった。現場管理から改修工事の実作業まで幅広い領域をカバーする同社だけに、それをずらっと一覧表にしてみると作業数は何と約800にも及んだという。それを正味作業、付帯作業、無駄な作業に分類し、実際に作業してみて自分にはできない作業を抽出。どうすれば無駄なく効率的に作業ができるのか、アイデアを出したり、補助工具を作り試して、改善してをできるようになるまで繰り返していく。その作業の中心となったのは、入社2年以下の若手社員たちだ。
 「当社では入社2年間を研修期間として、リニューアルイノベーションセンターという拠点で標準化プロジェクトに携わってもらうことにしています。この拠点は機械の自動化の研究部門でもあり、作業を標準化するだけでなく、作業を自動化するための機械自体を開発することもしています。その中心を担うのも機械の開発担当者と若手社員たちです」(高木代表)
 新人研修に2年かけるというのも驚きだが、建設会社が機械製造までやってしまうというのはさらに驚きだ。これだけの自由度が与えられたなかで主体的に考え、手を動かした結果、実際今までにないものを生み出し、業務が改善され、生産性が向上して、自らも正当に評価されるのだから、若手社員のモチベーションが高まるというのもうなずける。実際、2年経つと彼らは見違えるように成長するという。
 「2年の研修を終えて現場に出たある社員が、得意先企業の社長にも自信を持って堂々と受け答えする姿を見て頼もしさを感じるとともに、標準化プロジェクトが若手の成長に絶大な効果があることを実感しました」(高木代表)
 こうした流れの中で、長年改修業界を悩ませてきた消音・消塵化を叶える機械も誕生しています。例えば、最も騒音になっていたモルタルの撤去音。コンクリート壁の上に塗られた厚さ数センチのモルタルを電動ハンマードリルで破壊すると、およそ100デシベルの音が周辺に鳴り響く。ところが、同社が開発した「メクリックス」は、モルタルとコンクリート壁の隙間に超硬刃を差し込んで剥がしてしまう仕組みのため、音がほとんどしない。65デシベルが作業をしている部屋に響く程度で、隣室にいてもほとんど生活音と変わらないほどの静音効果を発揮している。しかもほこりが立たない上に、ボタン一つで動かせるので誰でも簡単に操作できると、標準化の効果もある。
 これならホテルや病院といった騒音やほこりに敏感な施設でも、せいぜい作業する部屋の周囲1室を閉鎖するだけで済み、ほかの部屋は改修中も営業できるようになった。ホテルを売り止めにする損失をなくしたことで顧客には喜ばれ、完全週休2日制を実施できたことで社員のライフ・ワーク・バランスも向上した。
 それもこれも、業界の抱える課題に本気で取り組み、職人の仕事を標準化するという途方もない作業にめげずに挑戦したからこそ得られた成果だろう。同社は2017年、この業績を評価されて東京商工会議所の「勇気ある経営大賞」で大賞を受賞した。まさに経営者の勇気が業界の常識を覆す第一歩となったのだ。

body2-1.jpg社長と若きプロジェクトの担い手たち。後ろには同社が開発した機械が並ぶ

地道な作業の積み重ねが大きな達成感に

 現在入社1年目で、標準化プロジェクトを進める一員である吉田哲朗さん。大学卒業後は消防士を目指していたが、途中で民間企業への就職に切り替えた。人の生命・財産を守る仕事という軸はぶらさずに就活していたところ、説明会で出会った同社と考え方が同じであることを知り、入社を決意。早速、標準化プロジェクトに携わることになった。
 「初期に任された塗料の種類をまとめる作業は大仕事でしたね。一口に塗料といっても何百、何千という種類があって、メーカーごとに名前の付け方や特性もバラバラなんです。それを一覧できるようにデータにまとめ上げたのですが、膨大で地道な作業だっただけに完成したときの達成感は格別でしたね。上司にも評価してもらい、満足の出来でした」
 最初は建築業界独特の言葉遣いなどに苦戦したこともあったが、上司の丁寧なサポートで克服。リニューアルイノベーションセンターには改修工事で使う道具がそろっていたり、実際と同じ環境が再現されていたりするため、実際にモノに触れながら学べたことも大きかったと振り返る。
 「2年間、給料をもらいながら勉強もさせてもらっているわけですから、これ以上のサポートはありません。月に数回の改善提案や隔週1回の発表会などでは、専務と直接やり取りして要望を出したり、評価してもらえたりするので、アイデアもどんどん出していきたいですね」
 そう話す吉田さん、ゆくゆくは業界の固定概念を覆すような大きなイノベーションを起こしたいと大きな野心を抱く。それが決して夢物語ではなく、現実味を帯びた目標であると感じさせるだけの説得力が、同社のプロジェクトには確かにある。

body3-1.jpg単純なボタン操作でモルタルを剥がす「メクリックス」を使う吉田哲朗さん

自分の役割を見つけていきたい

 同じく標準化に携わる入社3年目の小林里沙さん。もともとは歴史や文化に興味があったことから、教職や研究員を志していたが、民間企業に転換。文化財の改修工事も手掛けていた同社に興味を持った。
 吉田さんとは経緯が違い、初めは本部で見積の作成を担当した。図面の読み方も分からない状態からのスタートだけに苦戦したというが、先輩のサポートに救われたと述懐する。
 「ベテランの方がすごくフランクで、私が困っているのを察して声を掛けてくださったので、分からないことは聞き、教わったことはすぐ人に話すようにしていました。こうするとよく覚えられるんですよね。お客様からの問合せの電話に、初めて保留を押さずに対応できたときは嬉しかったです」
 同部署で約2年半経験を積み、現在は標準化プロジェクトの担当となった。すでに標準化された作業が、本当に誰にでもできる作業になっているのかを検証する役割を担う。男性目線で作られたものを、実際に女性が使ってみると重くて使いづらかったり、身長が届かなかったりということがある。これを女性の視点から解消していくというわけだ。
 「まだ参加したばかりなので手探り状態ですが、何を言われても柔軟に対応できるように準備はしています。見積作成はほぼ机の上の作業でしたが、ここで実物に触れることで、知識と現実のギャップが見えてくるので楽しいです。どちらかといえば不器用なほうなのですが、だからこそ気付けることもあると思うので、このプロジェクトでの役割を見付けていけたら良いですね」(小林さん)
 標準化プロジェクトはまだまだ道半ばだが、若手のモチベーションは確実に高まり、前向きでプラスな発想力と実施技術水準も上がっている。職人の世界でも標準化できると証明できたことが、同社の、そして建設業界の今後に弾みをつけてくれるに違いない。

body4-1.jpg固定できるようにすることで、勢いでネジがぶれてしまう弱点を克服したインパクトドライバー

編集部メモ

国境も業界も超えて広がる展望

 高木代表の口からは次々と展望が語られた。
 「女性や高齢者でも扱える軽量資材の導入だけでなく、すでに一部で導入が始まっているアシストスーツ等の作業の自動化も普及させていきたいです。また、女性からは『かわいくない』との意見も出ていますので、デザイン的にも洗練させていきたいですね。ゆくゆくはAIで現場が回せるようにしたいですね」
 さらに、建設業界での全国的活用を広げるため、標準化のノウハウの教育や、独自開発した機械のレンタルなどを事業化し、同社の活躍の領域は多方面に広がっていきそうだ。

edit-1.jpgリニューアルイノベーションセンターは、若手研修と標準化プロジェクトの拠点