城南地区 株式会社ミネルバ

株式会社ミネルバ
「待ち」から「攻め」への転換で自社ブランドの強化に挑む2代目経営者

株式会社ミネルバ
「待ち」から「攻め」への転換で自社ブランドの強化に挑む2代目経営者

2代目社長の挑戦ストーリー
「待ち」から「攻め」への転換で自社ブランドの強化に挑む2代目経営者
皇室や国会議事堂の椅子の修理から、列車や自動車メーカーの室内製作の企画に携わる家具メーカーのミネルバ。長年にわたって卓越した技術力で高い評価を得てきた同社を、2014年から引き継いだ2代目経営者の新たな挑戦を追う。
伝統を継承しつつ、自社ブランド強化で「攻めの経営」に
国会議事堂の議員席の張り替え、宮内庁玉座、宮内庁儀装車および御者台といった歴史ある椅子などの修復から、寝台特急の室内製作、大手自動車メーカーの自動車開発への参加など、椅子やソファを中心に家具を製作してきた株式会社ミネルバ。長年にわたって同社を率いてきたのが現代の名工に選ばれ、イメージと技術を結びつける技術者であり日本初の家具モデラーとして知られる宮本茂紀氏である。
ミネルバは、イタリアなどの海外の有名家具メーカーなどのOEM生産を行う五反田製作所から独立分社して生まれた会社。独立とはいえ、同じく五反田製作所から独立して特注家具を手がけるエリアントと共に五反田製作所を交えた3社体制で主にオリジナル家具の製作や家具に関するコンサルティングを手掛けてきた。特注家具はじめ、有名家具メーカーのOEM生産など、高い技術力で定評のある職人精鋭集団である。
宮本しげる代表が父親である茂紀氏(現会長)から引き継いだのは2014年のこと。技術力には申し分ないが、問題点がないことはないと話す。
「先代の職人としての高い技術力は社内の職人にも伝承され、当社の技術力は業界で知られる存在ではありますが、ここ数年感じていたのは、従来型の受注生産ではこれからの時代は生き残っていけないという危惧でした。経営者になった今、次代を見据えた方向性を打ち出すのが私の役割だと考えています」
宮本代表いわく、海外の有名ブランドはOEMを自社生産に切り替える傾向にあり、全盛期と比較すると受注量は確実に減少。新社長に与えられた課題は新たな収益の柱になる事業の模索であった。
そんな逆風の中でまず宮本代表が着手したのは、ミネルバの経営で「変えてはいけないこと」と「変えるべきこと」を選別することだった。変えてはいけないことの筆頭に挙げたのが、高い技術力による高品質の特注品製作。これはミネルバ最大の強みであり同社のDNAとして引き継いでいかなければならない事案。
その一方で特注品は、個人や設計事務所などから声がかかって初めて成り立つ仕事。いわば「待ちの仕事」になり、安定した収益源になりづらい。
そこで宮本代表が考えたのが「攻めの経営」だった。待つだけでなく自らが動いて仕事を取りにいく戦略を打ち出した。具体的には自社ブランド「Kairos & M」の強化である。実は先代の時代から自社ブランドの販売は行っていたのだが、大きな成果を上がられないでいた。ここにテコ入れをすることを決断したのだ。つまり特注品製作を残しつつ、自社ブランドにも力を注ぐという戦略である。

情報発信や販売力強化で自社ブランドを売り出す
自社ブランドの強化という方向性を打ち出した宮本代表は、グループ会社の再編も行う。長年にわたって3社体制で行ってきたが、事業内容が似ているエリアントを吸収合併し、五反田製作所との2社体制に変更。さらに自社ブランドを売り出すために自社内にショールームも完備し、販売力強化のために外部連携も推し進めた。
「当社は品質の高い商品を製造してきたという自負はありますが、販売に関してはノウハウがなかったのは事実で、自前で販売力強化を図るには時間を要してしまいます。そこで外部の力を借りて販売力強化を図ることにしたのです」
その方針にのっとり、メーカーで長年にわたって販売畑に携わっていた人物に連携を呼びかけ、販売力強化に乗り出した。ショールームの整備に加えて商品カタログの充実化も図り、家具等の小売店へのアプローチも積極的に取り組んだ。
本社社屋2階にあるショールームには、自社ブランドのソファや椅子、テーブルなどが展示されている。職人の手による手づくりの商品は重厚感にあふれ、確かな存在感を放っている。また壁にはソファや椅子に張る皮の見本なども品よく展示され、さながらセンスのいいセレクトショップのよう空間を創り上げている。ここから自社ブランドの情報を発信するという狙いだ。販売代理店や家具の小売店など取引先との打ち合わせや商談も、このショールームで行う。商品を展示することで高い品質を直に感じてもらうためだ。
こうした自社ブランド強化と共に、将来を見越した取り組みにも着手した。それは海外進出だ。現在、シンガポールやニューヨークへの進出を念頭に、現地のリサーチを進めている。
「お付き合いのある建築会社や設計事務所がアジアを中心に海外進出をしていますので、同じように商業施設やホテル、公共施設などをターゲットに進出を考えています」
展望はそれだけにとどまらない。ファッションやデザインなどの流行の発信地ニューヨーク進出も視野に入れている。なるほど、ニューヨークで認められれば大きなアドバンテージを得ることにもなれば、ブランドの宣伝効果も計り知れない。

自社ブランド強化は、職人とっても大きなやりがいに
宮本代表が、同社に入社したのは、大学卒業と同時というから約20年前。当初の10年間は工場でひたすら椅子やソファなどのものづくりに没頭。その後の10年間は各種家具の設計にも携わりながら顧客の窓口担当として営業的な活動も行ってきた。自社ブランドの強化という新たな経営方針を打ち出した背景には経営者としての判断だけでなく、職人としてのカンも働いている。だからこそ、自社ブランドをつくり、それを育てていくのは現場でものづくりに励む職人にとってもモチベーションの向上につながるとの考えに至ったというわけだ。
「やはり自分たちのブランドを創るというのは職人にとってもやりがいのある仕事です。自分たちの技の粋を集めて育てていくという楽しみもありますから」
宮本代表はそう語るが、現場の職人はどう考えているのだろうか。2000年に入社して現在はミネルバのものづくりの中心的な役割を担う渡辺正夫製造部長はこう語る。
「自社ブランドであれ、他社のOEMであれ、オーダーメイドの特注品であれ、
ものづくりに臨むのに変わりはありません。ただし愛着が違いますね。設計や材質から自分たちで吟味して選び、デザインも意見交換をして最善なものを選んでいますから、自然に愛着がわいてくるんですね。もちろん、今後の会社のあり方にも大きな影響を及ぼすので、責任は大きいですがやりがいにあふれています」
渡辺部長は、海外ブランドのOEMから設計事務所や個人顧客の特注品まで様々な椅子やソファづくりを経験してきた。特に特注品は、顧客の要望を聞いた上でカタチがないところから製作をスタートさせる。既製品ではないので顧客からは椅子の座り心地など感覚的な要望が多いが、そうした細かい注文にことごとく応える姿勢でものづくりに当たっているという。例えば、椅子の座部の固さは、椅子の内部に使用するウレタンの種類や形状で座り心地はずいぶん違う。それを顧客の好みで使い分け、満足度の高い製品として仕上げていくのである。そうした難易度の高い仕事に携わってきた職人としての高い技術が自社ブランドの製品づくりに大いに役立つのだと渡辺さんはいう。
「最近は廉価な家具小売店の商品が人気を集めていますが、大量生産される家具と、職人が一品ずつ魂を込めて作った家具は明らかに一線を画すと評価していただけるように頑張りたいですね」
2代目として新たな戦略を掲げた宮本代表の思いは現場に伝わり、社員一丸となった挑戦はまだまだ高みを目指す。

編集部からのメッセージ
アナログの技術を究める職人の精鋭集団
椅子やソファなどの家具づくりは、骨組みをつくる「木工加工」、布や皮などの裁断・縫製する「縫製」、そして布や皮を骨組みに張る「椅子張り」という3つの工程からなる。木工加工には国家試験の「木工技能士」という資格があり、同様に縫製や椅子張りにも「椅子張り技能士」という国家資格がある。
こうした職人の育成に力を注いできたミネルバ。先輩が後輩の面倒を見るのは当然のことながら、椅子やソファ以外のオブジェづくりなどを通じて技術を磨いている。一見、椅子などとはつながりのない形状のオブジェ作りをすることで技を磨くのだという。
「何よりも創ることを楽しむことが大切。それが技を磨く原動力になります。私たちの仕事はアナログの技術を駆使する仕事です。デジタルがいかに進化しても、人の技や感性を活かしたアナログの仕事はなくなりませんし、逆に見直されると考えています」
宮本代表が語るように、アナログの技を極めようとするミネルバの職人魂。それが高品質で付加価値の高い商品を創出する源になっているようだ。


- 社名:株式会社ミネルバ
- 設立年・創業年:設立年 1983年(株式会社五反田製作所から独立)
- 資本金:2,300万円
- 代表者名:代表取締役 宮本しげる
- 従業員数:25名(内、女性従業員数8名)
- 所在地:142-0051 東京都品川区平塚1-10-7
- TEL:03-3785-2337
- URL:http://www.minerva-jpn.co.jp/
- 採用情報:ホームページよりお問い合わせください