多摩地区 株式会社ミューテクノ

株式会社ミューテクノ
「脱下請け」を掲げ卓越した技術を活かして自社ブランドを立ち上げる

株式会社ミューテクノ
「脱下請け」を掲げ卓越した技術を活かして自社ブランドを立ち上げる

新ビジネス創出ストーリー
「脱下請け」を掲げ卓越した技術を活かして自社ブランドを立ち上げる
製造業相手の板金技術を応用して、一般消費者に喜ばれるブランド商品「BLOSSO」(ブロッソ)を開発。その大転換秘話を追った。
リーマンショックから自社商品開発に乗り出す
銅、鉄、真鍮などの金属を切断して様々なカタチに加工する板金加工は、工業製品を製造する上で欠かせない技術。ミューテクノは高い技術力を持つ社員を擁し、多くのメーカーからの受注を取り付け、1990年の設立以来、順調に業績を伸ばしてきた。ところが2008年に起こったリーマンショックは製造業にも吹き荒れ、同社にもピタリと仕事が来なくなった。
ミューテクノの谷口栄美子専務取締役は得意先を駆けずり回り、どんなに小さな仕事でもいいからと頭を下げてまわった。しかし、世界経済そのものに打撃を与えたリーマンショックはそんなに生易しいものではなかった。
「得意先そのものに仕事がないのですから、いくら頭を下げられてもどうにもなりませんよね。ずいぶん無茶なお願いをしたものだと反省しています」
受注が無理だと分かった谷口専務は途方に暮れた。そんなある日、在庫整理をしていた時に社員の一人が遊び半分に作った昆虫の小さなオブジェを見つけた。その精巧な作品を見た谷口専務は「これは使える」と閃いたという。
自社商品の開発という発想が思わぬところで生まれた谷口専務。振り返ればミューテクノの高い技術力は取引先からも信頼を得ていた。技術力を武器にして自社商品を立ち上げようとすぐさま動き始めた。

高い技術力を活用しステンレスの花に挑戦
自社ブランドという閃きに一縷の望みを託すまではよかったが、B to Bで事業展開してきたミューテクノには独自の販路がない。そこで自社の高い技術力を多くの人々に知ってもらおうと展示会への参加を模索した。しかし、どこへ行っても試作品や受注製品を手掛けるミューテクノが出品できる製品は限られていた。
その枠を取り払うにはどうしたらいいものかと思案した谷口専務。そこで導き出されたのが異業種交流会で知り合った複数の企業と製品を持ち寄って展示会にブースを出し、それぞれの自信作を展示することになった。
谷口専務の目論見通り、昆虫のオブジェは来場者から大いに注目された。手応えを感じた谷口専務は本格的な自社ブランド開発に取り組む決断をする。
「プレゼント用として喜ばれるインテリア小物というコンセプトを思いつきました。せっかく自社商品を作るなら自分が好きなものを創ろうと決め、インテリア小物などあれこれ考えた末に、薄い金属を加工する板金技術を活かせる『花』を作ることにしました。」
花は世界中で最も愛されているバラに決定。コンセプトが決まるとさっそく製品づくりが始まった。

自社ブランドの「BLOSSO」が誕生
谷口専務が製作の相談をしたのは、現場の責任者である石上富士男工場長。実は昆虫のオブジェは石上工場長の作品で、1枚のステンレス板を幾度も折り曲げて作ったもので、とても1枚の板から作られたものとは思えない精巧な作品だったという。そんな作品を作れる技術を持つ工場長ならきっとできると見込んだわけである。
「花びらの作成はすべて手作業になります。しかもステンレスは曲げづらいという特性があり、最初は思うように仕上がりませんでした。結果、満足いくものができたのは1年後のことでした。もっとも、難産の末の誕生でしたから、完成した時の喜びはひとしおでした」
そう振り返る石神工場長。花びらにメッキ処理や焼き入れをするなど、鮮やかな色が出るよう苦心したという。
谷口専務は、石上工場長渾身の作品に「BLOSSO」(ブロッソ)と命名。「Blossom」(花ひらく)の最後の「m」を取ることで、終わりのない永遠の花を意味している。鉄や銅とは異なり錆びにくい「ステンレスの花」の特徴を表現したものだ。すべてが手づくりだから花びらのカタチも微妙に違う。こうして世界で唯一のオンリーワン商品が産声を上げた。

多くの女性の支持を集めて人気を博す
自社ブランドの「BLOSSO」を広く知らしめるために、同社は「国際フラワー展」に出展。すると、有名花店や大手百貨店から注目されるところとなり、展示販売の依頼が舞い込んだという。谷口専務が目標にしてきた自社商品はようやくデビュー。展示販売と同時に予想を超える反響を得る。1点が数万円という決して安くはない商品ながら、繊細で美しいフォルムがそれ相応の値段を彷彿とさせるのも確か。
「BLOSSO」のいいところは、様々な楽しみ方が可能だということだ。マグネットで脱着できるために、同時に開発したステンレスのミラーに留めればインテリアとして楽しめ、また、洋服の裏にマグネットをつければ生地を傷めることのないブローチにもなる。こうした複数の使用シーンを考慮したアイデアが女性の心をつかんだ。
「BLOSSOによってミューテクノの名前が知られるようになりました。自社の技術力のアピールにもつながりますから、今後も様々な自社商品を売り出していくつもりです」
と谷口専務が語るようにすでにいくつかの商品を販売している。たとえば、石上工場長のアイデアで生まれたステンレス製の名刺入れ「SLIDER」がある。親指でケース上面をスライドさせる片手で開けられるアイデア商品である。
「片手で開けられる名刺入れがあれば便利だし、その所作もスマートでカッコよくなるんじゃないかと考えて開発した商品です。薄くて軽いのでスーツのポケットに違和感なく収まります」
自信作を開発した理由を語る石上工場長。じつはミューテクノでは商品を開発した社員には、利益の一部を還元するという制度を導入している。社内で「著作権方式」と呼ばれているが、インセンティブを与えることで社員のものづくりに対する意欲をさらに高めているのだ。
その他にも長年の板金加工で培ってきたノウハウを活かして工作機械の自社製品も売り出している。板金加工の受注だけでなく、自社商品を手がけることで安定経営を図り、社員の意欲向上にも結びつけた一石二鳥の経営戦略は着々と実を結んでいる。

編集部メモ
女性が働きやすい環境を整備
板金加工という業種から男性の職場をイメージしがちだが、ミューテクノでは女性たちの活躍する姿も日常風景。3人の子どもを持つワーキングマザーの井口夏美さんもその一人。主な仕事は顧客の注文を受け、製品の種類、製作個数、材料、品番、納品日などを入力した製作指示書を作成して現場に回すという業務。しかし、事務仕事を右から左に流すだけではない。現場で作業がしやすいようにと材料ごとの指示書フォーマットを改善するなど、同社のものづくりを支えてきた。
さらに、「BLOSSO」開発では女性の視点から意見を出すなど、自社ブランド誕生にも貢献した。
「谷口専務がお子さんを育てながら働いてきた経験の持ち主ですから、仕事と子育ての両立に対して理解があるので働きやすいですね。私以外にも製造現場で働く女性社員も子育てしながら働いています。急に子どもが熱を出して退社しなければいけない時も、皆さん快く送り出してくれるので助かっています」と屈託のない笑顔で話す井口さん。
板金加工というと男性の職場をイメージしがちだが、同社では、井口さんのようにイキイキと働く女性たちが活躍している。
- 社名:株式会社ミューテクノ
- 設立年・創業年:設立年 1990年
- 資本金:1,700万円
- 代表者名:代表取締役社長 松下憲明
- 従業員数:27名(内、女性従業員数7名)
- 所在地:191-0003 東京都日野市日野台1-18-6
- TEL:042-586-0411
- URL:http://www.mutechno.co.jp
- 採用情報:ホームページよりお問い合わせください