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中央・城北地区 株式会社ナビット

株式会社ナビット 「好き」「得意」が人を活かす。全国の主婦ネットワークで満足度の高い調査データを作り上げる

株式会社ナビット

「好き」「得意」が人を活かす。全国の主婦ネットワークで満足度の高い調査データを作り上げる

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中央・城北地区

株式会社ナビット

「好き」「得意」が人を活かす。全国の主婦ネットワークで満足度の高い調査データを作り上げる

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主婦ネット活用ストーリー
「好き」「得意」が人を活かす。全国の主婦ネットワークで満足度の高い調査データを作り上げる。

 株式会社ナビットの事業を支えているのは、全国津々浦々に暮らす主婦を中心にした5万8,100人の地域特派員たち。一人ひとりにできることは小さいが、それぞれが適材適所で動くことで他の追従を許さない新サービス開発に結びつくデータが集まる。Sohos Styleと名付けられた登録制のワーキングスタイルは、同社の福井泰代社長のある発明から始まった。

身近な「不便」をきっかけに大ヒットしたアイデア

 電車のどの車両に乗れば、到着駅ホームの階段やエレベーターに近く、また、乗り換えしやすいかを一覧にした「のりかえ便利マップ」。都市で電車通勤・通学している人にはおなじみのマップだ。このマップを“発明”したのが、ナビットの福井泰代社長。趣味で発明を続ける一主婦だったが、真夏の駅ホームでエレベーターを探し歩いているうちにベビーカーに乗せたこどもがぐったりしてしまった経験をもとに、このアイデアを思いついた。当時約250あった地下鉄の駅の構内を踏破してマップを作成、出版社など手当たり次第に売り込みをかけた。
 訪問先が70件を越えた頃、アルバイト情報誌の編集長の目に留り、『千代田線沿線の仕事』というコーナーのインデックスとして採用された。1996年のことだった。
 それだけではとても満足できない福井社長は、さらに売り込みを継続。手帳のコンテンツに採用されたのに続き、鉄道会社で採用され、駅に貼られるようになった。それをきっかけにJRや他の鉄道会社での商談も成立し、あとはトントン拍子に大きく成長した。

body1-1.jpg「好きなことをするのが一番」と福井社長

「地下鉄にパンタグラフはない」手強い敵が頼もしい味方になった

 まさにアイデアの勝利だが思わぬところでミソがついた。のりかえ便利マップが掲載された手帳を目にした一人の若者が会社に怒鳴り込んできたのだ。問題はデザインで描いた地下鉄車両のイラスト。「地下鉄にパンタグラフはない」というのがその若者の言い分。
聞けば、早稲田大学の鉄道研究会の学生という。
「『かわいいので、デザインとしてつけただけです』と説明したのですが、まったく納得してくれない。これは敵に回すと怖いなと思って(笑)。ちょうどそのとき、横浜市の地下鉄のマップを作成していたので、『そんなにこだわるなら、あなた達やってみませんか』と、声をかけてみたんです」
 すると、学生たちは2か月かけて、これだけやったらギャランティーに見合わないんじゃないかというほどに精度の高いものを作ってきた。「これは使える」と確信した福井社長は、大学の鉄研にアプローチ、学祭の活動に寄付したり、就職活動の手助けをするなどして、全国の鉄道研究会との信頼関係を構築していった。それに並行して駅構内図作成にも着手。鉄研ネットワークが見事に機能して、精度の高い構内図が出来上がり、それが評判となり、同社の地位を確実なものにしていった。
 これに気をよくした福井社長は、情報誌から依頼のあった、デパ地下や喫茶店の情報収集にも鉄研の学生に振り分けた。
「ところがこれは大失敗でした。彼らの能力が発揮されるのは、あくまで鉄道関係限定。スイーツなど興味が持てないものでは、調査がおざなりになってしまうんです」
 ここで得られた教訓は二つ。一つは、「好き」であるということは、それだけで強力な武器になるということ。自分たちがどれだけがんばっても、鉄道研究会の学生ほどのものは作れない。彼らは、鉄道というものを好きだからこそ、こだわりを貫いて、結果的に優れたものを作り上げたのだ。事実、先のデパ地下の調査に主婦のネットワークを投入したところ、さすが主婦はスイーツに強く、納得のいく情報の収集に成功した。
 もう一つの教訓は、人的ネットワークの持つ可能性だ。鉄道研究会や主婦のネットワークを拡大して、全国に「目」と「足」を持てば、膨大な情報を集められるようになるということだった。その人をどう集めるかという課題を前に福井社長が眼をつけたのが、当時、急速に普及しつつあったインターネットだった。これを活用すれば、人を効率的に集められる、これも福井社長のひらめきだった。

body2-1.jpg「社長との距離はないに等しい。風通しはすごくいい」と井上さん

圧倒的な人海戦術で唯一無二のデータベースを構築

 動き出したら早いのが同社の真骨頂。地域特派員サービス「Sohos Style」を立ち上げると、大反響を呼んだ。「働きたいけれど、子どもが小さくてパートにもアルバイトにも出られない」、「たくさんの時間はとれないが、仕事をしていたときの経験を生かして少しの時間でも働きたい」そんな主婦からの応募が殺到。あっという間に会員数は1万人を超えた。
 この圧倒的なマンパワーを背景に、ナビットは次々と新サービスを開発する。毎朝の新聞折り込みチラシの特売情報を入力して、特売情報を提供する「毎日特売」、不動産物件や風景などの写真撮影を請け負う写真撮影代行サービス、店舗の接客などを調査する覆面調査サービスなど、次々に誕生した。さらに、公的機関などの調査では見えてこない、「流動性人口推定データ」や「ガソリン販売価格データ」などをデータベースで販売する事業も展開。
「登録してくださる方一人ひとりに得意なこと、好きなことがあり、それにマッチングしたお仕事を紹介しています。写真を撮るのが好きな方には、写真を撮ってきてもらい、正確な文字入力が得意な方には、チラシなどの情報を入力してもらう。適材適所で働いてもらうことで、会員はモチベーションを保つことができるし、顧客にもクオリティの高いデータを提供できるのです」
 いまや会員は6万人に手が届こうとしており、提供するサービスも日を追って増え続けている。

body3-1.jpgどんどん生み出されるナビットのサービス。企業からの評価も高い

たどり着いた答えは「好きであることが最大の力になる」

 「好き」「得意」を仕事にするというのは、もはやナビットの哲学。
「私自身、趣味で始めた発明が仕事になった。不便を感じたら、それを改善するアイデアを考えるのはとてもおもしろくて、それが仕事になっているのは幸せなことだと思います。もちろん、それをお金に換えるまでには色々な苦労が伴うものですが、好きなことだからこそ、乗り越えられたのだと思います」
 社員にも、同じように好きなことをしてほしいと伝え続けている。
デザイナーの井上洋之さんは37歳。広告代理店からの転職組で入社4年目だ。
 「もともと鉄道が好きで、のりかえ便利マップを作れるというのが転職を決めた大きな理由でした。やはり、好きなことですからアイデアも浮かびやすく、鉄道会社にマップのメンテナンスを提案しているうちに、のりかえ便利マップを多言語化、データ化したらどうだろうと思いつき、社内で提案したら採用。2020年の東京オリンピック・パラリンピックに間に合わせようと奮闘しています。言い出した手前、なんとしてもいいものに仕上げたいですね」と意欲を見せる。
 「びっくりするくらい自由に仕事をさせてもらっています」というのは、入社2年目の営業、小峯渉さん。
「入社2年目の私が、こんなに任せてもらっていいのかと思うくらい、お客様と直接お話して、ビジネスをまとめています。目標は、歴代の営業や内部スタッフが考案したコンテンツやデータベースサービスに、自分の世代感で分析していって、新しいサービスを提案できるようになれることです。今はその実現のために勉強の毎日です」
 自分のアイデアが、次から次にビジネスになっていく。そのプラットフォームとなる会社を作り上げたことこそ、福井社長最大の発明かもしれない。

body4-1.jpg日々の生活で人助けができるところがこの会社の魅力と、営業の小峯さん

編集部からのメッセージ

風通しの良さが生む魅力的なアイデア

「地方に暮らすSohos Styleの会員さんから、毎日のようにもっと仕事はないですかと連絡をいただく」と福井社長。景気が上向いているとはいえ、地方で子育てを抱える主婦層が働ける場所は非常に限られており、「その分、もっと仕事を作っていかないと」と意気込む。その仕事づくりは、社員たちの仕事でもある。年に4〜6個、新しいサービス、新しい調査案件が生まれているといい、社員には高い提案力が求められるのも事実だ。
 だが、同社のオフィスに、殺伐とした雰囲気はなく、福井社長を筆頭に、笑顔と会話にあふれている。こうした仲の良さ、風通しの良さが育むコミュニケーションが、アイデアの源泉になっているといえるだろう。