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多摩地区 坂西精機株式会社

坂西精機株式会社 培った技術ときめ細かい人材育成で歯車業界のオンリーワンを目指す

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培った技術ときめ細かい人材育成で歯車業界のオンリーワンを目指す

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東京カイシャハッケン伝!企業
多摩地区

坂西精機株式会社

培った技術ときめ細かい人材育成で歯車業界のオンリーワンを目指す

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人材育成ストーリー
培った技術ときめ細かい人材育成で歯車業界のオンリーワンを目指す

 ネジやベアリングと並んで、機械には欠かせない三大部品のひとつと呼ばれている歯車。自動車や電車、時計やロボットなど、その使用例を挙げればきりがない。その歯車を作って70年、日本の機械産業を影から支え続けているのが坂西精機である。現在、同社の舵取りをしているのが、二代目の坂西宏之社長。理系出身の坂西社長が考案したユニークな人材育成制度は、内外から高い評価を受けている。

歯車が遊び道具。ものづくりは生活の一部だった

 同社は歯車のみならず、歯車同士を組み合わせた減速機も製造している。減速機とは、モータなどの動力源によって回転している歯車に、その歯車よりも大きな歯車を噛み合わせることで回転数を下げて、トルク、つまり力を得る機械装置である。減速機といわれても中々イメージしにくいだろうが、自転車のギアといえばピンとくるだろう。例えば坂道を登るときは、ペダルを軽くしたいからギアを1や2に入れる。このとき後輪のギアを確認してみると、大きな歯車にチェーンがかかっている。つまり、大きな歯車と噛みあわせて、トルクを得ているためペダルが軽くなり、その分回転数が減っているため、ペダルを多く漕がなければ前に進まないというわけだ。
 同社がこうした減速機や歯車を製造し始めたのは1945年のこと。現社長の父親である坂西勝司現会長が、精米機やパーマネント機を製造、販売して得た資金を元手に、同社の前身である坂西製作所を立ち上げた。ただし規模は歯切り盤が2台だけの零細。歯車メーカーの下請けをして切り盛りしていたというが、間もなく戦後復興特需による好景気、続けて1960年代に右肩上がりの高度経済成長期に突入したことで、会社は軌道に乗った。現社長が生まれた1966年には、職人を10名ほど抱える一歯車メーカーとして成長を遂げていたという。
当時、社長一家が住んでいたのは工場の2階部分だった。物心ついたころからものづくりが生活の一部だったと坂西社長は振り返る。
 「工場内には面白い形の工具や歯車の不良品なんかが転がっているんです。それが当時の私の遊び道具。歯車を転がしたり噛みあわせたりしてよく遊んでいましたね。それに、従業員の方や父親の後ろ姿を眺めていましたから、気づいたら自分もいつかは歯車を作ってみたいという気持ちが芽生えていたんです」
 それに加えて同社で働く職人から、からかい半分で二代目と呼ばれて育った坂西社長。大学で経営工学科に進んだのも自然な流れだった。そこで社長が出会ったのが、インダストリアルエンジニアリング(IE)という学問だった。
 「生産工学や科学的管理法と呼ばれる学問です。簡単にいえばあらゆる物事を数値化、定量化するもので、例えば人間の1歩は約70cmなので、それに基づいて、ある距離からある距離まで物を運搬するとしたら何歩かかって、何秒かかるといった計算をしていくんです。そうした計算を基に生産ラインの工程や配置を組み立てていくのがインダストリアルエンジニアリングです」
 まさにものづくりに直結した学問。社長就任時には、早速その学びを活かして生産管理法の見直しに取り掛かったという。
 「私が社長を引き継いだころには、既に歯車や減速機、販売元のニーズに合わせた金属加工部品も製造していましたから、全体で月に700種類以上の機械部品を製造していました。それらの部品をひとつ作るのに必要な作業は、大体7工程。つまり、1か月に約5000工程が発生するわけです。その工程や納期を一元管理できるように、一つひとつの工程を洗い出し、コンピュータ環境も増強しました」
 昔気質の職人が集まるものづくりの現場は、より良いものを作ろうという品質向上の意識は往々にして高い。しかし、その一方で作業の効率化や経営的視点が手薄になっているケースが少なくなく、その点、同社では理系出身の社長が修得した学問を活かして、作業や経営の最適化を図っているというわけだ。これは、生産管理だけに留まらない。人材育成にもインダストリアルエンジニアリングを応用しているというから驚きである。

body1-1.jpg「スキルマップの導入は一苦労でしたが、やった甲斐はありました」坂西宏之社長

社員のやりがいを醸成するスキルマップ制度

 同社の取り組みで最も特徴的といえるのが、スキルマップ制度である。これは、読図やNC旋盤操作、製品の測定や異常時の対応など、社内で発生するありとあらゆる工程に対して、従業員がどれだけのスキルを持っているかという技量を5段階評価で数値化したもの。技術職だけでなく、事務職にも、スケジュール管理や給与計算、あるいは関連法の知識などの項目が割り当てられているという徹底ぶりで、まさに物事を定量化するインダストリアルエンジニアリングを応用した制度といえる。
 「ただ、導入時は一苦労でしたね。そもそも全ての作業を一つひとつ項目化するのも大変でしたし、いざ点数をつけようとすると職人からは『俺の仕事に点数なんかつけられるか!』などと反発されっぱなし。確かにそれも一理あって、誰がどんな風に点数をつけるのかというのも問題でした。最終的には、まずは本人に自分が何点だと思うのかヒアリングして、それから上長の意見を擦り合わせてという作業を一人ひとりやっていきました。根気のいる作業でしたが、やった甲斐はありました」
 それぞれの技量を数値化したことで、向き不向きが一目瞭然となり、それを基に人材配置を行うことで、仕事の適合率が高まりミスが減少したという。事実、同社の不良品による仕損金額は驚くほど減少している。
 このスキルマップ制度、つまり自分の技量が客観的に把握できる制度が、従業員の人材育成にも一役買っていることはいうまでもない。製造1課の宮城陽一郎課長は、そのメリットをこう話す。
 「部下の指導に役立っていますね。スキルマップを基に、君はこれが足りていないから、それを埋めるために、これをやらなければならないね、などと的確なアドバイスができるようになりました」
指導される側もこのスキルマップの数値向上がやりがいになっているという。
 「上司や先輩と比べて、自分はまだまだ足りない技術があるから、この技術を重点的に磨いて、早く追いつこうといったモチベーションにつながっています。現在はNC旋盤での加工が主な業務ですが、ゆくゆくは減速機などの機械を一から設計して部品を製造し、最後の組み立てまで一通りできるようになりたいと考えているので、そのために必要な技術をスキルマップで確認して、業務以外の技術も身につけようと努力しています。与えられている仕事以外の技術を知ることで、ものづくりの面白さを発見することもあるんですよ」(松永学さん)
 幼い頃からものづくりに触れて、大学では生産工学を学んだ坂西社長が導入したスキルマップ。ものづくりの面白さと学問的側面の両面を心得た社長が導入した制度は、作業の効率化のみならず、ものづくりの面白さや、やりがいを見つけられる制度になっていることは、必然の結果といえよう。

body2-1.jpgスキルマップのメリットを語る宮城陽一郎課長(写真上)/「ゆくゆくは設計から組立までをこなせるようになりたい」と語る松永学さん(写真下)

編集部からのメッセージ

 同社の人材育成制度はスキルマップだけではない。マシニングセンタ作業や数値制御旋盤作業などの国家技能検定の取得を推奨している。その推奨というのも言葉だけでなく、受験料は全て会社で負担。休日に受験する場合は休日出勤扱いにし、合格した級に応じて報奨金も出る。それに加えて、社員が遠方の試験会場に足を運ばなくてもいいように、部長クラスに検定員の資格を取らせて、同社内で受験できるよう、検定施設の資格も取得しているというから、まさに至れり尽くせり。その狙いを坂西社長は「国が設けているレベルに対して現在の自分の技量を照らし合わせるため」と話す。なるほど、スキルマップという社内で設けた基準だけでなく、国が設けている国家技能検定という基準とも照らし合わせて、現在のレベルを知るというわけだ。こうした人材育成度が認められて、平成26年度東京都中小企業技能人材育成大賞知事賞優秀賞を受賞した他、社内からも好評で、続々と受験者、合格者が出ているという。

edit-1.jpg同社には充実した機械設備が整っている