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中央・城北地区 株式会社新盛インダストリーズ

株式会社新盛インダストリーズ 小回りの効く戦術を繰り広げ、新市場に確固たる地位を築いた老舗企業

株式会社新盛インダストリーズ

小回りの効く戦術を繰り広げ、新市場に確固たる地位を築いた老舗企業

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中央・城北地区

株式会社新盛インダストリーズ

小回りの効く戦術を繰り広げ、新市場に確固たる地位を築いた老舗企業

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飛躍を続ける老舗企業ストーリー
小回りの効く戦術を繰り広げ、新市場に確固たる地位を築いた老舗企業

 スーパーの商品にバーコードシールが貼られるようになったのは1980年代のこと。素人目には小さな変革が実は流通の大革命。業界の常識に独自の戦術で挑み、大手と堂々と渡り合っている株式会社新盛インダストリーズ。ものづくりの真髄をとくとご覧いただこう。

日本初のバーコードハンドラベラーを開発

 夕方のスーパーで主婦を釘付けにする光景といえば、売り場担当者が現れて値引きシールを商品に貼っていくというお決まりのパフォーマンス。このシーンで思い浮かべて欲しいのがもう一つ。売り場担当者が手にしている機器である。実はそれこそが新盛インダストリーズの主力商品、ハンディタイプのバーコードプリンターである。
 小さなラベルシールではあるが、原料や産地、価格などの情報に加え、バーコードが印刷されている。この情報が小売店舗にはなくてはならない大きな価値を持っている。それでいながら、誰にでも扱いやすく、手早く次々に貼っていける優れものの機器と大人気で、多くの小売店で採用されている。国内でこの分野を切り拓いたのが新盛インダストリーズ。1984年、日本初の電子バーコードハンドラベラーを開発、発売。以来、新しい技術に対応するとともに、使いやすさを意識した改良を行い、新製品をリリースし続けてきた。
 競合には誰もが知る大手電機メーカーをはじめ海外勢も含めて10社近くがひしめく。対する新盛インダストリーズの社員数は75人。決して大きくはない同社が、30年にもわたり第一線で渡り合ってこられたのにはそれ相応の理由がある。

body1-1.jpg「精密な機械加工が我が社のDNA」と和田隆彦会長

時代に合わせて姿を変える技術屋集団

 1918年、蝶つがいなどを製作する建築鍛冶の職人集団として、新盛インダストリーズは創業した。その後、急速に普及していった自転車の車輪の中心にあるハブの開発・製造に進出。職人魂で技術を磨き、変速機を内装したタイプも手掛けるなど、市場開拓に成功したものの、戦後、バイクや自動車に市場が圧迫され、再度の転身を模索。
 時あたかも全国でスーパーマーケットが次々とオープンした1960年代。店主の目の届くところに商品が並ぶ小売店鋪と異なり、陳列棚とレジが離れたスーパーでは、手書きの値札では対応できない。そこに目をつけ、開発したのが値段をシールに印字し、商品に貼っていく機器、ハンドラベラーというわけだ。
 「一部の量販店でドイツ製のハンドラベラーを導入していました。その便利さは当時20代だった私の目にも明らかで、ハンドラベラーの市場は一気に広がると確信できました」
 と和田隆彦会長は当時の模様を語る。
 開発陣は、やるからにはより優れたものを作ろうと工夫。ドイツ製の輸入機が商品にこすりつけてシールを貼る仕掛けだったのに対し、貼りやすさを追求した結果、バネ式でラベルが飛び出す仕掛けの機器を開発。1968年に発売すると評判は上々で、2年後に2段式機器を発売するなど、その後も改良を繰り返し市場での信頼を獲得していった。
 「精密な機械加工は、建築鍛冶の時代から染み付いた私たちのDNAのようなもの。そこによいアイデアが組み合わさって、評価いただけるものが作れたのだと思います」
 飛び出し式初号機の1L型をはじめ、今もなお多くの機種が現役で活躍しており、その完成度の高さがうかがえる。

たった一台でも顧客専用にカスタマイズ

 順調に安定した業績を上げ続けていたが、次の波がやってきた。IT化である。1980年代、商品パッケージに貼られたバーコードを読み取って、バックヤードのコンピュータで集計して商品一つひとつをきっちりと管理でき、そのデータをもとに商品計画や在庫管理に活かせるPOSシステムが登場。量販店やコンビニエンスストアはこの仕組みの導入をこぞって検討しはじめた。
 顧客の動きを受けて、新盛インダストリーズも動き出す。プログラムや回路を作れる人材をリクルートし、体制を強化。海外メーカー、大手国内メーカーの2社が先行する中、1984年、ハンドラベラーで培った技術を生かした「電子バーコードハンドラベラー」を日本で初めて発売し、勝負に出た。
 「お付き合いのあった大手の一社がPOSをいよいよ導入するとのことで、実験店舗を準備されていました。そこでなんとか採用してもらおうと、多いときは日に3回も足を運んで営業していました」
 結果は勝利。採用の理由として、比較検討していた海外製品に比べ、小さく軽かったことを挙げられた。
 この評価が業界で評判となり、新盛インダストリーズのバーコードプリンターは、次々と採用されていった。当時営業の最前線で走り回っていた和田会長は、顧客の声に耳を傾けることに全力を傾けた。
 たとえば、海外メーカーの製品を採用しているあるスーパーは、機器が壊れて修理に出したら、2〜3週間戻ってこないと頭を抱えていた。それならと、修理がすぐできる体制を作ろうと社内に働きかけ、届いたその日に修理して返送するという仕組みを作りあげた。
 「これがすごく受けました。こんなに早く対応してくれるところはないと喜んでいただいて、受注も増えていきました」
 万事がこの調子で、ソフトウェアをユーザーが操作しやすいようにカスタマイズするのに、普通なら1ヶ月かかるところを1週間で納めてしまう。たとえ一台しか採用されていない店舗であっても、その店だけのためにカスタマイズの手間を惜しまない。
 「組織の大きな大手さんには、決してまねできないところ。小回りのよさを前面に出してお客様の心を捉えていきました」
 その後も無線通信でデータを更新できるようにしたり、スマートフォンで操作できるようにしたりなど、その時々の新技術を次々と導入して新製品を投入。その行動力と先進性が業界での確固たる地位を維持する原動力となっている。
 「うまくデータを転送できないというお客様の対応をするため、北海道まで出張したこともあります。ちょっとした無線LANの不具合だったのですが、解決して喜んでいただき、よかったなと思いますね」
 とは、ソフトウェアのカスタムに当たる商品開発部の立花純さん。和田会長の思いは、確実に社員に広がっている。

body3-1.jpg「ちょっとしたやさしさを組み込んでいきたい」と立花純さん

中小企業の物流にもバーコード革命を

 そんな同社が、次に狙っている市場が2つある。
 1つは海外だ。もちろん海外にもバーコードプリンターはあるが、多くは据え置き式で、ハンディタイプは珍しい。ハンディタイプであるということは、陳列されている商品に上からもう一枚貼れるということで、閉店間際の値引き時に力を発揮する、冒頭でも紹介したおなじみの機器である。
 ただし海外には、並んでいる商品を値引きしてまで売り切るという文化がないのだという。苦戦は承知のようだが、それで諦めていたら同社の真骨頂とは言えない。
 「スウェーデンのある小売チェーンでもそうでしたが、閉店前セールに使えますよと紹介したら、『値引きって、それはおもしろい発想だね』と興味を持たれるのですがそこまで。どこにいってもそんな感じで、なかなか思ったように採用は進みませんが、もし、文化ごと根付かせることができたら、それはすごいこと。いつか注目されるような成果を挙げたいですね」
 と海外営業を担当する和田善紀課長は笑う。
 もう1つ狙っているのが、中小企業の工場の物流だ。大手企業の工場は自前でロジスティクスを管理するソリューションを構築してもいるが、中小はそこまで手が回らず苦労している。そこへバーコードソリューションを提案しようと子会社を設立した。
 「バーコードソリューションを導入して入出庫を自動認識できるようにすれば、従業員の方々の負担も軽減できますし、間違いも減る。どんな業種業態でも、ぴったりのシステムにカスタマイズしてみせます」
 と和田会長は自信をのぞかせる。
 時代に合わせて巧みに変化を遂げてきた新盛インダストリーズ。次にどんな飛躍を見せてくれるのか、興味は尽きない。

body4-1.jpg「遠慮することなく意見が言えるのが会社のいいところ」と和田善紀課長

編集部からのメッセージ

「一念天に通ず」を胸に生きよう

 アイデアを次々とひねり出し事業の拡大を図る和田会長、社員のモチベーションを高める上でも独特の取り組みを続けている。
 1つは事業発展計画書の存在。経営の内容を売上げから利益、経費まですべてオープンにして社員全員に配っている。
「この会社がいまどんな状況にあるか、全社員が知っています。これで社員一人ひとりが自分がやらなきゃという責任感が目覚めるのです」
 また、全社員が自分のビジョンを書き、寄せ書きのようにして全員で共有するという施策も続けている。忙しく働いているとなかなか自分の将来像を考えないまま過ごしていくことも多いが、ビジョンという形で芯を1本通すことで、日々の仕事への取り組みも変わってくるという。
 「仕事をするということは、人生をどう生きるかということでもあります。それを踏まえて、自分が成し遂げたいことを、心に深く思い描きなさいと、いつも社員には伝えています。もちろん思うだけじゃなく、努力も大切ですけどね」

edit-1.jpg毎年社員に配られる事業発展計画書。企業理念、信条(クレド)を記した小冊子も作成、全社員が携行している
  • 社名:株式会社新盛インダストリーズ
  • 設立年・創業年:設立年 1931年
  • 資本金:3,500万円
  • 代表者名:代表取締役会長 和田隆彦
  • 従業員数:76名(内、女性従業員数21名)
  • 所在地:114-0004 東京都北区堀船4-12-15
  • TEL:03-3913-0131
  • URL:http://www.shinseiind.co.jp