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多摩地区 新協電子株式会社

新協電子株式会社 ベテランがノウハウを伝授、若手が発想で刺激し、技術開発に融合力で挑む

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ベテランがノウハウを伝授、若手が発想で刺激し、技術開発に融合力で挑む

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ベテランがノウハウを伝授、若手が発想で刺激し、技術開発に融合力で挑む

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若手・ベテラン融合ストーリー
ベテランがノウハウを伝授、若手が発想で刺激し、技術開発に融合力で挑む

 社会インフラの監視に不可欠な音声・映像伝送装置。そのニッチトップの技術を誇る新協電子では、若手・ベテランの融合で技術革新を実現している。

若手社員の発案から、ハイビジョン映像の伝送装置開発が始動

 鉄道・空港はもとより、防災・消防・タクシー無線、医療現場など、ちょっとした施設にも監視カメラが当たり前のように設置されている。新協電子は、製造部門を持たないファブレス企業として、監視システムへの映像伝送などに活用される音声・映像伝送装置の設計・開発に特化する企業として着実に業績を伸ばしている。
 同社は2013年にその集大成の一つとして、侵入者の顔やナンバープレートなどの高解像度映像と音声を、最長40km先の監視施設まで伝送できる光伝送装置「EOHシリーズ」の開発に成功。フルハイビジョン映像と制御信号を同時に光ファイバーで送るシステムのため、カメラの遠隔操作も光ファイバー経由で可能という画期的な使い勝手で高評価を得た。
 この「EOHシリーズ」の開発は、実は社員の発案から動き出した。2007年に新卒入社した髙橋善彦さんだ。

body1-1.jpg髙橋善彦さんは現在、マイホームを建築中。中西社長にも相談しながら物件選びを進めていったという

試作を重ね、開発に1年を要した末、狙い通りの性能を実現

 「フルハイビジョンカメラの開発が進む一方で、ハイビジョン映像に対応した光伝送装置は見当たらない状況でした。“当社が先駆けて開発に成功すれば絶対に売れる!”という確信をもって、開発会議で社長に直接提案したんです」
 この提案を受けた中西英樹社長は、やるからには制御信号も併せて伝送できる装置を作ろうと、髙橋さんに注文。発案者の髙橋さんを主担当に置き、アナログ設計のスペシャリストであるベテラン社員と、2010年新卒入社の安田美智子さんを加えたベテラン・若手融合プロジェクトチームを組織した。
「製品開発に企画段階から携わるのは初めてのことでしたから、新しい挑戦に胸躍る思いがする一方で、新技術を生み出すことの難しさを痛感した毎日でした」
 安田さんがそう振り返るように、同装置の開発は同社としても未知な領域。ソフト・ハード双方に大量のデータを高速かつ安定的に処理する新たな仕組みづくりは一朝一夕にはいかなかった。とりわけ、若手にとっての負担は目に見えて大きかった。それをカバーしたのがベテラン社員だった。
 「回路・機構などはごくごく小さな綻びがノイズの原因になってしまいます。ですからどんなに些細な不具合も逃さず取り除くという神経を消耗する作業が続きました。私たち若手2人だけではとても無理でした。安田は制御ソフトの開発をメインで担当し、主担当の私は全体の管理。そして、ベテランの先輩には主に電子回路や機構の設計に長年の手腕を発揮してもらい、屋外に設置する場面も想定されることから、風雨等にも揺るがない強度を確保するための部品選定にも知恵を貸してもらいました。若手とベテランがガチッとかみ合った手応えがありました」
 開発期間は実に1年。狙い通りの性能を実現したときには、“やっと解放される”という思いに駆られたという。

body2-1.jpg工程全体を管理する髙橋さんと制御ソフトの設計を担う安田美智子さんは、日頃からこまめに意見交換

週1回の勉強会で技術を研磨し、ビジネス塾への参加も志願

 若手とベテランの融合は、研修・教育においても進んでいる。入社10年以下の社員を対象にした週1回の勉強会がその一つ。大手メーカー出身のベテラン技術者を講師に招聘し、ディスカッション形式で現場が必要とする技術の習得をサポート。中西社長自らも講師を務め、マネジメントや組織運営などの理論を伝授する。
 「私たちがどんな分野に興味があるのか、どんな技術を欲しているのかを講師と意見交換し、その声に沿ったテーマで学べますので、興味いっぱいに取り組めますね」
 柔軟かつ充実した社内研修に満足感を抱く安田さんは、今年5月からは、自ら志願して株式会社イノベーション研究所が主催するビジネス塾「西岡塾」に参加。これは8カ月間の長期に渡って、各界の会社経営者や大学教授による講義・グループワークなどを通じて、リーダーシップやマネジメントなどを研磨するプログラムという。参加者は大手企業の幹部候補のミドル層が大半を占めるといい、中小企業、しかも若手社員の参加は異例だという。
 「単に講義を聞くだけでなく、様々な企業・業界で働く全18名の参加者とディスカッションし、多様な考え方に触れ、化学変化を楽しめる場です。まだ始まったばかりで、自分自身、これからどんな成長を描けるのか楽しみ。すでに塾を卒業した先輩と一緒に、塾で学んだ成果を社内にフィードバックし、全体のレベルアップにつなげていきたいですね」
 社内だけでは得られない刺激と学びを得ながら、新たな成長に向かう安田さんの今後が楽しみだ。

body3-1.jpg安田さんが参加する「西岡塾」の合宿での一コマ。多彩な参加者と交流を深めあっている

この10年でベテランと若手、アナログとデジタルが融合

 髙橋さんと安田さんをはじめ、同社が新卒社員を受け入れ始めたのは10年前。毎年1~2名を採用し、これまで新卒社員の退職はゼロだという。
「当社は元々ハード主体の会社。10年前から制御ソフトの開発にも本格的に乗り出し、ハード・ソフトをトータルで担える体制にシフトしています。こうしたイノベーションを実現できたのも、デジタルネイティブ世代である若手社員の活躍があってこそなんです」
 中西社長はそう語り、若手の活躍と成長に目を細める。ベテランが若手にアナログ設計のノウハウを伝授し、若手は伸びやかな発想を活かしてデジタル領域の技術開発に力を発揮する。そんなベテランと若手、アナログとデジタルの融合が現場レベルで活発に進み、風通しの良い中でのびのびとモノづくりに挑める環境が、社員の定着にもつながっているのだという。
 また、利益の社員還元にも心を配る姿勢も社員のモチベーションを刺激しているようだ。
 「うちのオフィス備品はほとんど中古品。できるだけ経費を抑え、その分、社員への給与・賞与、研修・教育、福利厚生に還元しています。先日も最新のバス・特急列車を貸し切って、河口湖に社員旅行に行ってリフレッシュしてきたところなんです」
 設計・開発に特化する同社の最大の強みは、技術=人。若手・ベテランが壁を越え、一人ひとりが持ち味を発揮し、成長に挑むためのサポートには投資を惜しまない。そのスタンスこそ、同社がニッチトップを突き進むゆえんだろう。

body4-1.jpg「開発会議では若手社員も積極的にアイデアを出してくれます。頼もしい限りです」とは中西英樹社長

編集部メモ

「平成27年度TAMAブランド企業」に認定

 同社が手掛ける伝送装置は、社会インフラの安全確保になくてはならないものだ。導入する現場に応じたカスタマイズが必要とされるゆえ、大量生産で利益を追求する大手企業は手を出しにくく、価格競争にも翻弄されない。
 このまさしくニッチな領域で、同社は半世紀以上に渡って技術を培ってきた。2015年には、「平成27年度TAMAブランド企業」に認定され、多摩地区で活躍する中小企業を表彰する「多摩ブルー・グリーン賞」でも、同社の音声伝送・操作装置「μVOICOM(マイクロボイコム)が技術・製品部門のブルー賞を受賞した。
 「当社では開発者自らが発案し、製品化まで主体となって推進します。モノづくりに挑むなら絶好の舞台。社名だけではなく、自分は何をやりたいのかという信念に沿って、就職先を選んでいただきたいですね」(中西社長)

edit-1.jpg大学で光通信技術を学び、その知識をもとにモノづくりに挑み続けたいと、同社を就職先に選んだ安田さん