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中央・城北地区 株式会社トキワメディアサービス

株式会社トキワメディアサービス 得意分野に特化した事業方針に転換して剥がせる製本の開発に成功

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得意分野に特化した事業方針に転換して剥がせる製本の開発に成功

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株式会社トキワメディアサービス

得意分野に特化した事業方針に転換して剥がせる製本の開発に成功

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新商品・新技術開発ストーリー
得意分野に特化した事業方針に転換して剥がれる製本の開発に成功

 教材の新しい使い方を可能にした「剥がれスクラム製本」の開発に成功したトキワメディアサービス。その開発の背景を探る。

経営危機を打開するため事業領域を絞り込む

 トキワメディアサービス代表取締役社長の江月章氏は、2000年に知人を通じて同社の前身の会社に経営陣として招かれた。印刷会社の役員という前職を見込まれての招聘だった。その時、同社は江月社長が考えていたよりも深刻な経営状況にあった。総合印刷会社として手広く事業を展開していたが、業績は悪化の一途をたどっていた。
 いまどきはコピー機のないオフィスなど皆無だが、戦後の高度成長時代は専門業者に依頼するものだった。同社はそんな業者にあって大手メーカーの設計図などを中心に受注し、日本経済と足並みを揃えるように業績を伸ばし、印刷全般を扱う企業へと成長していた。
 しかし、1990年代後半から売り上げは下降線をたどっており、そんな危機的状況から脱出を図ろうと最新鋭機の印刷機を導入するなど設備投資を行った。しかし、世はインターネットの時代に入り紙の需要は減るばかり。時代が読めていなかったのだ。こうした状況下では大幅な改革が急務だと江月社長は考えた。
「大手と競合しても勝ち目はありません。資材を安価で大量仕入れできる大手とでは価格面で大きな差がついてしまう。そこで打ち出したのが、単色・2色で小ロット、そしてページものの印刷と製本。加えて希少性のある分野に絞り込んだ事業方針に転換しました」
 事業を縮小して得意分野に特化する「選択と集中」を打ち出したのだ。ところが、危機感を抱いていたのは江月社長のみ。長年にわたって在籍する幹部社員は大山鳴動の体。世の中の変化、そして会社の置かれている状況を把握していなかった。「何故、総合印刷の看板を下ろさなければいけないのか」と猛反発。それでも自らの決断を信じて経営の立て直しを図っていった。

body1-1.jpg強いリーダーシップで経営改革を推し進めた江月章社長

拠点を集約して新体制で新規開拓に挑む

 江月社長がまず手をつけたのが生産拠点の集約だった。同社では都内の白山本社、神田、さらに茨城の筑波や神奈川の川崎・大和などに複数の拠点を有していたが、そこに紙やインクなどを輸送するのに月に1000万円もかかっていた。それを1箇所に集約すれば、大幅なコスト削減と業務の効率化が図れる。そこで印刷物の全国発送拠点としても最適な朝霞に、現在の朝霞事業所を建設する。
 「反発する社員もいましたが、賛同してくれる社員と新規開拓に奔走しました。そこでターゲットとして絞ったのが教材という分野。学習塾・予備校などの教材を扱う会社を中心に営業をかけていきました」(江月社長)
 教材をターゲットにしたのは、インターネット全盛の時代になっても需要はなくならないという江月社長の読みがあった。受験対策のために使用する教材は紙の方がベースで数段便利。しかも大手が参入しづらい小ロット印刷である。ここに商機を見出したのだ。

body2-1.jpg単色・2色用のオフセット印刷機を導入して、ページものの印刷に特化した

顧客のひと言から生まれた「新商品・新技術」

 教材に特化していく中でトキワメディアサービスが躍進するきっかけになる技術も誕生した。2009年に開発した「剥がれスクラム製本」である。従来の学習教材用ドリルは、問題用紙を1枚ずつ剥して使用するタイプだった。しかし、これだと剥がした後に前後関係がわからないという欠点があった。
その難題を解決したのが「剥がれスクラム製本」である。ちなみに「スクラム」とは8ページや16ページなどの「まとまり」を指す業界用語だ。開発のきっかけは有名学習塾グループのスタッフのひと言だった。
 「1つの分野やテーマごとに8ページや16ページ単位で剥がせられればコストも削減できるし、生徒も使いやすくなって便利なんだけど」
 相談されたのは、現在、朝霞事業所副所長の佐藤あつ子さんだ。当時、入社2年目の新米営業担当者だった佐藤さんは、「挑戦してみます」と答えたものの、そう簡単にはいかなかった。いろいろ考えた挙句、糊に行きついた。糊の種類、糊をつける場所や量などを試行錯誤しながら細かく検証していった。
 「製本課に協力してもらい試作品ができるたびにお客様に剥がれ具合などを確認していただきました。しかも教材は種類によって厚みも違うので、どのくらいの厚みまで対応できるのかもテストしながら20回ぐらい試作品を作り、やっと完成しました。お客様からOKが出たときの感動や達成感はいまでも忘れません。技術を知らない故の怖いもの知らずという新米の強みが功を奏しました。」と当時を振り返る佐藤さん。実はこの製本は学習塾スタッフの手間の解消にもなっていた。同塾グループでは、教科ごとに製本されたドリルや解答用紙を作り、それらを1セットにして、大きなファイルに封入して生徒に配布するという方式も行っていたが、こうした作業はすべて手作業だった。当然、時間はかかり、人件費もばかにならない。こうした作業をする必要もなくなったのだ。

body3-1.jpg「剥がれスクラム製本」を世に送り出した佐藤あつ子さんは仕事と育児の両立も図る

商品開発は常に進化し続ける

 「剥がれスクラム」によって教材用ドリルが使いやすくなったうえに、大幅なコストダウンにつながったこの製本技術に注文が殺到。その後、「剥がれスクラム製本」の進化形である「剥がれ中綴じ製本・剥がれ無線製本」も開発。「剥がれスクラム製本」と同じように塾や予備校などの教材などで活用されている。
 そして現在、開発しているのが「だっちゃくん」とネーミングされた新しい製本技術である。これも佐藤さんの発案でスタートした商品開発である。こちらは剥がしたものを、再度、元通りにくっつけて一冊まるごと保管できるようにした製本である。
 「問題を解く時は問題用紙だけを剥がして使い、答え合わせの際には、解答用紙も剥がして問題用紙と並べて確認しますよね。つまり、どちらも剥がしてしまいますが、そのままだったらバラバラになってしまい、後で復習しようという時に面倒です。でも、この製本だったら元に戻せるので便利になります。これが世の中に出ることを考えるとワクワクします。」
 佐藤さんは教材以外でも手帳やレシピ本にも利用できると目論む。このように同社の商品開発はつねに進化し続けている。こうした実績の背景には、江月社長の事業領域を絞り込んだ経営判断が功を奏したのはいうまでもない。

body4-1.jpg独自の技術開発で成果を上げてきた朝霞事業所の製本現場

編集部メモ

トップダウンからボトムアップの組織に転換

 2005年に前身会社から社名変更して新たなスタートを切ったトキワメディアサービス。ちなみに、この社名は、紙にこだわらずに「メディア」全般を対象に、印刷物という製品のみならず、質の高い「サービス」を顧客に提供していくという姿勢を込めたものだ。
 設立から約11年が経過したが、これまでは江月社長の強力なリーダーシップで危機を脱出することに成功した。いわゆるトップダウンで改革を推進してきたのだ。しかし、経営も土台が出来、企業体質も大きく改善したトキワメディアサービスでは今、新たな改革に取り組んでいる。それが現場からの声を吸い上げて社内を改善していくボトムアップへの転換である。その代表的な取組が組織横断的な委員会の設置である。手はじめに各部門の担当者が意見交換をしながら品質の高い印刷物づくりに打ち込むための場として、「品質管理委員会」を開設した。また、外部講師を招聘して全工程を見直して標準化と仕掛りを持たない工程管理対応にて業務の効率化にも着手している。
 このように、社員の声を次の商品開発への原動力とする取組も着々と進んでいる。