<中小企業しごと魅力発信プロジェクト>

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多摩地区 ユーキャン株式会社

ユーキャン株式会社 様々な場所で活躍する産業用、業務用加湿器。ニッチな市場で躍進する中小メーカー

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様々な場所で活躍する産業用、業務用加湿器。ニッチな市場で躍進する中小メーカー

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多摩地区

ユーキャン株式会社

様々な場所で活躍する産業用、業務用加湿器。ニッチな市場で躍進する中小メーカー

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ユニークなビジネスストーリー
様々な場所で活躍する産業用、業務用加湿器。ニッチな市場で躍進する中小メーカー

 都内に約44万社あるといわれる中小企業の中には、独自の技術とニッチ戦略によって、堅実な経営を実践し、プライドいっぱいに仕事に取り組んでいるところが少なくない。八王子に本社を構え、業務用加湿器を製造するユーキャン株式会社もそのひとつだ。そのユニークな事業と同社の変遷を紹介する。

時代のすう勢を掴み、会社を興す

 業務用加湿器メーカーとして1981年に産声を上げた同社の安藤磐社長は、それまでスイスから輸入した加湿器を販売する代理店で営業マンをしていたという。売り込み先はもっぱら繊維工場だったという。
 「私が社会に出た1960年代は、まだ繊維工場が盛んで、方々を営業して回りました。繊維にとって乾燥は大敵で、糸切れや伸縮ムラを起こしますし、糸同士が擦れると静電気も発生したりと生産性に大きく影響するんですね。そこで必要不可欠となるのが加湿器というわけです」
 と振り返る安藤社長。なるほど、繊維産業といえば斜陽といわれて久しいが、戦前から日本は国策として繊維産業をバックアップしてきた。戦後も安価で高品質という評価は変わることなく、世界から求められ、外貨獲得の切り札として積極的に輸出され、我が国の基幹産業と崇められた。その勢いたるや、アメリカが輸入規制をかけたという逸話も残っているというから推して知るべしである。しかし、盛者必衰のならいは繊維業界にも忍び寄り、安藤社長が大阪に転勤した1970年代に入ると、繊維産業の景気は目に見えて後退していったという。
 「アジア諸国やブラジルなどの発展途上国が台頭してきたんです。繊維産業は労働集約型、つまり労働力に対する依存度が高いので、どうしても賃金の安い国に分があるのです。繊維の街といわれた大阪でさえも、次々に工場が消えていきました」
 加湿器の大きな市場の衰退に呆然とする安藤社長だったが、これが起業へのターニングポイントとなった。その頃、ちょうど台頭してきた業界があったのだ。スーパーマーケット業界である。
 「スーパーマーケットの黎明期でダイエーやイズミヤの店舗が全国に次々とオープンしていったんです。これはいけるんじゃないかと閃きましたね」
安藤社長が狙いをつけたのは、飛ぶように売れていた野菜などを陳列するショーケースだった。鮮度を保つのに最適との謳い文句でショーケースに取り付ける加湿器を販売してみた。これが受けた。
 安藤社長は勤めていた会社の社長にショーケース用加湿器の販売にシフトするべきだと直談判したが、中々首を縦に振らなかった。それでも諦めずに何度も意見したというが、動かない。こうなったら自分でやるしかない。そう腹をくくり、立ち上げたのが業務用加湿器メーカーのユーキャン株式会社というわけだ。最初はショーケース用加湿器の製造と販売がメインビジネスだったが、時代のニーズをいち早く嗅ぎ取りショーケースに勝機を見出した嗅覚を生かし、安藤社長は次々と新商品を開発し世に送り出していった。この独自のアイデアによる商品開発こそが、同社、最大の強みである。

body1-1.jpg同社の軌跡を語る安藤磐社長

様々な場所で活躍する加湿器

 加湿器というと、白い蒸気がもくもくと吹き出る、いわゆる、蒸気式の加湿器を思い浮かべる人が多いだろうが、その他にも吸水性の良い素材に水を染み込ませ、送風機によって水を気化させて湿度を上げる気化式や超音波で水を震わせて霧を噴出させる超音波式など、多種多様である。それぞれに適材適所というのもあって、蒸気加湿は水を高温にして蒸気化させるため無菌、無臭、その上、室温が下がらないためオフィスやインフルエンザ対策として病院や老人ホームでも設置されている。一方、気化式加湿や超音波加湿は、室温が低下する特性があるため、冷房と加湿が必要な場所、たとえば、巨大な冷蔵青果倉庫や、スーパーマーケットの青果冷蔵庫、あるいはキノコ栽培や生花店でも活用されるという。面白いのが備蓄米を保存しておく低温倉庫でも使われている点だ。湿度が低い場所に長期保存していると徐々に米の水分量が減っていき目減りしてしまうのだという。なるほど、量が少なければ微々たるものだが、例えば100万トンで1%でも水分が抜ければ1万トン減ってしまうというから、加湿器の働きは侮れない。 
 「他にも印刷所やワインセラーでも使われているんですよ。印刷所は紙が湿気を吸ってしまうので、ひどいと静電気が稲妻となって走ることもありますし、ワインセラーでは乾燥するとワインボトルのコルクが痩せて中のアルコールが抜けてしまうことがあるんです」
 と話すのは入社6年目、海外営業部の川井和子さんだ。海外の展示会に参加する際には、川井さんが中心となってプロジェクトを進めているという。

body2-1.jpg同社の海外事業を語る川井和子さん

同社の海外事業

 「以前は大手の製造業で働いていましたが、やりがいは段違いです。これから開かれる展示会のコンセプトや規模、費用などを下調べし、どの商品を打ち出すのかなど社内での意見をまとめ、パンフレットがなければそれも作ります。当然、現地にも行きますし、英語圏内であれば通訳なしでの商談をすることもあるんですよ」
 と話す川井さんが出品商品で気を配るのは、同業他社との差別化だ。
 「欧米では、地下の機械室で作った温水や冷水を空調機で熱交換し、ダクトを通して各部屋に温風や冷風を送るセントラル空調が主流なんです。この方式ですと、フロアごとの空調コントロールが難しいんです。もちろん、湿度も同じこと。ですから、天井設置型のものや据え置きタイプ、つまり部屋ごとに湿度をコントロールできて省エネ効果がある加湿器を提案するというのも一つの戦略ですね」
 海外営業部は、これからさらに強化していくという方針のもと人員も適宜増やしている。2015年12月入社の簗瀬健介さんもそのひとりだ。
 「独自技術を持っていることや海外で活躍できることなどを軸に就職活動をしていました。弊社は例えば、加湿器内の水がなくなると自動で消費電力を13分の1に減らして空焚きによる火災を防ぐ、PTC水中ヒーターなどの特許技術を多数保有しています。それに海外での拠点をこれから新設していくというので、私の希望に合致し、是が非でも入社したいと思いました」
 入社して2カ月の現在は、商品知識を身につけるための座学や製品を一から組み立てて加湿器への造詣を深める演習といった研修期間。ところが、研修中の身でありながらイタリアで開かれる展示会のプロジェクトに携わる予定だという。
 「こんなに早く抜擢してもらえるとは思っていませんでした。責任は重大ですがすぐに活躍の場を与えてくれるのが中小企業の良さだと実感しています」
 そう語る簗瀬さんの目はやる気に満ちている。日本が誇る高度な技術を世界に知らしめてくれるに違いない。

body3-1.jpg「すぐに活躍の場を与えてくれるのが、中小企業の良いところです」と話す簗瀬健介さん

編集部からのメッセージ

製品の素晴らしさに惹かれて入社を決意


 海外営業部の川井さんが入社を決意したきっかけは、同社の製品に触れたことだ。
 「面接のときに部屋に入った瞬間、加湿の効果を肌で実感したんです。以前勤めていた会社でも家庭用の加湿器を何台も置いていたんですが、それとの体感した空気の『湿』の違いに驚きました」
 製品の素晴らしさに惹かれて同社への志望度を高めたという川井さん。ネームバリューや会社規模だけでなく、その会社がつくっている製品を見るというのも就職活動では必要な視点だということを教えてくれた。

edit-1.jpg研修中の簗瀬健介さん。その目は真剣そのものだ
  • 社名:ユーキャン株式会社
  • 設立年・創業年:設立年 1981年
  • 資本金:3,400万円
  • 代表者名:代表取締役 安藤磐
  • 従業員数:46名(内、女性従業員数10名)
  • 所在地:193-0832 東京都八王子市散田町5-6-19
  • TEL:042-665-8846
  • URL:http://www.ucan.co.jp/