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城東地区 ヤオキン商事株式会社

ヤオキン商事株式会社 地域の幸せのために。社長の思いを受け継ぎ社員一丸でひた走る

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地域の幸せのために。社長の思いを受け継ぎ社員一丸でひた走る

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地域の幸せのために。社長の思いを受け継ぎ社員一丸でひた走る

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地域貢献ストーリー
地域の幸せのために。社長の思いを受け継ぎ社員一丸でひた走る

 活字離れが叫ばれるようになって久しい。危機感を抱いていた一人の経営者が、活字に親しみ、人間力を高めるために、地域に根ざす新規事業に乗り出した。

「地域のために貢献する」ことが事業の柱

 八百屋の金さんで「ヤオキン」。ヤオキン商事は、文字通り、野菜の流通を担う商社として、1905年(明治38年)に創業した。当時、社屋を取り囲む環境は大部分が農地。足立区には加平という地名があるが、それは同社の伊藤治光社長の先祖、伊藤嘉兵衛が江戸時代に開墾・治水したことに由来する地名で、一帯の地主でもあった伊藤家は、農家の生産した農産物を都心まで売りに行くことを生業としてきた。
 「今風にいえば、それも地域への貢献。地域住民にもっとも求められていたのが、それだったわけです」(伊藤治光社長)。
 その後、煮炊き用の薪を始めとした燃料を取り扱うなど、事業を拡大。戦後の人口急増で住宅不足が言われるようになると住宅産業に進出。高度経済成長でマイカーブームがやってくれば、自動車の修理・販売、ガソリンスタンドの運営と取扱事業を増やしていった。拡大の一途をたどる軌跡のなかで一貫してきたのが、地域のニーズに応えるという事業姿勢である。
 そして今、同社が力を注ぐのが図書館の運営である。2003年、小泉政権下で急速に進んだ公営組織の民営化への流れのなかで、地方自治体が管理するプールや図書館といった施設の運営を民間企業などが代行する指定管理者制度が施行された。伊藤社長は、足立区が区立図書館や地域学習センターの管理・運営者を募っているという話を耳にすると、いの一番に手を挙げた。
 「本を読む習慣のある家庭と読む習慣のない家庭では、子供のその後の成長に大きな差が出るという話を聞いて、近年の活字離れを大いに嘆いていたところだったんです。当社は創業以来ずっと地域の方々に喜んでいただくことを事業としてきました。いまや衣食も住も足りて、足りないものは何もないようにも見えますが、果たして人間力はどうでしょうか。地域の人々、とりわけ子供達が本に触れる機会を増やせたならば、どれだけ素敵なことかと、一も二もなく飛びついたわけです」
 もちろん初めは手探り状態。それでも少しずつ人員を増やし、実績とノウハウを蓄積。いまでは足立区内の図書館14館中6館と、併設する地域学習センター、さらに生涯学習センターの運営を任されるまでになった。

body1-1.jpg代々伝わる燃料屋の前掛け。2桁の局番が時代を物語る

民間ならでは自由な発想で本好きを増やしたい

 ユニークなアイデアも次々と打ち出している。足立区の公立小学校で使われている小学校4年生の国語の教科書には、「ぞろぞろ」という落語が載っているのを受け、落語家を招いて、同じ演目を一席演じてもらうというのを恒例行事にしたのもその一つ。年に一回のイベントだが、ふだん図書館を利用しない子供達もこの日ばかりはこぞってやってくるという。他にも、本の作者を招いて講演会を開いたり、「ビブリオバトル(書評合戦)」といって、みんなで集まっておすすめの本を紹介しあい、読みたくなった本を投票で決定するという催しも好評だ。
 「たとえすぐに本を読むことにならなくても、図書館を身近な場所と感じてくれるようになれば、いつか本に親しむ機会が訪れるかもしれません。自由な発想で図書館や学習センターを盛り上げていきたいですね」と伊藤社長は微笑む。

body2-1.jpg時代に合わせて求められる仕事にどんどん挑戦してきたと伊藤治光社長

地域を越えて事業を拡大

 昨年9月、同社はこの手法を足立区以外でも展開していければと、埼玉県戸田市にオープンした上戸田地域交流センターの運営に名乗りをあげた、同センターは、図書館のほか公民館、男女共同参画コーナーやカフェを併設した新しいかたちの公共施設。首尾よく運営を軌道に乗せた同社は、今年4月、埼玉県狭山市の狭山台図書館の運営も任された。
 館長に就任したのは、入社6年目の清水優子さん。大学卒業後、いくつかの仕事を経験したが、大学時代に「大切な場所」としてよく利用していた図書館で働きたいと、ヤオキン商事に入社した。
 「音楽大学の図書館の仕事もしたことがあったのですが、そこを利用するのは学生など限られた人だけ。公共の図書館は開かれた図書館。大学で専攻していたイギリスの児童文学を子供に聞かせたりできたらいいな」と、公共図書館を志望した。
 前職の経験もあって、司書業務に支障はなかったが、併設する学習センターの運営は、少し勝手が違う。入社前にそう説明されたが、「逆におもしろそう」と感じたという。足立区内の施設に勤務していたときは、新人ママ向けの赤ちゃんベビーマッサージ講座を担当し、好評を得た経験もある。
 「育児をしているとお母さんは孤独になりがちですよね。講座は、赤ちゃんの健康にも役立つし、交流の場にもなる。喜んでもらえてよかったです。館長として人を育てる立場になって、大変なことも増えましたが、これからもみんなが集える楽しい施設を作って、それを広げていけたら」と話す。地域の人々のニーズに応える“ヤオキニズム”は、着実に受け継がれているようだ。

body3-1.jpg大変だけど、その分やりがいも大きいと清水優子さん

後輩の目標になるかっこいい女性になりたい

 清水さんの一年先輩である林麻貴さんは、学校の図書室の仕事が楽しくなって勤めていた小学校を辞して図書館員になったのだという。ところが、転職早々に「これはしんどい」と気づかされたという。
 「おもしろいのはおもしろいのですが、これほど人との会話が少ないなんて、それまでの人生で経験したこともなくて」と笑う。
 それでも、生来の積極性からどんどん仕事を覚え、2年後には館長を任されるまでになった。
 「やはり心構えが変わりました。指定管理者というのは、自治体の課題を、自分の課題として一緒に取り組む存在。『地域がどうあるべきか』、社長がよく言っている言葉が、身にしみて感じられるようになりました」
 館長就任から1年、産休育休を経て昨年復帰。保育園の送り迎えもあり、現在は時間の融通のきく総務部に籍を置く。
 「子供が生まれて、まわりの人に本当に感謝する日々です。子供が熱を出したというと、同僚も上司も、『すぐ行ってあげて』と促してくれる。『すみません』と頭を下げると、『当たり前のことだから』と。みなさんに支えられて私がいる。感謝の気持ちを忘れず、きちんと成果を出して応えていきたいです」
 運営する施設が増えた2011年から新卒採用を始めたこともあり、同社の社員は半分以上が20代と若い。それも多くが女性だ。仕事と子育てに奔走する林さんは、後輩の女性たちの目標となっている。
 「きちんと両立して、『林さんみたいになりたい』と言われるようなかっこいい女性になりたい」と目を輝かせていた。

body4-1.jpg「アイデア次第で仕事はどんどん広がる。可能性にあふれた会社です」と語る林麻貴さん

編集部メモ

社会を変える熱い思い

 「私たちは地域力を上げるために公共施設をお借りしているんです」と伊藤社長はいう。その口から飛び出す言葉はどこを切り取っても地域への思いがその断面に現れる。 
 指定管理者制度はもともとがサービスを向上させつつも、経費は削減したいという行政の考え方からスタートしたもので、決して大きな利益が期待できるものでもない。それでもこの事業に力を入れるのは、その熱い思いがあればこそだ。
 「行政では対応しきれなくて、個人では手の出しようがない。そういった課題は、身近にいくつもあります。そんなときこそ、私たち民間企業の出番なんです」
 現在、担い手不足が叫ばれている学童保育にもなんとか協力できないかと思案を巡らせている。
 「私たちと同じような考えを持つ企業が増えれば、社会は変わる」と語気を強める。こういう企業があることは、足立区にとって幸せなことなのかもしれない。

  • 社名:ヤオキン商事株式会社
  • 設立年・創業年:設立年 1905年
  • 資本金:3,000万円
  • 代表者名:代表取締役社長 伊藤治光
  • 従業員数:590名(内、女性従業員数362名)
  • 所在地:120-0015 東京都足立区足立4-28-10
  • TEL:03-3889-3555
  • URL:http://www.yaokinsyouji.jp