<中小企業しごと魅力発信プロジェクト>

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城南地区 株式会社吉村

株式会社吉村 女性をはじめとする社員一人ひとりの力を信じ、日本茶の魅力を伝える

株式会社吉村

女性をはじめとする社員一人ひとりの力を信じ、日本茶の魅力を伝える

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城南地区

株式会社吉村

女性をはじめとする社員一人ひとりの力を信じ、日本茶の魅力を伝える

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企業価値向上ストーリー
女性をはじめとする社員一人ひとりの力を信じ、日本茶の魅力を伝える

 社員の主体性を尊重した組織作りを通してお茶の価値向上に尽力する吉村。
 子育てママらが発信する豊かなデザイン力で日本茶の魅力を訴求する。

日本茶の危機を救うのは“伝える力”

 日本にお茶が伝えられたのは平安時代の初期だといわれている。以来、1200年を超える長きにわたって、日本人にとって最も身近な飲み物として愛され続けてきた。
 小売店などに向けて日本茶の“パッケージ”を企画・製造する株式会社吉村の創業は1932年。実に85年もの歴史を積み重ね、現在、3代目の橋本久美子代表取締役社長が老舗の舵を取る。
 「創業時は紙のパッケージでしたが、1972年に2代目を継いだ父の代になると、世間では保存性の高いアルミパッケージが登場。それを機に、自社にグラビア印刷やラミネート加工ができる設備を整えていきました。これがお客様であるお茶屋さんに喜ばれ、顧客は右肩上がりに増え、今では日本茶のパッケージではトップシェアを獲得するに至りました」
 高度経済成長期からバブル経済、そしてその崩壊という激変する時代の中、日本人に欠かせないお茶で安定した業績を残してきた。
1990年代に入ると、当時まだ社長職にはなかった橋本社長は結婚して事業から抜けた。一般家庭の主婦として過ごしていく中で、ある異変に気付いた。
 「お友達をお茶に呼んだり、お呼ばれしたりしていたんですが、友人の所で出てくるのがコーヒーか紅茶が定番になっていることに気付いたんです。だんだん日本茶を飲む習慣がなくなってきているという現実に危機感を覚えましたね」
 そして2001年、先代の誘いもあって復職すると、まずは日本茶の魅力をどう伝えていくかの見直しに着手。自ら企画開発者としてパッケージの考案などを担当し、消費者の意見を聞く座談会なども開催するなど、市場の意見に耳を傾けた。その結果、日本茶の地位を向上させるためには既存の概念を打ち破る製品を作るしかないという一つの方向性を見出した。
 「試行錯誤してさくら色のパッケージを作ったところ、『そんな色は使えない』とお茶屋さんから提案を却下されてしまいました。それでも春をイメージするこのデザインは消費者に受け入れられるに違いないと熱心に説得して歩きました。その甲斐あってヒット商品となりました。この経験から伝える力の重要性を改めてかみしめましたね」(橋本社長)
 先代社長からのバトンタッチは11年前。社長に就任して着手したのが、少量多品種の印刷にも対応できるデジタル印刷機の導入。さらに、店頭POP・箱・お菓子など関連製品のパッケージ制作や日本茶のセールスプロモーション全般の立案に取り組むなど、果敢に可能性を開拓してきた。

body1-1.jpg季節感のある華やかなパッケージが、吉村ブランドの価値を高めている

働く女性を守ったのをきっかけに、社員の自主性を尊重する会社に生まれ変わる

 橋本社長自身、10年のブランクを経て会社に復帰した経験の持ち主。それだけに子育てをしながら働く女性の支援に積極的に取り組んできた。現在は子どもが小学3年生になるまで可能な時短勤務制度やつわり休暇など、女性のための様々な支援制度を導入している。
 子育て支援のロールモデルとなったのは、10年ほど前に出産による退職を選択した須永史子本社営業部課長補佐だった。頼りになるスタッフの戦線離脱が橋本社長を動かした。
 「当時は須永を企画部に抜擢してかなりの成果を出してくれていたのですが、出産退職という選択をしたことに衝撃を受けました。以来、ライフ・ワーク・バランスに関わる講座を受講するなどして会社のあり方を模索しました。そんな時、退職した須永が『一段落したらパートでレジ打ちでもしようか』と話しているのを聞いて、それならば職場復帰をしてほしいと声を掛けました。そうは言っても受入れ制度が整っていたわけではありません。それでも、彼女が求めているものを整えていけばいいのではないかと考えたんです」(橋本社長)
 早速実現に向けて動き出した橋本社長。まずは須永課長補佐のニーズなどを参考にして育児休暇や時短制度などを整備していった。だんだんと形は整っていき、後に続くワーキングママも徐々に増えていった。だが、その一方で橋本社長は他の社員から「ワーキングママばかりを優遇している」との印象を持たれかねないとも感じるようになった。そこで、社員有志が手を挙げて制度導入を進める「オレンジプロジェクト」を立ち上げた。小3までの時短やつわり休暇などは、このプロジェクトに参加した社員が主体的に作ったものだった。橋本社長は結果を聞くのみ。トップダウンではなく、ボトムアップの制度作りに取り組んだのである。おかげで理解ある社員も増えていくようになり、現在は子育て中の社員は17名に上るという。
 ボトムアップのスタイルは子育て支援以外にも波及しており、残業のない働き方から会議のスタイル、販売の手法などの改革を社員発信で行う文化が醸成された。
 「自分たちで考えて会社の仕組みを作っていくというのは非常に楽しいことですが、決して楽ではありません。失敗してしまうこともたくさんあります。しかし、失敗を恐れていては、何も物事は進みません。挑戦をしていく姿勢を貫いて失敗をしていくのは素敵なことだと思っています」(橋本社長)
 2017年夏には自社ビルをリニューアルするなど順調に同社は発展を遂げている。その原動力となったのは社員の自主性を尊重した改革であるのは間違いない。

body2-1.jpg「若い人や海外の皆さんに日本茶の魅力を伝えるなど、私たちにできることはまだまだたくさんあるはずです」と橋本久美子社長は意欲的に語る

社内の働くママのパイオニアとして、新しい課題に挑み続ける

 吉村における働く女性のパイオニアとなった須永課長補佐は、短大を卒業すると同時に入社。営業事務として受発注の処理やお客様とのコミュニケーションなどを担っていた。社歴7年を過ぎると企画推進部に異動。そこで出産のために退職したのだったが、橋本社長の声掛けに応えて約1年後に復帰した。
 「仕事と育児を両立する前例がなかったので、私も不安がなかったわけではありませんでしたが、会社がしっかりと支援してくれたのが心強かったですね。苦労したのは気持ち的な問題。忙しい中で私が早く帰ることが申し訳ないという思いに苛まれましたね。それを打破するには、短い時間の中でも集中して質の高い仕事をしていくしかないと気持ちを切り替えたんです」
 須永課長補佐がきっかけとなった女性の育児支援制度への取組は、同社のライフ・ワーク・バランス全般の向上に繋がった。育児や介護などで退職した人の職場復帰を促す「MO(もどっておいで)制度」など、社員発案で新しい動きがどんどんスタートしている。社員のライフイベントに合わせて会社を変えていけばいい。そんな柔軟な企業風土が同社には出来上がっている。
 働きやすさに後押しされた須永課長補佐は、企画推進部時代には別メーカーとの協業プロモーションを立ち上げるなど、斬新なアイデアを駆使して同社のブランド価値向上に貢献した。
 2016年秋には本社営業部に異動。ジョブローテーションをして、一人が複数の技能を持つ多能工を育てようという会社の新たな方針を受けた“異動一期生”となった。役割は営業事務であり、実質的な責任者として部下たちをまとめ上げているという。
 「営業事務の経験はありますが、何年も前のことですし、リーダー的な役割はまた違った形の仕事の取り組み方が必要です。初心に帰って勉強をしています」
 来期は営業事務を営業や企画推進と同じ一つの部署に独立させ、将来的には全国横断の組織に格上げする計画も持ち上がっているという。須永課長補佐の役割はますます重要なものとなる。

body3-1.jpg須永史子課長補佐は現在、小学生の二人のお子さんを育てながら仕事をしている。

入社間もない若手にもどんどんチャンスを与える

 企画推進部の小城東さんは、2016年に新卒入社した若手社員である。大学時代に消費行動心理学を学び、広告会社やメーカーの企画職を目指していた。日本茶のパッケージなどを企画する企画推進部は理想的な部署だったが、1年目の秋にいきなり大掛かりな案件を任せられることになり、非常に驚いたという。
 「海外向けのお茶に付ける“しおり”を私が作ることになったんです。最初は何をしたらいいのか全く分からず、戸惑ってばかりでした。学校でプロモーションを学んだ経験があったものの、プロの現場では通用しないことばかり。先輩やデザイナーに話を聞きながら、何とか形にしていきました」
 チャレンジを重ねていくうちに次第に自信を深めていき、「マイパケラペルブリント(MLP)」というサービスのリニューアル案件では、自ら手を挙げて挑戦したと話す。MLPとはお茶屋さんに設置したプリンターのことで、消費者がオリジナルのパッケージを作れるというサービス。小城さんは、リニューアル後の新ブランド名を「イグアナくん」に変更し、ホームページも刷新するなど、プロジェクトを進めていった。
 「上司も信頼して任せてくれるので、やりがいは非常に大きいですね。これからも失敗を恐れず新しいことに挑み続けていきたいですね」
 将来的には食品などの新市場開拓も手掛けたいと小城さん。近年、お菓子や乾物、米などのパッケージにも進出している同社だけに、夢がかなうチャンスは十分にある。こうした社員の前向きな姿勢が、同社の可能性を無限に広げていく。

body4-1.jpg「内定をもらったらゴールではありません。会社に入ってからが始まりだということを忘れないでください」と小城東さん

編集部メモ

「社員が主役」を徹底する会社

 同社では、女性社員の登用を積極的に進めてきたが、面白い現象が起きているという。子どもが小学3年生まで時短勤務ができるにもかかわらず、2017年夏現在、時短勤務で働いている子育てママは17名中2名のみ。残り全員がフルタイムで働いているのである。小学生の二人の子どもを抱えている須永課長補佐も同様だ。
 ワーキングママのサポート態勢を整えたことで、こうした事情に対する理解が進み、フルタイムで働ける社員が増えるという結果に繋がっているのである。
 また、社員発信の文化が根付く会社でもあり、2017年6月の本社のリニューアルは、社員有志の会議によって改修が検討された。企画と営業の垣根を取ったフリーアドレスのオフィス環境、キッチンなどを兼ね備えたラボ、撮影スペースなどを設置するといったアイデアは社員からの発信だという。会社としても億単位の資金が必要になったというが、社員の声を尊重したいからこそ投資するに至った。まさに“社員が主役”の会社なのである。

edit-1.jpg社内の風通しの良さは抜群。若い力も自分らしく働くことができている

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body4-1.jpg2021年度 vol.1 製造業