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女性社長インタビュー2:
社長は、会社の女将。
みんなが好きなことで働けるよう切り盛りする毎日です。

株式会社ナビット 社長 福井 泰代さん
現在のお仕事

株式会社ナビット 社長

お名前

福井 泰代さんふくいやすよ

「特許をとってみたら」主婦仲間にすすめられて

きっかけは「おしゃぶり」だった。
長女の幼稚園の保護者会に生まれて間もない長男を連れて出席した。そこで泣き出されたのでは迷惑になるとおしゃぶりを持っていくことにした。しかし、生まれたばかりの子どもはおしゃぶりをずっとくわえていられない。そこでおしゃぶりが落っこちないよう横の空気穴にひもを通し、左右の耳にかけられるように工夫した。福井社長にすれば、いつものひらめき、暮らしの知恵の一つにすぎなかった。
ところが、ある母親に「おもしろい、特許をとってみたら」と、思いがけない言葉を投げかけられた。
「こんなちょっとしたことで特許なんてピンとこなかったのですが、もしも、いつものひらめきが世の中で役立つならと気になって、本屋で立ち読みしてみたんです。
すると町の発明家を応援する団体、発明学会というのがあると知り、通信教育で半年間勉強して、アイデアを企業に売り込むということを始めました」

社長になったきっかけを振り返る福井泰代社長

不便だと思ったらビジネスチャンスがある

1年ほど思いつくままにアイデアを企業に売り込んでいたところ、人生を大きく変えるアイデアに出合う。
ある日、ベビーカーを押して出かけた福井社長。JR西日暮里駅で乗り換えようとエレベーターを探し求めてホームをウロウロ。夏の暑い盛りのことで、まだ乳幼児だった長男はぐったりしてしまった。「どこにエレベーターがあるか、最初からわかっていたら」心に浮かんだ不便さを福井社長は見逃さなかった。 「発明学会で最初に習ったのが『不便だなと思ったらビジネスチャンスがあると思え』という教訓。そこでそんなものかと片付けてしまわず、どうすればいいか考えるのが発明家なんです」 さっそく、地下鉄の駅の調査を開始。
当時250あった駅をすべて調べあげるのに子どもの面倒をサポートしてもらえる夫が在宅する土日を使い、5ヶ月かかった。
それだけでも大変な努力だが、休む間もなく売り込みを開始。出版社を中心に約70社を回った。
話を聞いてくれたのは、わずか3社。そのうちの一社が半年の契約で約20万円を支払ってくれたが、とても割に合わない。さらに売り込みを続け、ソフトウェア、手帳の付録としての採用が決まった。
だが、アイデアはいつか真似されてしまう。どうしたら真似されないかと考えたすえにたどりついたのが、「スタンダードになること」。鉄道会社に採用してもらって毎日駅でだれもが見るものになってしまえば、真似をしてマップを作っても無価値になってしまう。
営団地下鉄(現東京メトロ)にかけあった。しかし、簡単には首を縦に振ってはくれなかった。

あきらめないことで、風向きが好転。サービスも拡大

そこであきらめないところが、福井社長が並の発明家と違うところだ。日をおかず、部署を変え、切り口を変えて売り込みをかけた。
その間、会社化し、人も雇った。 「人を雇ったことは、大きな転機でした。人が増えれば無責任に辞めることはできません。発明家になるといったときは、主婦の息抜き程度ならと黙認してくれた夫でしたが、会社化するときは、さすがに猛反対されました。『1年間やってみて芽がでなければ、すっぱり諦める』という条件つきで、ようやく認めてもらいましたが、資金援助はなし。私のへそくりと母に出資してもらったお金でなんとか立ち上げました」 福井社長の実家は、箱根の旅館。母親はその女将だ。「働かざるもの食うべからず」が家訓で、両親は朝も夜もなく働いていた。
「『旅館業、サービス業はろうそく』が両親の口癖でした。自分の身を削って人を照らせという意味です。みんなが遊んでいるときに働くのが当然のことで、普通の家とはまったく違う環境でしたね」
その血を受け継いだ福井社長もまた休みなしに働いた。足を棒にして売り込む一方で、マップの改良にも労力を惜しまなかった。
売り込み開始から2年、営団地下鉄の総裁が代わり、お客様目線のサービスを打ち出したのを受けて一気に風向きが変わった。福井社長のアイデアはお客様目線のサービスそのものとあっさりと採用され、続けてJRでの採用も決まった。
以後、駅や空港の案内図、カーナビやマップサービス用にデータを販売するなど、同事業を拡充。さらに、のりかえ便利マップを作成する過程で、外部のスタッフを有効に使うことのメリットに気づいた。すぐさま在宅ワーカーを組織して、マンパワーを生かした調査で付加価値のあるサービスを次々に “発明”した。
毎朝届く新聞折り込みチラシの内容をいち早く入力し、特売情報をサイトで閲覧できるようにした「毎日特売」。日々公告される入札案件をアップして興味を持つ企業に届ける「入札なう」など、ユーザーから高い評価を受けているサービスは多い。地域特派員の数は全国で5万人以上。その多くは、かつての福井社長と同じように、子どもを抱えなかなか働く場所に恵まれない主婦たちだ。
「数字を正確に入力するのが上手だったり、写真を撮るのが好きだったり、一人ひとり好きなこと、得意なことがあって、それを生かすことができれば、とてもいい仕事ができます。登録者からは、何か仕事ないですかとせっつかれることもあって、どんどん仕事を開拓していかないといけません」

好きなことを仕事にできるのがいちばん幸せ

のりかえ便利マップのアイデアを思いついてから、現在ではスタッフは64人にまで増えた。子育てを抱えながらここまで仕事を続けてこられたのは、生来の働き者気質もあるが、「好きだったから」が大きな支えになったという。 「発明は、やっていてとてもおもしろいですし、だからこそ歯を食いしばってがんばってこられた。家事育児ではほどほどのことしかできませんでしたが、私が楽しそうに働いている姿を見ていたから、子どもたちも素直に育ってくれたのだと思っています」 社員や在宅ワーカーたちにも、いつも好きなことをやってほしいといい、得意分野を持つ社員の仕事には口を出すことなく、完全に任せてしまうという。
「最近よく思うのは、社長業も女将も同じということ。違うのは、着物を着るか洋服を着るかくらいでしょうか。人にできることは人に任せ、専門的な知識や技術を持つ人のすることに口を出さない。そして、全体をコントロールしてうまく切り盛りする。生まれ変わっても、私は同じことをしているでしょうね」

風通しの良い社風のため社内は笑顔が絶えない