<中小企業しごと魅力発信プロジェクト>

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女性社長インタビュー1:
「社長、できました!」
そんな社員の報告を毎日聞くことができる、私は幸せです。

株式会社平田精機 社長 藤元 佳子さん
現在のお仕事

株式会社平田精機 社長

お名前

藤元 佳子さんふじもとけいこ

「早く社長になりなさい」と背中を押されて

平田精機は、半導体製造装置部品・精密機器部品などの機械加工を手掛けて40年になる。藤元佳子現社長が創業者である父・平田松三郎先代社長から会社を引き継いだのは7年前のことだった。
「20代からずっと平田精機で働いてきました。いろいろなことがありましたが、仕事が大好きでしたし、仕事を辞めようと思ったことはありません。でも、社長になるなんてことは一度も考えたことがありませんでした。最近でこそ女性社長というのも珍しくありませんけど、かつては女性の立場が今とは違っていましたから」
そう語る佳子社長は専務として長年、社長をサポートしてきた、いわば、同社の生き字引。先代が80歳を越えると、周囲も後継者が心配になるというもの。次期社長は会社の歴史や業務を知り尽くしている佳子社長しかいないと、社員もまた、得意先も納得したのは想像に難くない。

「社長になるなんてことは考えてもいませんでしたし、自信もなかった」
と語る佳子社長の背中を押したのが、得意先の方の言葉だった。
「いつになったら社長になるの?早くなりなさい」
「こんな私が社長になっていいんですか?」
そう佳子社長は思わず聞き返したという。
「何、言ってるんだ。ためらうことは何もないよ。応援するから」
とその方。佳子社長は、その日のうちに先代にその話を切り出した。
「ずっと、そう言ってくれるのを待ってたよ」
先代は佳子社長の申し出にほっとした表情でそう応えたという。

株式会社平田精機 社長 藤元 佳子さん 社長に就任するまでの経緯を語る藤元佳子社長

就任直後にリーマンショックに見舞われる

先代は佳子社長の言葉を待ち望んでいたに違いない。その悲願が叶う形となって社長に就任した佳子社長だったが、運命のいたずらとでもいうべきか、就任したその矢先、不運に見舞われた。リーマンショックである。長年かけて築いてきた得意先との信頼があったが、それでも前代未聞といわれる不況の波は、過去経験したことのないほど経営を圧迫した。そんな窮地をなんとか乗り切ろうと社員みんなで協力した日々が、ものづくりの原点を再認識させてくれたと佳子社長は振り返る。
「それまでは、まじめに仕事をしていれば、このまま会社は成長するだろう、そう思っていましたが、リーマンショックを経験して、世の中何があるかわからないと思うようになりました。それならば、やりたいことは今のうちにやらなければと思うようになり、決して余裕があったわけではないのですが、先行投資として最新の加工機械を購入しました」
競争に勝ち抜くためにはときに英断も必要と、そのとき、佳子社長は実感したのだった。

お客様に選ばれる存在でいるために

経営者として佳子社長が心がけていることは、「即断、即決」である。得意先に足を運ぶこともあるが、スピードが求められる今の時代、「こんなものできる?」との依頼が図面付きでメールで飛んでくる。その返事を長々と待たせていては、せっかくの依頼を逃してしまうことにもなりかねない。
加えて、ものづくりの世界も変化が激しい。この間までは、多少の傷があっても許容範囲とされた製品でも、ある日からは傷があっては困るというように得意先の方針が変わることもよくある。
「お客様にずっとお客様でいてもらうためには、お客様から選ばれる存在でなければなりません。そのためには、お客様に合わせて変化して行くことが重要だと思っています」
先代の経営理念は「忍耐」「万事困難は自分自身にあり」「社員を大事にすること」。その理念を引き継いで、佳子社長は経営に当たっている。佳子社長が平田精機に務めるようになって25年になる。仕事が大好きで、ほとんど会社を休んだことはないという。
「出産のときは、会社で仕事をしていたときに破水して、そのまま病院に行ったこともありました。仕事で疲れて帰っても、娘たちの笑顔を見ると疲れが吹き飛びましたし、仕事を続ける上でも子どもたちは私の支えにもなってくれました」
と母の顔ものぞかせる。

社員の報告を聞くのが何よりの喜び

佳子社長が工場を歩いていると、社員たちが報告をするためにあちこちから声をかけてくる。
「納期どおり、無事、納品完了しました」
これはよくある話だが、ときには、こんな報告もあがってくる。
「前回と違うやり方で加工してみたら、もっと早くきれいに仕上がりました」
「新しい加工の仕方でやってみたら、得意先の要望に沿うものができました」
そんな社員たちの顔は、みな生き生きとしていると佳子社長は頬を緩ます。
精密部品の加工プロセスは何重にもなる。作るべき仕上がりは見えていても、そこに辿りつくプロセスはいく通りもある。社員たちは、それぞれにそのプロセスに創意工夫を施し、アプローチする。それがうまくいくこともあれば、予想したほどの効果が出ないこともある。そこに、ものづくりの醍醐味がある。
「もちろん、楽しいことばかりじゃないですし、苦しいこともたくさんあります。それを社員たちが一生懸命工夫をして、乗り越えて、それをうれしそうに報告してくれるんです。そんな報告を毎日のように聞けるのが何より私の幸せです」

社員の報告を聞くのが何よりの喜び 社内は和気あいあいとした雰囲気に包まれている