東京カイシャハッケン伝!

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「江戸っ子1号」プロジェクト

発端 江戸っ子1号に込められた思い

負の雰囲気を変えたい!中小企業の底力を見せるため、深海探査機を作ろう

「若い人たちに、中小企業の底力を見せてやろう」。杉野ゴム化学工業所の杉野行雄代表取締役社長がそのように考え始めたのは10年ほど前のことだった。折しも、国内の不況によって仕事量は減少、新興国の製造業が台頭してきたことで価格競争も激しくなってきた。いつしか、モノづくりを支えてきた中小企業の仲間たちの間では「何をやってもうまくいかない……」と諦めに似た雰囲気が漂うようになっていた。
「このままでは、若者がモノづくりに魅力を感じなくなり、技術を継承できなくなる恐れすらある」。そのような問題意識を持った杉野社長は、世間に注目されるようなことを中小企業がやってみせなくてはいけないと考えた。

株式会社杉野ゴム化学工業所
代表取締役社長 杉野行雄氏

「何をやれば注目されるのかとずっと考えていました。そんなとき、ある雑誌を手に取ったら「日本の海底には、メタンハイドレートやレアアースなど、すごい資源が眠っている」という記事を見つけました。胸が躍りましたね。
日本には大きな可能性を秘める海底資源がある。それなのに、事業として発掘しようとする企業はありません。大企業もやっていないわけですから、われわれ中小企業が深海探査機などの海底資源を発掘するのに必要な装置を作ることができれば、非常に大きな好機をつかめるのではないかと考えたのです」(杉野社長)

しかし、その考えを周囲に相談しても、「無茶だ」「そんな大それたこと、できはしない」と相手にされなかった。
悔しいが、どうにもならないのか――。そんな思いも脳裏をよぎり始めた2009年1月、「東大阪の中小企業が作った人工衛星「まいど1号」の打ち上げが成功した」とのニュースが飛び込んできた。

「そのニュースを境に空気が変わりましたね。「杉野の言っていたことも、実現できるかもしれないな」と仲間たちが耳を傾けてくれるようになったのです」(杉野社長)

勇気付けられた杉野社長は、東京東信用金庫の支店長と話をする機会があったとき、試しに「深海探査機を作ってみたい」と打ち明けてみた。すると「中小企業を取り巻く沈んだ雰囲気を吹き飛ばすには、うってつけの考えだ!」と支店長も大いに賛同。そして支店長から「この人に相談してみたらどうか」と紹介されたのが、同行・中小企業応援センターの桂川正巳コーディネーターだった。

大学・JAMSTECも初期から参画。つないだのは信用金庫のコーディネーター

桂川コーディネーターは中小企業から寄せられる技術的な相談に応える専門家。同行は東京海洋大学や芝浦工業大学と提携し、毎月1回、中小企業の悩みを解決する方法を大学と相談する会議を開いており、桂川氏は芝浦工業大学担当のコーディネーターを務めていた。
杉野社長から話を聞いた桂川氏は、深海に関わることだからと東京海洋大学の担当コーディネーターにも相談。興味を持ってもらい、芝浦工業大学と東京海洋大学の2校から協力を取り付けることができた。
以前は自身も動燃事業団の技術者だった桂川氏。深海と言えば技術者時代の仲間が海洋研究開発機構(JAMSTEC)にもいることを思い出し、連絡を取ってみた。すると、JAMSTECの担当者も乗り気に。
産・学・官・金が力を合わせ、まずは勉強会を開いて、実現方法を検討してみようという話になった。

東京東信用金庫
中小企業応援センターコーディネーター
江戸っ子1号プロジェクト推進委員会
事務局 桂川正巳氏

「「モノづくりの上流」に携わりたい」。江戸っ子1号プロジェクトに参加した理由

杉野ゴム化学工業所と共に、初期から江戸っ子1号のプロジェクトに参加していたのが板金・プレス加工を手掛ける浜野製作所だ。同社が参加したきっかけも、桂川氏からの誘いだった。 「当社は墨田区・早稲田大学などとの産学官連携で、電気自動車「HOKUSAI」を開発した実績がありました。東京東信用金庫が主催する若手経営者の会の会長を私が務めていたこともあって、お声掛けいただけたのでしょう」(浜野製作所・浜野慶一代表取締役)
江戸っ子1号に参加する以前から、産学官の取り組みで実績があった浜野製作所。産学官の取り組みになぜ積極的なのか、浜野社長は次のように説明している。
「普通にモノづくりをするなら、東京都は日本で一番適していない地域なのかもしれないと思っています。人件費も高く、土地代も高い。周囲が住宅街に囲まれていることが多く、騒音・振動にも気を配らないといけません。

株式会社浜野製作所
代表取締役 浜野慶一氏

そんな東京都でモノづくりを続けるには、「東京でしかできないこと」を考える必要があります。それは何かと考えてみたら、「世界的に見ても研究機関が密集しているところ」ではないかと気が付きました。
東京にある最大の資源である大学などの研究機関との関係を深め、最先端の製品開発にたずさわる「モノづくりの上流」での経験を積んでいくことができれば、当社にとって何よりの資産になります。
江戸っ子1号プロジェクトへの参加を打診いただいたときには、「モノづくりの上流」にたずさわるため、絶対に参加するべきだと思いましたね」(浜野社長)