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「江戸っ子1号」プロジェクト

展望 中小企業の底力を見せつけた江戸っ子1号がもたらしたもの

深海探査に成功したことで、世界からも注目。次の挑戦は「事業化」か

2009年1月の人工衛星「まいど1号」の打ち上げ成功に勇気付けられて動き始めた江戸っ子1号プロジェクト。2~3年かけて完成形の構想を練り、開発に必要な技術・知識を持つ企業・研究者を集め、実際の探査機開発には2012年に入ってから着手した。2012年9月には試作機が完成。そこから1年ほどかけて試験を重ねて迎えた2013年11月22日、江戸っ子1号は日本海溝に沈められ、水深7800メートルという超深海で3Dハイビジョンによるビデオ撮影に成功。撮影後も深海に沈めた探査機3機を無事に全機回収して、実用に十分耐えられると証明してみせた。
深海探査に成功したことで「中小企業の底力を見せつけたい」という杉野社長の思いをかなえることはできた。しかし、「底力を見せつける」ことだけが目的だったわけではない。深海探査機を作り上げたことで杉野社長が思い描いていたように「非常に大きな好機」がやってきて、深海の研究者などに向けて深海探査機を本格的に売り出せるようになるのだろうか。
「深海探査に成功したことで、江戸っ子1号には大きな注目が集まっています。8000メートル近い深海を安価・手軽に探査できる可能性を示したことで、ビジネスでのさまざまな活用方法も検討されているようです。実際、世界的に有名な企業からも問い合わせが入ってきていますし、江戸っ子1号に関する活動を報告した会にも、100人を超える人が外部から集まりました。
成功したことに喜ぶばかりではなく、江戸っ子1号の完成度を高めて、何とか事業化していくことが次の課題になるでしょう。魚が餌に食らいつく瞬間を研究して、もっと魚が捕れる網・仕掛けを作って漁師さんに役立ててもらうなど、江戸っ子1号はさまざまな可能性を秘めているはずですから」(桂川コーディネーター)

事業化の可能性以外にも。江戸っ子1号の成功で手にしたもの

また事業化以外にも、江戸っ子1号プロジェクトに参加した中小企業には、さまざまな形で好ましい影響が生まれてきている。
例えば、メディアで大々的に取り上げられたことで、江戸っ子1号に携わった企業の知名度が上がった。杉野ゴム化学工業所へ寄せられる技術相談の件数も増えていると杉野社長は言う。「今まで当社のことをご存じなかった企業様からの問い合わせも入ってきました。その中には、技術顧問契約を締結して売上につながった案件もあります」
浜野製作所の浜野社長は、江戸っ子1号の開発を通じて得られた経験こそが、何よりの資産になると語っている。
「ふだんの仕事で任されているモノづくりは、大企業から仕事を依頼され、決められた図面どおりに作る仕事です。しかし江戸っ子1号のプロジェクトでは、モノづくりの上流の仕事を経験できました。設計は主に大学の先生方にお任せはしましたが、設計が固まるまでにわれわれなりの意見を伝える経験も積めましたし、製品開発の流れ、設計や試験の進め方も分かってきました。江戸っ子1号で実績を残したことで、今後はもっとモノづくりの上流の仕事に関わる機会が増えてきてほしいと期待しています。大企業からモノづくりの下流の仕事を任されるにしても、上流での経験を生かして対等に意見交換・改善提案をしていくことで、より価値の高い仕事ができるようになるはずです」

■事業化するとは
江戸っ子1号は深海探査に成功したものの、すぐに企業・研究機関などに販売できるわけではない。 まずはJAMSTECや大学の力を借りなくても、企業だけで探査機を製造できる体制を整え、探査時に見つかった改善点を直していかなくてはいけない。 さらに複数の企業が関わっているため、営業活動はどうするか、受注から納品までの流れ・役割分担はどうするか、納品後の修理などのサポートはどうするか、といった点も決めていく必要がある。 そうした課題を乗り越えて、江戸っ子シリーズの探査機による売上で組織・雇用を維持できるようになって、初めて江戸っ子1号のプロジェクトが事業として成功したといえるようになる。